ラグビー王国NZ勢の獲得続く国内リーグワン。大物外国人に求められる役割。移籍先に日本が選ばれる理由とは?

新リーグが発足して2季目を迎え、熱い戦いが繰り広げられているラグビーの「リーグワン」。今年は9月にラグビーワールドカップも行われ、大会後にはニュージーランド代表の主力選手たちのリーグワン入りがすでに発表されており、ラグビー人気の高まりが予想される。それでは、大物加入のチームが「〇〇効果」で一気に優勝候補に躍り出るかというとそうではない。外国人選手の力をうまくチームに還元し、結果を残すチームに共通する考えとは?

(文=向風見也、写真=Getty Images)

多くの各国代表選手が集まる日本ラグビー界

ラグビーワールドカップ・フランス大会が終わる2023年秋以降、オールブラックスことニュージーランド代表の看板選手が相次ぎ来日し、国内リーグワンのクラブへ散る。

来季、コベルコ神戸スティーラーズにはアーディー・サヴェアとブロディ・レタリックが、東芝ブレイブルーパス東京にはシャノン・フリゼルとリッチー・モウンガが、さらにトヨタヴェルブリッツには、アーロン・スミスとボーデン・バレットがそれぞれ加わる。

日本ラグビー界には以前から、多くの各国代表選手が集まっていた。

各クラブのサラリー、地域の治安が比較的よいうえ、近年ではスピーディーなプレースタイルも名手の興味関心をそそっていた。

その評価は、2019年にワールドカップ日本大会が成功裏に終わったことで本格的に定まった。

トッド・ブラックアダー。モウンガらを迎えるブレイブルーパスのヘッドコーチで、現役時代にオールブラックスの主将となった好漢は、「いま、世界中でリーグワンが話題になっていると伝えても過言ではない」と断言する。

「各国の新聞社がリーグワンを取り上げていて、世界の代表選手がリーグワンでプレーしたいと思ってくれています。気に入っているのは、各チームがそれぞれの色のラグビーをしてくれているところです。選手自体もプレーしながらリーグを楽しめている。スキルフルでフィジカル。ラグビーへの情熱も見て取れます」

2連覇のワイルドナイツは、外国人選手が突出していない

高まりつつある日本ラグビー界のレベルを、これからやってくるスターたちがさらに高めてくれそうだ。しかし、これらの補強がリーグの成績を直接的に動かすのかといわれたら、否、というほかない。

堀江翔太。日本代表として過去3度のワールドカップに出場した37歳は、昨季、所属する埼玉パナソニックワイルドナイツで国内タイトル2連覇を達成した。自身もシーズンMVPに選ばれるのだが、その直前に、チームが好調なわけをこう語っていた。

「チームワークがいい。うちは外国人選手も含めて、突出した選手はいない。平均的に、そこそこの選手が集まって、選手同士、選手とコーチが会話しながら1個のものをつくり上げる部分が多くて」

ワイルドナイツは日本代表経験者を18人(代表戦未経験者を含む)も擁する巨大戦艦だ。その時点で「そこそこ」ではないのだが、確かに、昨季のワイルドナイツにいた海外代表勢には見た目上の「突出」と異なる特徴があった。

元イングランド代表ロックのジョージ・クルーズ(引退)は接点での下働き、元ウェールズ代表センターのハドレー・パークス(現リコーブラックラムズ東京)は守備範囲、ピンポイントのパスといった渋い長所を誇っていた。

例外は、オーストラリア代表ウイングで大きくて速い突破役のマリカ・コロインベテ。ただしそのコロインベテも、強烈なタックルで信頼を集める節があった。

ワイルドナイツは堅守速攻が売りだ。リーグワンの区分でいう「カテゴリーC(海外代表経験者)」にも、目指すスタイルの最適なピースとなりうる人材を並べていたのだ。

今季はクルーズ、パークスの抜けた位置で2名の南アフリカ代表選手を獲得した。初来日となったロックのルード・デヤハー、2020年に在籍経験のあるインサイドセンターのダミアン・デアレンデとも、チーム戦術に溶け込みながらパワーやスキルで違いを生んでいる。

ロビー・ディーンズ監督は、来季以降に関して明言こそ避けたが、実力者を迎え、束ねるうえでの哲学を示した。

「ラグビーは一貫したスポーツです。チームをよくでき、個人をよくできる選手を、最終的には採用したいです。また、そのような選手に来てもらえるだけのキャパシティが、我々になくてはいけないとも感じます」

サンゴリアスが大物選手に求めるのは、本人の活躍だけではない

人ありきではなく、チームありきで編成する。その考えは、東京サントリーサンゴリアスにも通じる。中止したシーズンを除き5季連続で2位以上と、ワイルドナイツにもっとも接近する強豪だ。

