iDeCoとNISAで損してしまうケースとは?FPが解説する税金の優遇制度の注意点

「税金がお得になる!」と評判のNISAとiDeCoですが、実際にそのお得さの確認をしているでしょうか? 特にiDeCoは、働き方や掛金の拠出の方法によって、税金のメリットの受け方が異なりますので、自分の場合はどうなのか、確認していきましょう。


公務員・会社員も要確認

公務員、会社員の場合の税金の手続きは、原則として、年末調整で完了します。しかし、国民年金基金連合会から発行される「小規模企業共済等掛金払込証明書」を勤め先に提出していなければ、還付を得ることはできません。

iDeCoの掛金は全額所得控除となりますが、毎月の掛金を自分の口座から自動振替で積立している場合、10月頃に「小規模企業共済等掛金払込証明書」が登録している住所に届きます。この証明書を年末調整の際に勤め先に提出することで、節税分のお金が12月の給与に合算され払い戻しされます。

例えば、iDeCoの開始が年の後半で証明書の発行が間に合わなかった場合や、届いた証明書を紛失してしまった、あるいは単純に勤め先への提出を忘れてしまったという場合は、3月15日までに確定申告をして、節税分のお金を取り戻します。手元に証明書がない場合は、金融機関に再発行を依頼しましょう。

確定申告と聞くと、なじみのない方は「難しそう」とか「面倒くさそう」と思ってしまうかも知れませんが、最近は税務署などに出向くことなくネットで完結しますので、ぜひトライしてみてください。

すでに勤め先で年末調整を行っている場合は、源泉徴収票を手元に準備してから国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を見てみましょう。質問に順番に答えるだけで、簡単に終了します。

一点つまずきがちなポイントとしては、最初のページで聞かれる質問に「以下のいずれの控除を受けますか?」とあるのですが、ここで「いいえ」を選ぶというところです。なぜならば、ここでの選択肢に「小規模企業共済等掛金控除」は存在しません。通常iDeCoの控除は年末調整で完結するため、このサイトで聞かれるのは年末調整では行えない、医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税など)や、住宅ローンに関連する控除を受けることを想定して作られているからです。

iDeCoの控除のみを確定申告する場合、「いいえ」で次に進み、手元の源泉徴収票の情報を入力した後、「小規模企業共済等掛金控除」についての質問欄がありますから、令和4年の掛金合計額を入力すれば、大丈夫です。

ご自身が年末調整で、勤め先にiDeCoの控除申請をしたのか記憶が曖昧という方は、源泉徴収票を見てみましょう。社会保険料控除の欄の数字が2段になっていれば、上段の「内」の文字の横の数字がiDeCoの控除です。この数字が年間の拠出金額であれば、正しく手続きが行われています。

iDeCoの掛金は、小規模企業共済等掛金控除だと思い込んでいると、戸惑ってしまいますが、源泉徴収票の発行を受けた方はこちらで確認しましょう。

公務員や会社員は毎月の給与から源泉徴収がされ、年末調整でその年負担すべき所得税を再計算し、過不足額が12月の給与で調整されます。そのため、年末に還付される金額はiDeCoによる節税分だけではなく、その他の過不足分と合算されてしまいわかりにくいのですが、せっかくの節税ですから、還付されたお金はそのまま使ってしまわずに貯蓄に回すとか、楽しみにしていたイベントの支出にあてるとか、少し特別感は演出したいところです。

iDeCoの掛金を給与天引きで拠出している場合は、毎月の給与内で非課税処理がされるので年末調整は不要です。そもそもそういう方には、証明書も発行されていないので、この記事を読んで焦らないようにしてください。

専業主婦(主夫)や自営業者の手続き

所得がなければiDeCoの掛金による還付は受けられませんが、例えば専業主婦(主夫)でも、年の途中まで働いていたとか、一定以上の収入があり税金の支払が発生したという場合は、同じように確定申告をすることで税のメリットが受けられます。

自営業の方のように、普段から確定申告をしなれている方は問題ないと思いますが、くれぐれも「小規模企業共済等掛金控除」欄への記入を忘れないようにしてください。ちなみに、iDeCoの他に小規模企業共済に加入している方は、同じ欄に掛金を合算して記入します。自営業者の場合、iDeCoが年間816,000円、小規模企業共済が年間840,000円をそれぞれ上限に控除が受けられますので、将来に向けての積立に余力がある方は、ぜひ控除枠はマックス利用することを検討しましょう。

ちなみに、公的年金の上乗せとして国民年金基金に加入している場合、掛金全額を「社会保険料控除」欄に記載します。社会保険料控除に該当する支払は、生計を一にする配偶者や、子どもの分も合算で申告可能です。

