「酔い止め薬」推奨? 豪華客船お下劣パニック風刺コメディ『逆転のトライアングル』カンヌ&アカデミー賞の2冠なるか

『逆転のトライアングル』Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

『逆転のトライアングル』は男性モデルのオーディション風景を捉えた冒頭シーンから、リューベン・オストルンド監督の“ツッコミ精神”が全開だ。本作はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、第95回アカデミー賞でも作品賞・監督賞・脚本賞の3部門にノミネートされている(監督は前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でもパルムドールを受賞[※2作品連続は史上3人目]、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネート)。

舞台は“セレブだらけ”の豪華客船

オストルンド監督作品は現代社会への風刺に満ちているが、薄ぼんやりと問題提示するのではなく、明確な攻撃対象を配置している点で非常に分かりやすい。本作で言えばモデル/インフルエンサーのヤヤとカール、拝金主義の客船クルー、そして下衆いオリガルヒ(ロシアの新興財閥)オヤジや、和やかに兵器の話をする武器商人老夫婦などの“超”富裕層たちがそれに当たる。

奴隷が船底でオールを漕いでいた時代から“船”は格差の縮図だった。『フレンチアルプスで起きたこと』で“理想的な家族”の仮面を剥ぎ取り、『ザ・スクエア』でアート業界の欺瞞を痛烈に皮肉ったオストルンド監督が、次なるテーマとして豪華客船に目をつけたところに彼の意地の悪さ、もといセンスの鋭さを感じる。

思わず胃酸がこみ上げてくるウンゲロ・パニック

映画はカールとヤヤ(格差カップルでもある)の“レストランの支払い”をめぐるケンカから始まる。正直、第三者にとっては超どうでもいいケンカなのだが、無自覚のジェンダーバイアスやマスキュリニティを(多分)揶揄してもいて、2人の関係性は終盤でもしっかり活きてくる。

物語の舞台は、ヤヤ&カールも招待されている豪華クルーズ船へ。乗客の殆どは億万長者で、まるで兵隊のような乗員たちはセレブからチップを搾り取ることを至上命題にしている。ウディ・ハレルソン演じるアル中船長は全く頼りにならないものの、嵐のせいで揺れまくる船内での“キャプテンズ・ディナー”のシーンは本作の白眉だ。

乗員・乗客の“ナナメ歩行”だけでも可笑しいが、思わず胃酸がこみ上げてくるウンゲロ展開が待っているので、苦手な人は酔い止め薬を飲んでおいた方がいいかも(割と本気で)。とはいえ、スウェーデンのバンド・Refusedの代表曲「New Noise」をウンゲロBGMにチョイスしたのはノリの良さだけでなく、同曲の反資本主義的な歌詞も意識したと思われる(冒頭で少しだけ流れるM.I.A.の「Born Free」も同様)。

サバイバル力抜群! 清掃係がヒエラルキーの頂点に

嵐のせいで船酔い客が続出、さらに海賊に襲われて無人島に漂着し“地に足がついた”ところで、お話は真の目的に向けて転がっていく。卓越したサバイバルスキルを持つ清掃係、アビゲイルの登場だ。

無人島という極限状況の下、素材調達&調理・分配を仕切ることで、乗員やセレブたちを支配したアビゲイル。しかし、彼女は「金持ちは醜いなあ~」とニヤけて観ている我々の代弁者であると同時に、どん底に突き落とす存在でもある。批判を許さない絶対権力は、いずれ腐敗するのだ。

本作を観た映画祭審査員や映画賞会員たちが苦虫を噛み潰したような顔になりながら、猛烈な面白さに抗えなかった気持ちはよく分かる。しかし本作からは、直視するのがキツい描写で観客を痛めつけてやろう、みたいな意地の悪さはそれほど感じられない。身も蓋もない本音の応酬で観客を楽しませながら、ついでに、もしできれば、この世界に少しでも良い影響を与えることができたら……という意志も(少しだけ)伝わってくるからだ。

『逆転のトライアングル』は2023年2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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