通称“ユニバース・ブレイカーズ” ウェッブ宇宙望遠鏡が初期宇宙の「重すぎる銀河」を複数観測

私たちの宇宙には大小さまざまな「銀河」が無数に存在します。これらの銀河はどのようにして作られたのでしょうか?

誕生直後の宇宙には銀河はおろか恒星すらなく、水素とヘリウムのガスしか存在していませんでした。ガスの濃度にはわずかながらもムラがあり、濃い部分は他の部分よりも物質の密度が高いので重力も強くなります。濃い部分の重力に引き寄せられたガスは塊となって、ますます多くの物質を引き寄せるようになります。ガスの塊がある程度成長すると、恒星が形作られるようになります。

宇宙のあちこちで形成されるようになった恒星の分布にも、同じように密度の高い部分と低い部分が存在します。密度の高い部分にあった星々は集合して、初期の銀河が形成されます。その形は不定形で、全体の質量も現在の銀河と比べてずっと小さかったと予想されています。ある程度の時間を経て、外側に渦巻き状の構造、中心部に超大質量ブラックホールを持つ、現在のような大きさと構造を持つ銀河が誕生した……というのが、天文学における長年の共通認識でした。

銀河の誕生と進化の歴史がどの程度の時間で進行したのかは、観測結果やシミュレーションによってある程度絞り込めます。例えば、宇宙の誕生直後に存在していたガスのムラや総質量は、観測可能な宇宙最初の光である宇宙マイクロ波背景放射や、初期の宇宙を直接観測することで絞り込むことができます。光の速度は有限であるため、遠い宇宙を観測することは、それだけ誕生の瞬間に近い宇宙を観ることになるからです。

しかし、初期の宇宙の銀河を直接観測して調べるには、様々な困難があります。天体までの距離が遠くなればなるほど、天体の見た目の明るさは暗くなります。また、宇宙の膨張にともなって光の波長が引き延ばされることで、銀河を発した可視光線は地球に届く頃には地上での観測が難しい赤外線の波長に偏っていきます。特に、銀河の質量を決定するために重要な「バルマー不連続」が見られる波長 (364.6nm=0.3646µm) は観測の難しい赤外線の波長である2.5µmを越えてしまうため、今までは宇宙誕生から10億年後の銀河までしか質量を決定することができませんでした。この時代には既に、現在の宇宙にも観られる、太陽の1000億倍の質量を持つ銀河が存在することが確かめられています。

2022年7月に運用を開始した「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の主要な任務の1つは、初期宇宙の謎を探索することです。ジェイムズ・ウェッブは赤外線望遠鏡であり、これまで観測が困難だった波長領域の探索に適しています。最初の観測結果は2022年7月12日に公開され、その中には初期宇宙の情報を含むとされる、1µmから5µmの波長における膨大な分光観測結果がありました。

【▲ 図1: 今回発見された6個の “重すぎる” 銀河。左下の38094という番号の銀河は、質量は天の川銀河並であるが、直径は30分の1程度しかない(Credit: NASA、ESA、CSA、I. Labbe (Swinburne University of Technology) 、IDは筆者 (彩恵りり) による加筆)】

ペンシルベニア州立大学のJoel Leja氏らの研究チームは、この分光データを分析した結果、少なくとも6個の銀河が予想よりも “重すぎる” ことを発見しました。これらの銀河が存在していたのは宇宙誕生から5億年〜7億年後 (赤方偏移7.4≦z≦9.1) ですが、推定される質量は太陽の100億倍以上もあるというのです。そのうち1つは太陽の1000億倍の質量を持つ可能性すらあります (※) 。これは、これまでのモデルで推定された質量と比較して、最大で100倍という重さです。宇宙の歴史が最初の3%しか経っていない頃にこれほど大質量な銀河が見つかるのは予想外であり、Leja氏らも最初は分析に何らかの誤りがあることを疑いましたが、検証によってその可能性は低いことが判明しました。

※…38094という番号が振られた銀河の質量は、太陽の質量と比較して、最も可能性のある値が776億倍、最大値が1290億倍と推定されています。

【▲ 図2: 6個の銀河の詳細(Credit: NASA、ESA、CSA、I. Labbe (Swinburne University of Technology) 、表は筆者 (彩恵りり) による)】

Leja氏らは、これらの銀河を非公式に「ユニバース・ブレイカーズ (universe breakers) 」、直訳すれば「宇宙を破る者たち」と呼んでいます。 “ユニバース・ブレイカーズ” の存在は、これまでに構築された宇宙論のモデルの99%と一致しませんから、この命名はある意味で適切と言えます。ユニバース・ブレイカーズは宇宙論モデルと銀河の形成過程の理解のどちらかに致命的な誤りがある可能性を示していますが、どのような修正が必要になるとしても、宇宙に関するこれまでの考え方が根本的に見直されることになるかもしれません。そしてこの見直しは、初期の宇宙に限らず、現在や未来の宇宙に関する理解を変える可能性もあるでしょう。

Source

  • Ivo Labbé, et.al. “A population of red candidate massive galaxies ~600 Myr after the Big Bang”. (Nature) (arXiv)
  • Adrienne Berard. “Discovery of massive early galaxies defies prior understanding of the universe”. (The Pennsylvania State University)

文/彩恵りり

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