離島留学の『里親不足』 受け入れ態勢課題 対馬・壱岐 人口減進む島「子どもは宝」

対馬市で本年度ただ1人の「島っこ留学生」、木藤古さん(左)。住屋さん(右)宅に下宿し、佐須奈中に通う=同市上県町

 「“家族”が1人増えて家が明るくなりました」
 長崎県対馬市上県町佐須奈の住屋ゆかりさん(47)が、台所で皿洗いをしながら言った。隣で手伝うのは神奈川県愛川町出身の木藤古愛来(きとうごあいら)さん(14)。昨年の春、同市の「島っこ留学制度」で市立佐須奈中に転入し、住屋さん宅に下宿。勉強や部活動に打ち込み、休日は住屋さん一家と出かけたり、家事をしたりしている。
 2015年度に始まった同制度。小4~中2が対象で、全28の小中学校のうち、小規模の11校で受け入れる。子どもを島外から呼び込み、地域活性化につなげ、小規模校を存続、複式学級の解消なども図る-。だが、理想通りではない。
 市教委によると、8年間で留学生は25人。里親は6件で、本年度は住屋さんのみ。里親が足りずに留学を断ったケースもある。受け入れ態勢が課題だ。増えない要因には他人の子どもを預かるリスクや、小規模校周辺は人口が少なく、里親になりうる世帯数が少ないことがあるとみられる。
 住屋さんは意欲的だ。息子2人の子育てが一段落し、3、4人ほど同時に受け入れたいという。ただ部屋数に限りがあり、大勢の受け入れは難しい。「地域の空き家を活用したり、興味のある人向けに短期間の里親体験会を開いたりできないか」と話す。

「自然の中で伸び伸び育てたかった」と壱岐市への親子留学を決めた中村さん(右)。快晴君(中央)、百華さんは石田小に通う=同市石田町

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 一方、隣の壱岐市では離島留学が活発だ。同市は18年度、小中学生向けの「いきっこ留学制度」を創設。市教委によると、受け入れ数は初年度の5人から右肩上がりで増え、22年度は41人。5年間で135人に上る。問い合わせも年間100件近くに上るという。
 壱岐の留学タイプは多彩だ。里親宅に下宿する「里親留学」、祖父母宅を利用する「孫戻し留学」、親子で移住する「親子留学」の3種類で、22の全小中学校で受け入れる。留学生が多い背景には、選択肢が豊富で、多くの学校で受け入れ態勢が整い、比較的本土に近く、利便性が高いことなどがあるとみられる。
 福岡県八女市出身の中村美子さん(40)は「自然の中で伸び伸び育てたかった」と、一家で壱岐市石田町に移住。市立石田小5年の長女百華さん(11)と、2年の長男快晴君(8)は「みんなが良いところを褒めてくれる」と学校生活を気に入っている。市教委教育総務課は「親子留学の問い合わせは年々増えている。今後も増えるようであれば、定員増の可能性もある」とする。
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 対馬市教委は「今までのやり方では行き詰まってきた」として、留学タイプや受け入れ校の拡充を検討しているという。
 本年度ただ1人の島っこ留学生、木藤古さんは「都会から離れた場所で学んでみたい」と対馬に来た。周囲に刺激され、学力が上がった実感がある。中2のため、間もなく実家へ戻るが「対馬はもう一つの古里。将来ここで働いてみたい気持ちもある」。住屋さんは「人口減少が進む対馬にとって子どもは宝。学校に通う子どもがいるから活気が生まれて、皆が明るく働ける」と話し、離島留学を通した今後のまちづくりに注目している。


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