ファッションウィーク速報も 活発化するNYファッションシーン

2023年秋冬のニューヨーク・ファッション・ウィークが15日に幕を閉じた。ファッションウィーク期間中はお祭りムードに変わるニューヨークだが、活発化するファッションシーンのトピックスを見てみよう。


パンデミックより完全復活し

海外からのファッション関係者もNY入り

世界のウィメンズのファッションウィークの皮切りとなるニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)が公式スケジュールでは2月10日〜15日までマンハッタンの各会場で行われた。パンデミックによる海外渡航の規制が続いていたが、日本からのファッション業界関係者も今シーズンから徐々に現地入りする人が目立ってきたようだ。NYFWの期間中には公式スケジュールだけでも100以上のファッションショーとプレゼンテーションが開催され、その他にもオフスケジュールのプレゼンテーションやパーティーなども行われ、ニューヨークの街は盛り上がりを見せた。ファッション・ジャーナリストでライターの菅礼子さんに今季のトレンドについて話を伺った。

「ADEAM」の2023年秋冬コレクション

「日本は企業の出張規制なども終わり、今シーズンからニューヨークに取材にくるバイヤーさんや記者の方も見られました。海外のジャーナリストの数も増えていると思います。また、大規模な会場で顧客の方達も招いてパーティーのようなファッションショーを開催するブランドもあり、完全に市場が活発化している印象を受けました。セレブリティも人気のショーには来場し、KPOPのスターたちが現れるとカメラマンたちが群がっていました」。

環境に配慮した取り組みは当たり前に

「レザーもビーガンレザーを使ったブランドや、草木で染めた洋服、エコファーなど、環境に配慮した取り組みをするブランドは当たり前になりました。大きなブランドは会社としてサステナビリティな取り組みをショーで打ち出す他、デビュー間もないブランドは特にアップサイクルなどにフォーカスし、クラフト感のある一点もののようなコレクションを発表しているブランドが目立ったようです」と菅さん。また、ここ数年で、ファッションショーのインビテーションもデジタル化され、ショーで装飾として使用された花もそのまま捨てずにドライフラワーにするなど、ゴミを出さない取り組みは当たり前となってきている。

リサイクル素材を使った「SAM FINGER」

人種の坩堝NYでは
トレンドも千差万別

ジェンダーレス化が進む

「ニューヨークは商業的なブランドが多く、リアルクローズに近い服を発表するブランドが多いです。しかしながら、デザイナーの人種やルーツもさまざまなので、トレンドはあるものの、それぞれのデザイナーの個性が光っていました。前述したように、環境への配慮から、特に若手ではクラフト感のある古着のような商品を出すデザイナーが目立ったようにも感じます。秋冬のシーズンですが、エコファーにカラフルな色を使ったり、ボリュームのあるジャケットも気になりました」。また、時代と共にジェンダーレス化も加速しているという。「メンズのモデルがスカートやヒールを履いたり、ウィメンズのモデルと同じアクセサリーをつけるなど、ジェンダーレスな表現をするブランドが今まで以上に目につきました。ニューヨークの街ではファッションも自由で個性が尊重される街なんだと再認識しました」と菅さんは話す。「やはりファッションショーをすることでブランドのメッセージも伝わりますし、皆の気持ちが明るくなるので、消費も活性化するればいいなと思います」。

ファッション業界の舞台裏で活躍する日本人に直撃!


メイクアップアーティスト

ニューヨークを始め世界中の
ファッションウィークで活躍

ニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)を始め、ミラノやパリのファッション・ウィークの有名ブランドのバックステージでメイクの仕事をしているElikaさん。他にもファッションブランドのキャンペーンなど日々忙しくメイクアップアーティストとして働いている。2023年秋冬のNYFWでは「マイケル・コース」、「プロエンザ・スクーラー」、「トリー・バーチ」などを始め、約10ブランドのバックステージでメイクを手がけた。現在はパリに滞在し、パリのファッション・ウィークで仕事をしている。

「日本で経験を積んだあと、2019年にニューヨークに来ました。ファッション業界の中心地でもあるニューヨークで経験を積みたいと思ったんです」。現在はニューヨークを拠点にアシスタントとしての仕事と自身がメインとなっての仕事もこなすなど、着実にキャリアを重ねている。「ファッションショーやファッションのキャンペーンのお仕事、セレブリティとのお仕事が多いです」。

得意とするメイクについては、「アイブロウブリーチが得意ですね。クラシックなメイクが好きなので、アイブロウをブリーチすることで抜け感とモダンさを出すようにしています。」パーソナリティもとても重要だといわれるこの仕事で、自身の強みをこう分析する。「何も考えてない時でもしっかり者に見られるところと、フランス語が少し話せることが強みだと思います」。

大きな仕事に関わる中で、特に印象に残っているプロジェクトについて尋ねた。「2021年9月と2022年2月にヘッドを務めさせてもらった『Dauphinette』というブランドのプレゼンテーションです。アシスタント5人と私で、28人のモデルのメイクをしました。予算の打ち合わせから、アシスタント探し、当日のスケジュールや全体の流れ、アシスタント達の動きを見ながらメイクを完成させ、モデル全員をチェックするなど、普段の撮影とは全く違う仕事で、すごく楽しかったです」。

