“挑戦と成長の3年間” 陸上・後田築(創成館高→順大) <心新たに 2023年春・2>

800メートルで今季高校最速ランナーとなり、大学では箱根駅伝も目指す後田=諫早市、創成館高中庭

 陸上男子800メートルで今季の高校最速ランナーとなった後田築には、挑戦者という言葉がよく似合う。1年時から全国区だったが、世代トップの座にあぐらをかかず、自分より速い年上選手に挑み続けて周囲や自身も驚く成長曲線を描いてきた。
 象徴的なレースが二つある。
 一つ目は2年時に出場したU20日本選手権。大学生も名を連ねたレースで、後田は顔をゆがめながらも集団に食らいつき、最後は持ち味の切れ味鋭いスパートで1分48秒87の大会新Vを飾った。28年間、破られていなかった県高校記録も塗り替える快走だった。
 もう一つはその1年後。連覇が懸かるU20日本選手権を辞退して、同じ日、同じ会場で行われた日本選手権に挑戦した。持ち記録は下から数えた方が早かったが、ここで日本高校歴代2位となる1分47秒69をマークして6位入賞。高校生の決勝進出者は唯一、後田だけだった。

鋭いスパートを武器にライバルを下してきた後田=諫早市、トランスコスモススタジアム長崎

 「負けることより、力を出し切らないことの方が嫌なんです。だから強い選手と一緒に走りたいし、きつくても途中で気持ちを切らすようなレースだけは絶対にしないって決めている」
 実績が評価され、昨夏のU20世界選手権(コロンビア)日本代表に選出された。自身初の国際大会は、直前まで新型コロナウイルスに感染していた影響が大きく予選落ちしたが「世界との差を思い知らされた」。そう潔く語る表情には、悔しさよりむしろ速い相手に出会えた喜びがあふれ出ていた。
 「思い切りやってみて、自分の限界を知りたい」。そんな思いから、新天地は順大に決めた。順大は東京五輪3000メートル障害で日本人初入賞を果たし、今年の箱根駅伝で「花の2区」を走った三浦龍司が在学する。三浦のようにトラックでも駅伝でも活躍できるマルチな選手になるのが今の目標だ。5000メートルで高校日本人最高記録を持つ吉岡大翔(佐久長聖)、800メートルでインターハイと国体を制した大野聖登(秋田工)など同期にも恵まれた。
 「800メートルは高校まで。次は1500メートルや5000メートルでトップになって、冬は箱根駅伝も走るような選手になりたい」
 根っからのチャレンジャーは過去の栄光にとらわれず、未来の可能性を信じて走り続ける。

 【略歴】うしろだ・きずく 諫早市出身。長距離走者だった父の影響で西諫早中から陸上を始め、3年時に800メートルで全国中学大会5位。校区内にある創成館高に進み、1年時にインターハイ代替大会4位、2年時にU20日本選手権優勝。3年時は日本選手権で高校歴代2位の1分47秒69をマークして6位入賞。県高校駅伝は1区10キロで区間賞を獲得した。169センチ、52キロ。趣味は温泉とプロ野球観戦。


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