働きたくても働けない…複雑怪奇な“年収の壁”で「働き損」も発生

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。2月6日(月)放送の「GENERATION」のコーナーでは、“年収の壁”問題について、視聴者を交えて議論しました。

◆複雑な年収の壁…それさえなければ働きたい人が多数

Twitterの「スペース機能」を活用して幅広い世代の視聴者に参加してもらい、Z世代・XY世代のコメンテーターと議論する「GENERATION」。この日のテーマは"年収の壁”です。

岸田首相は衆議院予算委員会で、被扶養者のパート従業員などが働く時間を抑える一因とされる「年収の壁」問題の解消に向け、制度の見直しを図る考えを示しました。働きたくても働けない現状を打開する政府の対策が注目されています。

「年収の壁」は複数あると言われています。まず、100万円から住民税、103万円で所得税が発生し、106万円で従業員101人以上の企業などの条件で社会保険への加入が義務づけられます。そして、130万円で全ての人を対象に社会保険への加入義務、150万円からは配偶者特別控除の控除額が減額し始め、201万円で配偶者特別控除が受けられなくなります。

例えば、106万円の壁では、年収106万円=月額約8万8,000円を超えると企業規模により社会保険料の負担が生じ、124万円程度稼がないと、手取りが落ち込む「働き損」になってしまいます。こうした働き損をしないよう年収を抑える"就業調整”をしている人は61.9%、そのなかで手取りが減らなくなった場合「今より働きたい」と答えている人は78.9%いるそうです。

この問題に対し、NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは、それぞれの段階を包括した責任議論を行うべきで「もはやひとつの制度では対応できなくなっている」と懸念します。

また、第3号被保険者制度をはじめ、いろいろな問題があるとし、「昭和の時代はそれでよかったが、完全に時代が変わってきているのに、制度はいつまでも変わらずにいる。残念ながら現代との価値観の間で大きなギャップが生まれている」と指摘。

経済再建のためには、「最低賃金の引き上げ」が必要と言い、「企業も賃上げの努力を一生懸命やっているが、この問題がある以上はどれだけ賃金を上げようが人手が足りないとなってしまうので、一歩一歩進めていかないといけない」と見解を述べます。

コラムニストの河崎環さんは、専業主婦と働く母、そのふたつを経験してきたなかで最も感じたのは「扶養控除から外れて大丈夫なのか」という不安感であり、「それがまさに年収の壁」と振り返ります。

いわば、専業主婦・働く母の分断を生んだ"影の国境”が年収の壁であり、「子育てから手が離れ、もう一度社会復帰したい、再就職したいと考える女性が働き控えをしてしまうということが、特に40~50代女性に多く見られている」とし、女性の平均年収が上がらない要因のひとつになっていると指摘。

さらに河崎さんは、心理的かつ物理的な障害となり得るこの制度を撤廃しないと「働こうという動機を挫くようなものはなくならない」と案じます。世の女性、とりわけ40代以降の女性は働くか、家庭を築くかのどちらかを選ぶという「アンフェアな選択を迫られる」と言い、年収の壁問題の解消が「日本の女性感など、いろいろな意味でのみんなの固定観念を変えていってくれるものだと思う」と力説します。

Health for all.jp代表の茶山美鈴さんは、学生視点から言及。学生の間でも、この問題を考えている人は多く、なかでも103万円が「ひとつの壁になっている」と実感を語ります。

学生のなかには、収入がお小遣いのためではなく、学費や生活費の補助など、学生生活を送る上で必要なものに充てている人もいて、学業と並行して頑張って稼いでいるにも関わらず働き損が出てしまうことに、茶山さんは「これは本当にどうにかしなくてはいけない問題」と危機感を露わに。

加えて、数字の複雑さにも難色を示しつつ、どうしてこうした仕組みができたのか官僚に尋ねた際の話を披露。そのとき、官僚の方からは「なぜこの数字になっているのか、その理由はわからない」と言われ、ただし国民に住民税や所得税を課す上で「合理性を持たせるなんらかの理論がある」との回答があったことを明かします。そして、「その合理性を持たせる理論と私たちの生活に乖離がある。そしてこの難解な制度が大きな問題となっている」と制度の検討を望みます。

◆少子化対策で俎上に上がる「N分N乗方式」とは?

番組Twitterには配偶者特別控除の問題などを含め、喫緊の課題である「少子化に拍車がかかるのでは?」との意見が寄せられていましたが、それを解消すべく国会では、"N分N乗方式”が議論されています。

このN分N乗方式とはどういうものなのか。例えば、夫婦と子ども2人、共働きで世帯所得額が600万円(夫:400万円・妻:200万円)の家庭の場合、現行では、妻の所得200万円分の税率10%と夫の400万円分の税率20%を合わせ税額は100万円となります。

一方、N分N乗方式では、大人を1、子どもを2人までを0.5として計算し、つまりこの家庭は「3」、これが「N」となります。そして、妻と夫の所得の合計600万円をN(3)で割った額:200万円が課税所得となり、これを税率計算すると10%で1人分の税額は20万円。これに再度N(3)をかけた額が税額で、N分N乗方式の場合は60万円となります。

ただ、N分N乗方式にも課題はあり、ひとつは税額の軽減が高所得者になるほど大きくなること。また、片働きの場合、N分N乗方式の有利分が大きくなってしまうという点もあります。

大空さんは今回の問題の本質に「婚姻制度」を挙げます。というのも、N分N乗方式にしても世帯を基準に考えられ、片働きのほうが有利なのであれば結婚を解消し、事実婚のほうが得となると多くの人がそこに流れる可能性も。

日本では婚姻制度が情緒的な意味合いを含め重んじられていますが、大空さんは「N分N乗方式をやるなら欧米と同じようにするべき。欧米では結婚したところで配偶者控除も第3号被保険者制度もない。社会保障制度が全然違う」と言い、「やはり、社会のなかで婚姻制度にどのような意味を持たせるかという議論に帰結する」と持論を述べます。

河崎さんは、少子高齢化により労働力の先細りが想定される現状において「働き控えや片働きという言葉が出てくること自体、本当の問題が見えていない」と悲嘆。そして「どういった形であれ社会に貢献する、自分で働いた分の賃金がもらえるという当然のことが実現していかないと全体を包摂していく社会はできるわけがない」と危惧。

年収の壁問題については、番組のTwitterスペースに参加していた視聴者から「これがある以上、日本の実質賃金は低いまま。岸田首相がようやく『変える』と言っているが、働き控えの人たちはずっと我慢しているわけで、この制度をうまく利用している人もいるとは思うが、実質賃金を上げる、社会保険料の問題を改善する意味でも早くメスを入れてほしい」という声がありました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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