サンゴリアスは、日本の有名な大学生選手が次々と加わる傾向を持つ。そのため田中澄憲監督は認める。

「うちの場合は、はたから見たら『いい選手を集めて……』と思われるかもしれない」

しかし……。

「……その『いい選手』というのは、素材(が光る)だけではなく、成長意欲があり、ハードワークするという意味で『いい選手』なのだと思います」

世界的名将のエディー・ジョーンズがこのクラブの指揮官となったのは2010年。それ以来、適宜、体制を変えながら、献身を貴ぶ文化と「アグレッシブ・アタッキング」というスタイルを定着させた。

その流れでつくり上げたのは、大物選手の力を本当の意味で活用する風土である。ジョーンズ時代からオーストラリア代表111キャップ(代表戦出場数)のジョージ・スミス、南アフリカ代表76キャップのフーリー・デュプレアをはじめ、各国のスターを引き寄せてきた。

ここでクラブが期待したのは、本人の活躍だけではなかった。その名人の持てる知見、技術、トレーニングとの向き合い方を一緒にプレーする有望な日本人選手にシェアしてもらうことが何より求められた。

特にフランカーのスミスは、2011年度からの3季、16年度からの2季、在籍し、トップリーグ、当時あった日本選手権で4度ずつ頂点に立っている(うち1シーズンは両大会の決勝を兼ねる形で開催)。

さらにスミスからジャッカルの技術を学んだ選手は引退後にコーチとして活躍したり、いまなおサンゴリアスの激しい定位置争いに参加していたりする。スミス本人が在籍時に言った。

「外国人選手全員にとっての責任には、自分たちの持っているスキルや能力を他の選手たちに伝えていくことも含まれます」

ビッグネームの獲得は「乱獲」にあらず。大事なのは…

人が環境をつくり、その環境が人をつくる。他クラブで決して「模範生」ではなかった外国人選手が、サンゴリアスへ移籍するや練習の虫で鳴らすようになった例もある。

サンゴリアスはビッグネームを「乱獲」しているのではなく、ビッグネームを精査し、その資質を活用しているのが伝わるのではないか。

今季から指揮を執る田中監督は、現役時代の晩年はジョーンズ体制下でプレーしていた。2018年には母校の明治大学で監督となり、実に22年ぶり13度目の大学日本一に輝いている。

「サンゴリアスって、ハードなチームなので。それを取り戻す過程なんですよね」

昨年12月中旬に開幕したリーグワン2022-23シーズンでは、「カテゴリーC」を埋める3名中2名をケガで欠きながらも第8節まで7勝1敗で12チーム中3位。日本人主体の陣容で、首位のワイルドナイツを追う。

折からのコロナ禍のため控えていたメディアへの練習公開を、今季から限定的に復活させた。主にオープンするのは強度の高い「Day2(火曜)」だ。冗談交じりに田中監督はこう話す。

「ここで彼らがどれだけハードワークしているのかは、(実際に)見ないとわからない。ノンメンバー(控え選手)もファイトしてくれます。(試合に)出してあげたいという気持ちになります。高め合っている。そこが、一番(のよさ)じゃないですかね。いい選手ばっかり集めても、(それだけでは)勝てないですよ。明治大学だって、昔、連覇していてもおかしくないのに勝ってないじゃないですか」

『カーター効果』ダン・カーターを招いたウェイン・スミスの存在

古今東西、ビッグネームの加入で成績を上げたチームは『○○効果』(○○には当該の選手名)と謳われがちだ。

旧トップリーグ時代には『カーター効果』があった。

ニュージーランド代表112キャップのダン・カーターは、2018年に神戸製鋼(現スティーラーズ)に加わるやトップリーグ制覇。試合中に繰り出す正確な技術と判断はもちろん、納得がいくまで個人練習をやめない姿勢でも影響力を与えていた。

もっともカーターの活躍が戴冠につながった裏には、カーターを招いたウェイン・スミス総監督(現メンター)の存在がある。元ニュージーランド代表アシスタントコーチの通称「ウェイン」は、親会社での工場見学を重ねるなどして所属するタレントたちの帰属意識を高め、多彩なパスで防御を崩す戦法を徹底し、さらに、極端に体の大きな選手の体重の増減を逐一チェックした。

カーターの引退後もスティーラーズは、巨大戦力を誇ってきた。しかし、コロナ禍の影響でスミスの来日時期が限定的となってからはやや足踏みした。一昨季の旧トップリーグ最終年度は25チーム中5位タイ、昨季のリーグワン元年は12チーム中7位と不本意な成績に終わっている。日本代表に選出経験のある選手が16名もそろう今季は現在6位。浮上のきっかけを探っているところだ。

つまるところ実際の競技成績は「どんな戦力を有するか」より「与えられた戦力をどう最適化したか」で決まる。

もし、今回の補強がニュースになったチームがチャンピオンになるとしたら、きっとその選手だけのおかげで優勝するわけではない。

その選手が在籍するに値し、その選手の力を引き出したり、伸ばしたりできるチームだからこそ、自ずと頂点に立てるのだろう。

<了>

© 株式会社 REAL SPORTS