ジョージ・ハリスン『慈愛の輝き』解説:1979年に発売された美しい作品の内容

『Thirty Three & 1/3』のリリースから2年半後、ジョージにとって8作目のスタジオ・アルバムとなる、喜びに満ちた、そして時にひどく見過ごされがちなアルバム『George Harrison(慈愛の輝き)』が発表された。 ダーク・ホース移籍後2枚目となる本作は、ジョージがオリヴィア夫人と結婚した後に制作。二人の愛の純粋な反映となっている。

1978年3月から11月にかけてレコーディングが行われた本作は、1979年2月にリリース。当時、ジョージにインタビューしたライターのミック・ブラウンが、本作について「並外れて良い」「『All Things Must Pass』以来の傑作」と評した際、控えめな物言いの達人ジョージは次のように答えていた。

「そうだね、『All Things Must Pass』と同じくらい売れたら嬉しいよ。このアルバムはかなり好感を持ってもらえるんじゃないかな」

米ビルボード誌は、アルバム『George Harrison』を“スポットライト”作品として取り上げ、「Love Comes To Everyone(愛はすべての人に)」「Here Comes the Moon」「Not Guilty」を“ベスト・ソング”だと強調していた。

アルバムの内容

アルバムのオープニングを飾るのは、真情溢れる「Love Comes To Everyone」で、この曲のイントロでギターを弾いているのはエリック・クラプトンだ。スティーヴ・ウィンウッドもモーグ・シンセサイザーで参加。この曲は主にハワイで書かれ、アルバムの残りの曲と同様に、ジョージがラス・タイトルマンと共同プロデュースを行っている。

「Not Guilty」は、ビートルズがマハリシ・マヘシュ・ヨーギと共に過ごすためにインドを訪問した後、1968年に書かれたものだ。 歌詞ではインド滞在後の、ジョンおよびポールとジョージの関係について触れている。

ビートルズは1968年、『White Album』用に「Not Guilty」をレコーディングしたのだが、数日間取り組んだ後、そのトラックはボツになった。そのビートルズ・ヴァージョンは、『The Beatles Anthology 3』に「Take 102」として収録されている。

「Here Comes The Moon」は、ジョージが書いたビートルズのあの名曲に着想を得たものであるのは明らかで、同時代の批評家達にも本作のハイライトに挙げられていた。 本アルバムの再発盤には、ジョージの自宅で録音された同曲のアコースティック・デモが収録されており、楽しげなメロディがさらに強調されている。

「Soft-Hearted Hana」は、ハワイのマウイ島に滞在中、ジョージがマジック・マッシュルームでサイケデリックな体験をしたことを元に書かれたものだ。

「Blow Away」は本作からのシングルで、メロディー的にはシンプルだが、特にこの上なく叙情的なジョージのギター・プレイが含まれていることから、時代を経るにつれ人気を高めてきた曲の一つとなっている。同シングルは全米チャート16位、全英チャート51位。カナダでは最高位7位を記録した。

B面の内容

アルバムの後半(LPのB面)はフライアー・パークの自宅スタジオで主にレコーディングが行われ、そのオープニングを飾る「Faster」は、ジョージのF1レース愛が元になっている。ジョージはこの曲名を、レーシング・ドライバーのジャッキー・スチュワートの自伝のタイトルから引用。

曲冒頭の効果音は、1978年のイギリス・グランプリで録音されたものだ。 慈善家のジョージは、1978年、スウェーデン人ドライバーのグンナー・ニルソンの死去後、〈グンナー・ニルソンがん基金〉を支援するため、この曲をシングルとしてリリースした。

穏やかで繊細な「Dark Sweet Lady」もまた、家庭生活がもたらした至福感にインスピレーションを得た曲で、エミール・リチャーズのマリンバを加えることにより、ハワイアン音楽への敬意を滲ませている。ラス・タイトルマンはこう語っている。

「このアルバムのレコーディングを行ったのは、フライアー・パーク。ロサンゼルスのグレンデールにあるアミーゴ・スタジオで録音した“Dark Sweet Lady”を除いてね。 この曲は、僕がイギリスに行く前、一番最初にやった曲なんだ。 ジョージは、オリヴィアとハワイで過ごしている間に書いたこの曲を携えて、ロサンゼルスに降り立ったんだよ」

「Your Love Is Forever(永遠の愛)」と「Soft Touch」は、このアルバムに満足感をもたらす大きな役割を果たしており、本作が“晩成型”になる後押しをした。タイトルマンはこう語る。

「LAで初めて会った時、ジョージは殆どの曲をカセット・テープに入れて持っていて、その多くがハワイで書かれたものだった。そこにはギター・パートのみの“Your Love Is Forever”も入っていたんだよ。それはジョージがこれまでに書いた曲の中でも、最高に美しい曲の一つだと思う。それで彼に“これに歌詞を付けてもらわないと”って言ったんだ。そして彼はその通りにしたんだよ」

本作では、1曲の例外を除き、ジョージが全て一人で作詞作曲を手掛けている。アルバムを締めくくる「If You Believe」がその例外で、これはジョージが旧友のキーボード奏者ゲイリー・ライトと共作したものだ。タイトルマン曰く「ゲイリーはこの1曲に取り組むためだけにやって来たんだ。そしてそれが素晴らしい結果を生んだんだよ」

これまでに言及しているミュージシャンの他、このアルバムには、ドラマーのアンディ・ニューマーク、ベースにウィリー・ウィークス、パーカッショニストのレイ・クーパー、ハープ奏者のゲイル・ルヴァントが参加。 ラスがまとめ上げたバンドには、キーボード奏者ニール・ラーセンも含まれており、本作に素晴らしい音の層をもたらしている。

実のところ、パンクの隆盛から80年代に向けての過渡期にあった、この困難な時代に生み出された数多くの作品と比べても、本作は遥かに優れたものに聴こえる。その理由は非常にシンプルだ。良い曲を素晴らしい曲にするのに必要な生まれつきの感覚をジョージが持っており、それが本作をこれほど美しいアルバムにしているからである。

Written By Richard Havers

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