患者数が少ないせいで起きる問題とは? 希少・難治性疾患の啓蒙のためのRDDイベント開催

ファイザー株式会社が主催する「世界希少・難治性疾患の日(RDD)」メディアセミナーが、2月16日(木)、東京都内で開かれた。2月28日は希少・難治性疾患の啓発を目的とした、「世界希少・難治性疾患の日」である。

希少・難治性疾患とは、患者数が非常に少ない疾患であり、世界でおよそ6000~8000疾患が存在し、全体の患者数は約4億人とも言われている。患者数が少ないため、診断がつかない、治療法がない、同じ疾患の患者・家族とつながれないといった問題を患者は抱えている。

RDDとは、「Rare Disease Day」の略称であり、希少・難治性疾患の患者の生活の質の向上を目指す活動で、スウェーデンにおいて2008年から始まった。日本でも2010年よりRDDのイベントが開催されている。

今回のRDDのセミナーには、希少・難治性疾患のひとつである心アミロイドーシスを患っている酒井勝利さんとその夫人の秀子さんが登壇して、自身の様々なエピソードを語った。心アミロイドーシスとは、心臓の筋肉細胞の隙間に異物が溜まって心臓が肥大して心不全や不整脈を起こす病気である。

酒井さんもかかりつけ医で心不全と診断され、その後、心アミロイドーシスであることが分かった。初めて聞く病気だったため、酒井さんはネットを駆使して自力で病気について様々なことを調べたという。調査によって長野に心アミロイドーシスについて研究している病院があることを知り、自分で連絡をとって入院。

その病院を退院した後に「いずれ他の臓器も機能不全になるかもしれないので、今のうちに総合病院に移ったほうがいい」とアドバイスを受け、また自分でネットで調べて慶應大学が心アミロイドーシスに取り組むという情報を見つけ、今回のセミナーにも登壇した慶應大学医学部の遠藤仁氏と出会うことができたのだと語った。

現在は治療によって体調がかなりよくなったと語る酒井さんだが、心アミロイドーシスが希少疾患であるため、情報を入手することすら難しかったことが、その話からうかがえた。

希少・難治性疾患が他の病気の陰に隠れている?

続いて登壇して講演を行なった慶應義塾大学医学部の遠藤仁氏も、病気の認知度が低いことから診断が遅れやすいという心アミロイドーシスの問題を指摘した。また、診断のために身体の組織を採取する必要があり、敷居が高かったことも診断の遅れにつながっていたという。

ただし、現在では患者の身体に負担をかけない画像を使った診断方法が確立されている。そのため、検査を受ける人が増え、心アミロイドーシスと診断される患者が増えているとのことだった。

遠藤氏は心アミロイドーシスが様々な心疾患にまぎれているという問題にも言及した。病気の認知度が低いことなどから、本当は心アミロイドーシスなのに、別の心疾患と診断されている患者がいる可能性があるのだ。

そうした問題の解消にもつながる早期診断のため、心アミロイドーシスのレッドフラッグ(重症の病気の兆候)を提示したり、他科との連携に取り組むほか、オンライン診療のためのシステムの構築も進めていると、遠藤氏は語った。

今回のセミナーの締めくくりとして、酒井さん夫妻、遠藤氏、ファイザー株式会社の取締役執行役員の藤井幸一氏によるパネルディスカッションも行なわれた。パネルディスカッションでは、希少・難治性疾患に関する適切な新しい情報を発信し、それを共有することが重要だと語られた。

ファイザーの藤井氏は情報発信のため企業ができることとして、啓発のためのウェブサイトを展開し、科学的に正しい情報を、わかりやすいコンテンツで提供しているというファイザーの取り組みを紹介した。

パネルディスカッションの最後に、社会へのメッセージを求められた酒井さんは、「社会の皆さんがアルツハイマーなどと同じレベルで心アミロイドーシスを認知すれば、患者はもっと適切な治療が受けられるようになると思います。また、他の希少疾患に関しても、ぜひ知っていただきたいです」と語った。

2010年からスタートした日本でのRDDは、年々広がりを見せ、2022年には全国54ヶ所でイベントが行なわれた。RDD Japan事務局では、全国各地のRDDイベントを資金面から後押しするためのクラウドファンディングを2月1日(水)~28日(火)の期間で実施している( https://readyfor.jp/projects/RDD2023 )。

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