例えば夫が第1号被保険者であれば、専業主婦の妻は第3号被保険者ではなく第1号被保険者として国民年金保険料を負担します。しかし収入がないので夫が変わりに妻の保険料を負担し、その額を全額夫の社会保険料控除として申請することができます。

これを少し応用すると、第1号被保険者の妻が国民年金の上乗せとして国民年金基金に加入すると、年間816,000円を上限に掛金を拠出することができます。この際、国民年金と同様掛金全額が社会保険料控除になりますので、夫が代わって控除を受けられることが分かります。しかし妻がiDeCoに加入すると、こちらの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象で、加入者だけが控除できるものなので、夫が控除申請をすることができません。

第1号被保険者の老後資金作りに、国民年金基金を利用するのか、またはiDeCoを利用するのか選択肢に迷ったら、前者は社会保険料控除で、後者は小規模企業共済等控除であるという点に着目するのも一考です。もちろん国民年金基金は固定金利なので、iDeCoのように運用で増やせる可能性はない一方で、終身年金が確保できる点なども合わせて考慮する必要があります。

年末調整あるいは、確定申告にかかわらず住民税は所得税が計算された後に、それぞれの居住地の市区町村に税金のデータが送付され、自動的に計算されます。給与天引きで掛金を拠出している場合は、そもそもの収入から掛金分が差し引かれるので、やはり自動的に住民税の処理が行われます。したがって、所得税での税のメリットが適切に受けられていれば心配無用です

NISAで税金を損してしまうケース

iDeCo同様、税金で得すると言われるNISAですが、こちらの掛金は控除の対象となりませんので、毎年の所得税、あるいは住民税での還付メリットはありません。NISAの税優遇は、運用益に対する税金が引かれないということですが、利益を得た際にのみ税のメリットを受けます。

例えば、NISAで運用していた商品を売却して10万円の利益が出た場合、通常はそこから20.315%の税金、すなわち20,315円が差し引かれ、手元には79,685円しか残らないのですが、それがまるまる10万円手元に入るので、やはり大きなメリットです。

しかしNISAで損失を被るとデメリットしかありません。それは通常行える損益通算、あるいは損失の繰り越しがNISAではできないからです。

例えばA、Bという2つの証券会社の課税口座で運用していたとしましょう。Aでは10万円利益が出て、Bでは8万円の損失がでました。それぞれ特定口座、源泉徴収ありという設定をしていると、Aの利益に対して税金が引かれます。しかし、この2つの口座の持ち主からしたら、年間の利益は10万円ではなく、Bの損失がAの利益のうち8万円を打ち消しますから、差し引き2万円が本当の利益となります。

このような場合、AとBの「損益を通算」し確定申告にて税金を再計算することができます。これが損益通算です。株式の売買や、投資信託の売買を複数の金融機関で行っている方にとっては、すべての損益を通算できるのは納得感があります。

しかし、NISAは口座として全く独立しているので、その他の口座での損益と通算することができないのです。

損失の繰り越しというのは、マイナスの貯金ができるという意味です。例えば令和4年に30万円の損失を被ったとします。これを確定申告しておくのです。

翌令和5年は運用がうまくいって、利益が20万円出たとしましょう。本来であれば、この利益に対し20.315%の税金が引かれますが、ここでマイナスの貯金と相殺します。つまり、令和4年の損失30万円が令和5年の利益20万円を打ち消し、税金の支払を不要としてくれるのです。

それでもまだ損失10万円分が相殺されず残っていますから、さらに翌年以後の3年間、この場合は令和5・6・7年分にわたり損失を繰り越し、その分の利益を打ち消し、税金を払わずに済むことができます。まさに「損失の有効活用」と言えます。

しかし、NISAはここでも先ほどと同様の理由で、NISAで被った損失は、繰り越し控除ができないルールになっています。

上記のようなNISAの特徴を改めて考えると、やはりNISAは長期で腰を据えて運用し、しっかり利益を育てるための制度だ、ということを再認識できます。

賢い納税者になろう

税金というと、ついつい「引かれるもの」「取られるもの」と思いがちですが、内容を理解して「納めるもの」という意識を持ちたいものです。特にお勤めの方は、毎月の給与から源泉徴収され、年末調整もなんとなく提出して、12月の給与で還付を受けたらラッキーのような気持ちでいると、一体得をしたのか損をしたのか分からなくなってしまいます。また「税制優遇」と一言で言っても、それは制度によってさまざまなので、どう優遇されているのか正しく理解することも必要です。

2月、3月は確定申告に関する情報をよく目にする時期です。確定申告をする方も、する必要がない方も、たまには税金についての知識をアップデートしてみるとよいでしょう。

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