仕事で悔しいことや辛いことがあったら?「友達と笑い話にします。案外そういうたわいない会話から新事実を知り、悔しかった経験どころかとてつもない良い経験になることも」。心がけていることは、自分のルーツと相手のルーツをどちらも尊重すること。モデルさん達もよくわからない人に顔を触られるのは怖いと思うので、コミュニケーションは毎回とても大切にしています」。

今後の目標についても伺った。「この記事を読んでいる諸先輩方に笑われそうですが、『Louis Vuitton』と『Maison Margiela』のワールドキャンペーン、あと『Alexander McQueen』 のファッションショーで仕事をすることです。どちらのブランドもデザイナーの世界観とハウスの歴史がとても好きでずっと憧れています」。Elikaさんの今後の活躍から目が離せない。

Elika Hilata

茨城県出身。
2013年に渡仏し、フランス語を学びながらメイクアシスタントとして働きはじめる。
2017年よりニューヨークと東京を行き来しながらユニクロ、BMW、カシオなどの大手企業の広告のメイクを務める。
2019年 アーティストビザを取得、ニューヨークに完全に移住。
ファッションショーや雑誌、広告キャンペーン、セレブリティなど、幅広く活動中。
Instagram@elikahilata_makeup
www.elikahilata.com


ヘアスタイリスト

さまざまな人種のいるニューヨークでナチュラルヘアの
美しさを活かしたスタイルを提案

ヘアスタイリストのRisakoさんも今シーズンのNYFWのバックステージで活躍していた日本人の一人だ。2017年に語学学生として渡米。今ではアーティストビザを取得しヘアスタイリストとして忙しい日々を送っている。「元々英語が話せるようになりたかったこともありました。田舎出身なのでいつも都会や海外に興味があったんだと思います。学生の頃にオーストラリアにホームステイをして異文化を学んだりしていました。東京で美容学校に通い、ファッションが発展した街に行きたいと思うようになり、フランスやイタリアも調べたのですが最終的にニューヨークに決めて渡米しました」。

『Designer Bag Exchange』ではリードで ヘアスタイリストをさせてもらったので17人のモデルにヘアデザインをし、チームをまとめることができたのは素晴らしい経験だったと思います」。

Risakoさんならではのヘアスタイリングについて尋ねた。「個人的に年代物のクラシックなヘアスタイルが好きで、そこに現在の流行りをミックスさせたスタイリングが得意です。ウィッグワークも得意ですね。また、多種多様なニューヨークでは様々な髪質の方がいるので、それぞれの持つ美しさを引き出しつつ髪へのダメージを最小限に抑える為の知識と技術も私の強みです」。 現場のスタッフからの評価も高い「日本人らしい丁寧な仕事をする。とてもプロフェッショナルだと言われます。また、自身の得意とする新しいヘアスタイルの提案やウィッグワークを行った時に、自分の新しい一面が見れた!などとモデルさんから喜んでもらえたりします」。 外国人として海外で働くことは挑戦する事への喜びも多いが、乗り越えないといけない壁ももちろんある。「言葉の壁や文化の違いには良くも悪くも翻弄されてます。言い回しによっては、こちらは良かれと思ってした発言が相手の気分を悪くしてしまうこともありました」。

海外で働く上で心がけていることは?「海外では技術だけではなく、文化の違いから来る思い違いを避ける為にも、コミュニケーションをうまく取ることを心がけています。更に初めましての人が多い現場も沢山あるので、明るい挨拶や名前を覚えるという基本のことを心がけています。仲良くなるようにすると自然と仕事もしやすくなると思っています」。

今後の目標については「もっと沢山の方に楽しんでもらえるような仕事をヘアスタイリストとして発信して行きたいです。」と語った。

Risako Itamochi

島根県出身、バンタンデザイン研究所東京校でヘアメイクを専攻し卒業後ニューヨークへ留学。
語学学生としてニューヨークで語学の勉強をしつつ、ヘアスタイリストとして活動を始める。
アリアナ・グランデ、ケイト・モス、ヘイリー・ビーバー、ベラ・ハディット、ジジ・ハディットなどのヘアスタイリストを務める著名ヘアスタイリストのもとで経験を積み、現在ではニューヨークのみならずフランス、イタリアなどでもナイキ、バレンシアガ、トム・フォード、ラルフ・ローレン、パトゥ、ランヴァン、など60以上のファッションショーにチームとして携わり活動している。
彼女のクリエイティブな仕事はVogue、 Harper’s Bazaar、NYLON などの雑誌にまで及ぶ。
Instagram@risako_hair
www.risakoitamochi.com

