「違法」知らずに運転し“道交法違反”の落とし穴 “フルアシスト”自転車の「無免許」摘発が相次ぐワケ

“フルアシスト”の自転車として人気を集める「モペット」について、昨年1年間に東京都内で31件の交通違反が摘発され、11件の事故(人身8件、物件3件)が起きていたことが警視庁への調べでわかった。

モペットは見た目が「電動アシスト付き自転車」によく似ているが、「こがなくても走ることができる」かどうかに明確な違いがある。電気やガソリンで作動する原動機を備え、ペダルをこがず、手元のスロットルを回して「自走」できるものがモペットだ。

警察ではモペットについて「ペダル付きの原動機付自転車」として、「スクーター」や「ミニバイク」と同様に免許や装備が必要との認知を広めている。

法律上のモペットの考え方について、交通事故の対応が多い藤本知之弁護士も「法的には免許が必要な原付きバイクに分類されますので、無免許運転は道路交通法違反に問われます」と説明する。

しかし、モペットの無免許運転による摘発や事故は後を絶たない。

相次ぐモペットによる事故

2021年7月、都内で20代の男性がモペットを無免許で運転、自転車と衝突し50代女性に重傷を負わせた事故では、男性が自動車運転処罰法違反(無免許過失傷害)の疑いで逮捕された。事故直後、男性は「自転車同士の事故」と虚偽の通報をしていたこともわかっている。

また、2022年9月に無免許でモペットを運転し、道路交通法違反(無免許運転)の疑いで書類送検された20代の男性は「免許が必要とは知らなかった」と供述したが、実際には以前も無免許で警告を受け、モペットの運転には免許が必要という説明を警察官から受けていたという。

なぜ無免許運転が減らないのか

自転車販売店での勤務経験があり、車やバイクなどにも詳しい会社員のS氏(35)は「モペットの代理店は基本的に『免許、保安部品、ナンバー登録が必要です』とうたっていますが、インターネットで購入する人が多く、“確信犯”的に無視できてしまう」と無免許運転が横行する背景を語る。

しかも今年1月、京都市内にある自転車販売会社の社長が、中国から輸入したモペットを「電動アシスト付き自転車」であると偽ってインターネット上で宣伝・販売したとして「不正競争防止法違反」(誤認惹起)の容疑で書類送検されるという、さらに悪質なケースまで発生している。

S氏はこの販売会社に対し「運転に免許が必要かどうかをきちんと書かなければ、『自転車』だと疑いもせず運転する人もいて危険なことはわかっていたはず。ウィンカーなど保安部品の必要性も伝えていなかったのではないか」と指摘する。

販売会社は約10年間でおよそ300台を販売していたとみられ、購入者らはモペットだと認識せずに利用している可能性があるとされる。

S氏はモペットの「無免許」運転やナンバー登録をしない違反者に対して冷ややかな視線を向ける。

「保険や税金、維持費を払いたくないんだと思いますが、当然事故を起こして知らなかったでは済まされない。それに、そういう使い方をする人のせいで、正しく乗りこなしている人まで悪いように見られてしまうので迷惑です」

免許以外に必要なモペット運転6つの準備

モペットは免許を持っていたとしても、準備なしに運転することはできない。前出の藤本弁護士によれば、ナンバー登録されていない場合はもちろん、装備する必要のある部品がついていなければ摘発の対象になるという。装備する必要のある部品は以下の6つ。

  • 前照灯、番号灯、尾灯、制動灯および後部反射器
  • 警音器(クラクションなど)
  • 消音器
  • 方向指示器
  • 後写鏡(バックミラー)
  • 速度計

さらに運転前に必要だが、忘れがちになるのが「自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)への加入」だ。

「未加入で事故を起こすと、賠償金がすべて自己負担になります。たとえ事故を起こさなかったとしても、未加入で運転していたことがわかれば1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます」 (藤本弁護士)

一見“気軽”な乗り物と錯覚するモペットだが、何も知らずに乗れば、取り返しのつかない事故を起こす可能性があることを忘れてはならない。

© 弁護士JP株式会社