「風吹かず」も糸口見える 衆院長崎3区補選 立民・山田氏の勝利で幕 <次なる決戦へ・上>  

 28日投開票が行われた衆院長崎3区補欠選挙は立憲民主党前職の山田勝彦氏(44)の勝利で幕を閉じた。県内の国政選挙で初めて自民党が不戦敗となり、投票率は戦後最低を記録。年内の衆院解散もささやかれる中、野党一騎打ちは「次なる決戦」に何をもたらすのか。異例ずくめの選挙戦を振り返り、来たる総選挙への影響を探った。
 議席獲得の喜びから一夜明けた29日、報道陣の前に姿を現した山田氏に笑顔は少なかった。「政治不信の極み」「民主主義が機能しない状況に陥る」。強い言葉で表現したのは、35.45%まで落ち込んだ投票率への危機感だ。
 「政治とカネ」問題が全国を騒がせる中、自民派閥の政治資金パーティーを巡る事件に端を発した同補選は「民主主義のバロメーター」(立民幹部)。党本部は次期総選挙を見据え、党勢浮揚へ圧勝を目指した。小選挙区「10増10減」の区割り変更により、次は新2区で出馬する山田氏。選挙中に大村入りした安住淳国対委員長は「今回いい数字で勝つと(新2区の)島原・諫早で一大決戦に臨める」と発破をかけた。
 だが、山田氏の得票は5万3381票で前回より約2千票減らした。低投票率の中で健闘したとの見方もあるが、労組関係者は「2009年の政権交代選挙と比べ、風は吹いていない」とうなだれる。
 山田氏は「自民の金権政治に不満は強い一方、立民への期待値を大きなところへ上げきれなかった」と吐露。従来自民を支援してきた人から一定の支持を得たとの感触はあったものの、相当数の自民支持層が棄権したとの見立ても示した。
 自治体別で見ると本土と離島で傾向が分かれた。無党派層が多いとされる大村市など本土5市町では得票が減少。複数の陣営関係者は「政治への諦め」や「立民への期待のなさ」が表出したと分析する。
 一方、自民が強固な地盤としてきた離島5市町では軒並み票を伸ばした。3区内の自民関係者は「政治とカネより関心は地域課題」と、離島振興を強調した山田氏に票が流れたとみる。新2区の壱岐・対馬では前回より3千票以上も増加し、陣営は総選挙に向けた手応えをつかんだ。
 山田氏に「惨敗した」と語る、日本維新の会新人の井上翔一朗氏(40)も「総選挙に向け糧になった」。地方組織の脆弱(ぜいじゃく)さや知名度不足、準備期間の短さもあり大差をつけられたが、出馬予定の新3区に編入される佐世保市南部では山田氏に約700票差まで迫った。
 党本部から送り込まれた運動員は選挙が終わり地元へ引き揚げた。井上氏は総選挙へ向け「組織の立ち上げは急務」と認める。29日朝には早速、早岐地区でつじ立ちし、再起を誓った。
 補選は全国的な注目を集め、両氏とも「顔と名前が広く知られた」(山田陣営関係者)。保守票や浮動票の受け皿になったとは言い難いが、自民の牙城を崩す糸口も見えた。山田氏は「党以上に政治家自身が地域課題とどう向き合うか」が重要と述べ、口元を引き締めた。「今回当選したからといって喜んでいるわけにはいかない」

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