ネイリスト

ナチュラルネイルを得意な武器に広告やセレブリティからの
仕事を着実にこなす

今シーズンもNYFWで「ケイト スペード」のバックステージでネイルを担当した。同プレゼンテーションではモデルのルックに合わせたカラフルでポップなネイルのデザインも印象的だった。現在は撮影の仕事が中心だと言う。「雑誌や広告、セレブリティのネイルを担当するなど、スタジオでの撮影がメインです。撮影の集合時間に遅れることなく、モデルとのコミュニケーションもよく取れているとスタッフの方々から言ってもらえます。どのようなクリエイティブなデザインでも綺麗に素早く仕上げると信頼してもらっていますね」。現場では常にコミュニケーションを取ることを心がけているという。「自分から挨拶をしたり、話しかけたりして積極的にコミュニケーションを取るようにしています。相手のニーズもわかり、現場の雰囲気もよくなり仕事もやりやすくなると思います」。

得意とするのはナチュラルネイルやニュアンスネイルだという木下さん。「ナチュラルネイルはシンプルに見えて意外とテクニックが必要です。ネイルの下処理が一番キーポイントになってくるので急がず丁寧に仕上げるのがコツです。ニュアンスネイルはテーマやイメージを決めていろんな色を混ぜながら仕上げていくネイルです。色によって全く違う雰囲気になるので、施術するたびに新しい発見や発想が生まれるんです」。

今までで印象に残っているプロジェクトについて伺った。「色々なプロジェクトをやりましたが、一番印象に残っているのはスプーンネイルを作ったことです。貝の素材を使わなくてはいけないために苦労しました。貝をスプーンのように堀ることからはじめて、棒状の貝の素材をスプーンのようにくり抜き、それを付け爪にしてキャビアを食べる動画の撮影でした」。クリエイティブなテクニックが必要とされる仕事も多々あるという。

「ニューヨークも長くなってきましたが、もともと学生ビザで来たので就労ビザを取得するのに苦労しました。働ける人と同じステータスになれないことに悔しさを感じました」と苦労も語ってくれた。

「今後の目標は、ネイルを今まで通り突き進めていきたいですし、また何か違うことにもチャレンジしたいなと思ってます。まだはっきりとはしてませんが、日本人がもっと気軽に海外で経験ができるよう、ネイル留学や、何かサポートができることもしてみたいなと思ってます」。

木下佳奈

広島県江田島出身。
広島比治山高校卒業後、外語専門学校を卒業。
東京でツアーコンダクターとして働き、2009年ニューヨークに移住。
ニューヨークネイルライセンス取得し、サロンワークから撮影業界へ。
2021年にはリアルエステートライセンス取得。
Instagram@kana_nailist


最新ファッショントピックスもチェック

アイコン的な小物にも注目
「アライア」の新店舗がSOHOにオープン

デザイナーの故アズディン・アライアのブランドとして有名な「アライア」の新店舗がSOHOにオープンした。長細いショップは奥行きがあり、奥にはサロンのような広々としたスペースが広がり、ゆったりと試着ができるようになっている。店内にはアメリカ人アーティストのアートが飾られ、新作のウィメンズコレクションが常に並ぶと共にハート型のアイコンバッグやシューズ、アライアらしいウエストマークをするワイドなレザーベルトも揃えられている。

ALAIA SOHO
149 Mercer St., New York, NY 10012
TEL: 917-522-3809


伝説の調香師が作った
アスティエから新作香水がデビュー

白い陶器が印象的なフランスの陶器ブランド「アスティエ」から新作香水3種類がデビュー。アメリカではオンラインと数店舗で発売される。古代エジプトの神殿やローマの王族などからインスパイアされた香は深みがあり、とても上品だ。今回の香水の開発に携わったのは、伝説のフランス人調香師としても知られるドミニク・ロピオン氏。古代ローマで使われていた香りを再現したという香水には香にまつわるストーリーが書かれたほんもついてくるという。

www.astierdevillatte.com/en


新たな世代に人気急上昇
「KHAITE」の路面店がオープン

イギリス出身でニューヨークを拠点にする「Khaite」の路面店がSOHOにオープンした。元々ガレージだったと言う空間は広々としており、コンクリート打ちっぱなしのミニマルなブティックだ。ファッショニスタやセレブの間でも話題となっている同ブランドだが、ニューヨークでは待望の路面店となる。上質なレザーが特徴のアイコニックなウエアから、ビジューをふんだんにあしらったバッグやシューズなど、ここにいけば欲しいものに出会えること間違いなし。

KHAITE
165 Mercer St.
khaite.com


ブルックリンミュージアムで出会う
ティエリー・ミュグレーの世界

定期的にファッションデザイナーの展覧会が開かれていることでも有名なブルックリンミュージアムにて、2022年に他界したフランス人デザイナー、ティエリー・ミュグレーのファッション展覧会が行われている。開催は5月7日まで。彼の得意とするアヴァンギャルドでどこかフューチャリスティック、ファンタジーな作品を一堂に見ることができる回顧展だ。演劇やミュージカルなどのステージで使われた衣装も揃っており、なかなか見応えのある内容となっている。

BROOKLYN MUSEUM
200 Eastern Pkwy., Brooklyn, NY 11238
www.brooklynmuseum.org

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