富士の白雪、栄光の旧本線

 【汐留鉄道倶楽部】箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川―。江戸時代、川止めで旅人を悩ませた大井川と並ぶ東海道の難所が箱根だった。明治時代になって鉄道を敷こうとなった際も、やはり箱根をどうやって越えるかは難題だった。

 その答えが現在のJR御殿場線。国府津(神奈川県小田原市)から箱根の北側をぐるっと回って沼津(静岡県沼津市)にたどり着く。当時の鉄道技術では、長いトンネルを掘ることはできなかったので、このルートしかあり得なかったのだが、遠回りである上に、かなりの勾配を上らなければならず、この区間が東西を結ぶ大動脈のボトルネックだった。

 

富士山をバックに走る御殿場線=静岡県御殿場市

 1934年、伊豆半島の「付け根」の部分に待望の丹那トンネルが完成、熱海と三島、沼津をショートカットで結ぶ新線が誕生、こちらが東海道線の本線になり、山回りのルートは支線に格下げ、御殿場線と命名された。戦時中には複線のレールを取り外して単線になり、全線が電化されたのはようやく60年代末になってからだった。

 なにやら没落貴族の歴史を書くようだが、かつては幹線だったという風格があり、単なるローカル線では味わうことのできない魅力に満ちている。1月下旬、栄光の旧本線をたどる旅に出かけた。

 沼津で東海道線から御殿場線に乗り換え、ホームで待っていた2両編成の電車に乗り込んだ。沼津を出て左に急カーブを切って東海道線と別れ、線路は北を目指して進む。手前に愛鷹(あしたか)山、奥に富士山を眺めながら、急坂を上っていく。このところの寒波で富士山も頂上部は真っ白だ。

 

小田急から乗り入れ、松田で出発を待つ特急ふじさん=神奈川県松田町

 沼津から約40分、御殿場で下車。駅の周りをうろうろ歩いたが、街中に雪も残っており、日陰の歩道では凍った路面に危うく足を滑らせるところだった。電車と富士山の写真を撮ろうとしたが、何せ1時間に1本程度の頻度なのでなかなかタイミングが合わない。そのうち富士山にかさ雲がかかってしまった。

 御殿場線約60キロのうち、標高が最も高いのはこの辺り。国土地理院地図で調べると駅周辺で標高約450メートルで、さすがに空気も冷たい。

 駅に戻り国府津行きに乗車。最高地点を過ぎたからといっても、しばらくは山岳路線の趣が続く。トンネルを抜けたと思ったら、はるか下に見える川を鉄橋で一気にまたぐ。単線化で使われなくなったトンネルや川の中に残された橋脚に昔の面影が感じられた。

 御殿場や山北の駅近くにはかつてこの地で活躍した蒸気機関車、D52が1台ずつ静態保存されている。こんな所にも、多くの人に愛された鉄道のにおいを感じることができる。

 ☆共同通信・八代 到

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