<社説>武器使用の運用拡大 ずさんな法解釈の変更だ

 領空侵犯した気球や無人機を撃墜できるよう政府が自衛隊の武器使用要件を拡大した。空路の安全確保などを理由にしているが、武器使用が厳しく制限されてきた経緯を無視するものだ。運用拡大に向けて法解釈を事実上変更する手続きもあまりにもずさんであり、撤回すべきである。 政府はこれまで九州などで2019年以降に確認された気球について安全保障上の脅威ではないとの認識を示していたが、政府内では無人機への軍事的対処は数年前から検討されてきたという。今回、米軍による気球撃墜のタイミングを捉え、一気に運用拡大に踏み切る格好だ。

 無人機などへの厳密な対応方針を対外的に示すとの意味合いもあるとされるが、緊張緩和を阻害するものであり、より一層対立をあおることになる。米国に追従し、なし崩しに運用を拡大する必要はない。

 今回の運用拡大の手続きも極めて問題だ。政府は短期間で自衛隊法の解釈を事実上改め、武器使用の新たな基準を与党に提示し、了承を得た。閣議決定は経ていない。法律改正の形で国会に諮ろうともしない。

 戦前の日本軍の暴走によって国民に多大な犠牲を強いた反省を踏まえ、自衛隊の武器使用は厳しく制限されてきたのである。経緯を踏まえることなく米軍の気球撃墜を契機とした法解釈変更によって武器使用の基準が緩和されることは許されない。

 気球などを対象に運用拡大をすることが妥当なのかも疑問だ。自衛隊法84条は外国機が領空侵犯した場合、退去などを促す「必要な措置」を講じられると規定する。武器使用の要件は正当防衛など極めて限定的なもので、実際の運用は無線による警告などが中心だった。しかも、有人機を想定したものであり、無人機などを使用した偵察行為が武器使用の要件に当たるのか不明確なままだ。

 今回の運用拡大について政府は民間機の安全確保に加えて、地上の国民の生命や財産の保護も撃墜できるケースに挙げる。しかし、実際の運用が可能なのかも不明だ。米軍が撃墜した気球は戦闘機の上昇限度を上回る高度にあったとされる。高高度を飛行する気球を撃墜することは航空自衛隊の訓練でも想定していない任務だという。

 米軍の気球撃墜後、米中両軍の連絡回線が機能しなくなった。偶発的な衝突の危機が高まる。米中の対立に日本が翻弄(ほんろう)され、武器使用の要件を拡大してよいのか。両国の間に立って対話を促す役割を果たすことこそが平和国家の役割だろう。

 日中の外交・防衛当局高官による「安保対話」が22日、都内で4年ぶりに開催される。林芳正外相は中国から訪中を招請されている。対話から緊張緩和の糸口を見いだすなど、外交努力を尽くす必要がある。

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