治安が良く、夜中に女性ひとりで出歩ける国といわれる日本。もちろん100%安全とはいえませんが、都心部では終電後にひとりで帰宅する女性を見かけることがままあります。海外旅行が増えるシーズンが近づいてきました。こうした日本の常識は、海外でも通じるのでしょうか。ひょんなことからイギリスに移住、就職し、海外在住歴7年を超えたMoyoさんが外国暮らしのリアルを綴るこの連載。28回目は、イギリスで社会問題になった性暴力や殺人事件についてです。
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大好きな夜道の散歩も危険
日本に住んでいたときは深夜に終電で帰り、タクシー代をケチって最寄り駅から自宅まで20分ほど歩いて帰ることもありました。幸い、怖い思いをしたことは一度もありませんが、いくら治安が良い日本とはいえ、今思えばけっこう無茶なことをしていたと思います。
では、ロンドンで同じことをするとどうなるかといえば、危険がつきものと考えたほうがいいかもしれません。
私がロンドンを好きなポイントとして、どこにでも歩いて行けることが挙げられます。バスやチューブ(ロンドン地下鉄)を使えばすぐに目的地へ到着しますが、あえて変わりゆく景色を見ながら歩く(たまには自転車で)のが大好きでした。お昼ももちろんですが、夜はよりいっそう風情があり、ただ歩くだけでも十分楽しめます。
地図を見なくても、方角だけ考えて歩けば、いつしか知っているところに着きます。南部で遊んだあとにテムズ川を北上して、2~3時間かけて自宅まで歩いたことも。
お店などが立ち並ぶ繁華街やメイン道路を歩くときは、人出や車通りがありますし、そこまで心配しなくていいかもしれません。問題は住宅街。基本的にどこも街灯が少なく、仄暗い夜道になります。自宅まであと少しと思っても、物陰からいきなり人が出てきたら怖いなと思いながら歩いてました。
夜、飲んだあとに帰宅していた友人は、繁華街を歩いていたにもかかわらずスリの被害に遭いそうになりました。背後に違和感を覚えて振り返ってみると、犯人がバックパックを開けて中を物色していたそうです。
女性を狙った殺傷事件の多発
また一時期、イギリス社会を震撼させたのが女性を狙った犯罪です。2021年、友人宅から自宅までの夜道を歩いていたサラ・エヴァラードさんが行方不明になり、のちに遺体で発見される事件がありました。サラさんは帰宅途中に拉致され、強姦されたあとに殺害されたのです。
しかも、その犯人はロンドン警視庁の現職警察官。前科があったにもかかわらず警察官の仕事に従事していたことで、イギリス市民の怒りが沸き起こり、抗議の声が上がる一大ムーブメントとなりました。
このときはまだコロナ禍が続いていて、頻繁には外出していませんでした。しかし、このようなショッキングな事件が起こり、私も友人たちと遊んだあとは無事に自宅に到着したか伝え合ったり、道中で不安になった場合は電話し合うなどするように。
では、できる限り徒歩を避けて、チューブやバスに乗れば少しは安全なの? と思いますが、そうとも一概には言えません。とくに、夜にダブルデッカーバスに乗るときは2階に上がらず、1階に座りましょう。CCTV(防犯カメラ)などがついていますが、2階は運転手含め大多数の視界に入らないため、何か危険があったときに逃げ場がありません。
多発するドリンク・スパイキング
気をつけたい暴力事件は、ほかにもあります。バーやナイトクラブで出会った人の飲み物に、ドラッグを入れて意識不明に陥れる「ドリンク・スパイキング」も最近広まっている暴力犯罪のひとつ。強姦、そして殺害に至る事件も起きています。
また、新たに出てきたのが体に注射を打つ「ニードル・スパイキング」。どちらも女性、男性かかわらず被害者になっており、本人が気づかないうちにドラッグを入れられたり、注射を打たれたりしています。トイレに立ったときや、注文で少し席をはずすときなどに入れられることが多いそう。
もちろん、デートする間柄であっても注意しましょう。デートアプリなどで知り合った人と初めてデートするときなど、席を立ったあとは新しい飲み物をオーダーする、常に飲み物から目を離さないなど対策することが必要です。
自分でできる対策は?
ここまでいろいろな事例を紹介してきましたが、実際に身近な友人のエピソードを直接聞いたり、自分自身が実際に経験したりすることで、意識や防犯対策がどんどんシャープになっていった気がします。
なかなか自分のこととして考えるのが難しいトピックですし、いくら対策していても自分で対処できないこともあります。それでも、とにかく危険のタネになる行動を取らないこと。信頼できる友人などと助け合うこと。直観や、肌で危険と感じるときは自分のシックスセンスを信じること。
日本にこのような事件などがまったくないわけではありませんが、相対的に見れば、やはり日本は平和で安全な国なのだと思います。この目に見えない安全性は、決して一夜にしてできあがるものではなく、単一民族や集団意識などさまざまな要因が絡んでいると思います。
どれも肯定的、否定的な意見がある視点ですが、それによって受けられている恩恵があることにも着目してみるといいかもしれません。
自分を守れるのは自分だけです。これらを頭に入れて、安全な生活や旅行をぜひ楽しんでくださいね!
Moyo(モヨ)
新卒採用で日本の出版社に入社するも、心身ともに疲弊し20代後半にノープランで退職。それまでの海外経験は数度の旅行程度だったが、イギリスへ語学留学ののち移住した。そのまま、あれよあれよと7年の月日が経ち、現在はフランスに在住。ライター、エディター、翻訳家、コンサルタントとして活動している。最近ようやくチーズのおいしさに少し目覚める。