【おんなの目】 水を飲む

 草木も眠る丑三つ時、喉が乾いたので水を飲もうと、寝床を出て台所に行った。電気をつけて明るくなった瞬間、テーブルの上の蜜柑がさっと整列した。寝るとき、テーブルの上に五個の蜜柑を一列に並べて置いた。私が寝た後、黄色の五個の蜜柑は、運動会を始めたのだ。1m50㎝のテーブルで、徒競走をし、湯吞みや醤油差しを取び飛こえる障害物競争、箸を利用して棒高跳び、丑三つ時は、ダンスタイム。転がったりしてウキウキと踊っていたら突然明るくなって寝ぼけ眼の闖入者。驚いて整列したのだ。その証拠に右側端の蜜柑はまだ息が荒い。

 水を飲みながら、先日見た映画「森のムラブリ」を思い出した。ムラブリは、ラオスの森に住む最後の狩猟民。もちろん、電気なし、ガスなし、家もない。大きなバナナの葉で簡単な屋根を作り、その下で集う。

 彼等の台所は、大地だ。必要な時に台所は作られる。大地で火をおこし煮炊きする。魚を竹に刺し焼く。バナナの葉に食物は盛られ、彼等は互いにおしゃべりしながら賑やかに食事をする。

 彼等に夜の台所はない。丑三つ時、喉が渇けば、葉のコップで山の水を飲む。

 ラオスの山中のムラブリと日本の西端に住む私、丑三つ時水を飲む。

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