絵本「ねことことり」刊行 原作・舘野鴻さんが猫に投影したものは?

絵本「ねことことり」

 山のふもとにひっそりと暮らす猫と小鳥の交流を描いた絵本「ねことことり」(世界文化社、1650円)が刊行された。立場の違いを越えた友情物語でありながら、自然との向き合い方を考えさせる一冊。作者の舘野鴻(ひろし)さん(54)=秦野市=は「絵本を窓口にして読者と対話したい」と話す。

 「がろあむし」など数多くの絵本を手がけ、生き物の細密画でも知られる舘野さんが原作を、絵本作家なかの真実さんが絵を担った。真っ青な猫の瞳、色彩豊かな花々、微細な模様を捉えた小鳥の羽など、美しい水彩画に目を奪われるファンタジー作品だ。

 ある晴れた朝。小枝を束ねる仕事をする猫のもとに、見知らぬ小鳥がやって来る。「小枝を少し分けてもらえないでしょうか」。今にも泣き出しそうな声で小鳥は言う。猫は少しためらうが「1日1本持って行っていいよ」。つかの間の交流が始まるふたりは、互いに特別な存在になっていく。

 孤独だった猫は友と語らう喜びを知り、小鳥は枝を分けてくれる猫に感謝する。温かいやりとりが読み手の心を打つ一作だが、「ただ友情を描いた話ではない」と舘野さん。ここに登場する猫社会には、人間が投影されているのだと明かす。

 なぜ小鳥は枝を必要としたのか。実は猫が大量の枝を森から採るため巣が作れなくなり、絶滅の危機にひんしていた。「生き物は少なからず環境を破壊しながら生きている。だけど自然界は、人間がいくら搾取しようと怒らない。どこまでも寛容なさまを小鳥に重ね合わせたのです」

 こうした問題提起に触れつつ、猫と小鳥の心情に思いを巡らせることで本作はより深いものとなる。「説明的なせりふがない分、想像を広げ余韻にじわっと浸れるのが絵本のすごいところ。複雑に絡み合うサイドストーリーが物語を豊かにする」と舘野さんは言う。

 困難に直面しながら、小鳥は一因であるはずの猫を気遣い続ける。厚意を前に猫はどのような心境になるのか。その答えは読者にゆだねられる。「内に秘める感情は単純なものではない。生きるために自然を搾取することやそこから生じるジレンマを感じ取ってもらえたら」

 特に子どもたちにこの物語を届けたいという。「子どもに見せる絵は誠実でなければならない」。師と仰ぐ画家の故熊田千佳慕(ちかぼ)氏の教えを胸に刻む舘野さんは、未来がどうあるべきか、丁寧な問いかけをするのが絵本の役割の一つだと語る。

 「絵本を窓口にして対話が生まれる。そんな狙いもあって『ねことことり』を書きました。10年後に再び読んだ時、『こんなメッセージがあったのか』と、新しい発見が得られるような一冊になればうれしいです」

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