2022年シーズンのFIA F2は3月3〜5日に開催される第1戦サクヒールに始まり、全14戦28レースが開催される。ホンダ&レッドブル育成の岩佐歩夢の活躍により、注目が集まるFIA F2について、改めてシリーズの基本情報やレギュレーション、2023年シーズンのドライバーラインアップや開催スケジュールを整理してみよう。
現在のFIA F2はGP2が名称を変更した2017年に誕生した。ただ、『F2』という名称の誕生は、F1が世界選手権となる前、最上位のF1規定よりも小排気量のシングルシーター車両規定として設定された1948年まで遡る。
1967年からは当時のF2規定の元でヨーロッパF2選手権が開催され、1985年に国際F3000選手権、2005年にGP2、そして2017年より現在のFIA F2へと発展を遂げた。時代の流れに応じて開催スタイルや名称を変えてきたが、ヨーロッパF2時代からF1へのステップアップカテゴリーとして、F1を目指す多くの若手ドライバーが参戦してきた歴史がある。2005年から始まったGP2初年度以降の日本人ドライバーの参戦歴とシリーズチャンピオンは下記のとおりだ。
■GP2/FIA F2歴代王者&日本人ドライバー参戦記録
年度 チャンピオン 参戦日本人ドライバー
2005 ニコ・ロズベルグ 吉本大樹
2006 ルイス・ハミルトン 吉本大樹
2007 ティモ・グロック 中嶋一貴/平手晃平/山本左近
2008 ジョルジオ・パンターノ 小林可夢偉/山本左近
2009 ニコ・ヒュルケンベルグ 小林可夢偉
2010 パストール・マルドナド –
2011 ロマン・グロージャン –
2012 ダヴィデ・ヴァルセッキ –
2013 ファビオ・ライマー –
2014 ジョリオン・パーマー 伊沢拓也/佐藤公哉
2015 ストフェル・バンドーン 松下信治
2016 ピエール・ガスリー 松下信治
2017 シャルル・ルクレール 松下信治
2018 ジョージ・ラッセル 牧野任祐/福住仁嶺
2019 ニック・デ・フリース 松下信治/佐藤万璃音
2020 ミック・シューマッハー 松下信治/佐藤万璃音/角田裕毅
2021 オスカー・ピアストリ 佐藤万璃音
2022 フェリペ・ドルゴヴィッチ 佐藤万璃音/岩佐歩夢
※2008年〜2011年に開催されたGP2アジアシリーズは除く
現在のFIA F2はイタリアのダラーラ製シャシー『F2・2018』にメカクローム製3.4リッターV6ターボエンジン、そしてピレリタイヤというワンメイクのもとで争われるため、車両ごとのポテンシャルも変わらず、ドライバーの腕とチーム力が戦局を左右する。
また、F1と同じピレリ製のタイヤを使用するも、F1とは異なりタイヤウォーマーの使用が禁止されているため、短い時間でタイヤを適切な温度まで温めるウォームアップ技術もレースウイークの結果を左右する大きなポイントだ。
なお、2023年シーズンよりサウジアラビアの国有石油会社アラムコとのパートナーシップのもと、55%混合の持続可能燃料が導入される。そしてFIA F2では2024年シーズンより、新型シャシーと新エンジンの導入を目指しており、2023年シーズンは6シーズンにわたって使用されてきた現行パッケージの最終年となる予定だ。
■FIA F2車両ダラーラF2・2018の諸元抜粋
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シャシー寸法
全長:5224mm
全幅:1900mm
全高:1097mm(FOMロールフープカメラ含む)
ホイールベース 3135mm
総重量 755kg(ドライバー含む)
エンジンメーカー メカクローム(フランス)
エンジン仕様 V6 3.4リッターシングルターボ
最大出力 620HP/8750rpm
最大トルク 570Nm/6000rpm
0-100km/h加速 2.9秒
0-200km/h加速 6.6秒
最高速度 335km/h(モンツァ仕様エアロ+DRS)
最大制動減速度 -3.5G
最大横加速度 +/-3.9G
安全基準 2017 FIA F1安全基準準拠
サバイバルセル
ダラーラ製サンドイッチカーボン
アルミハニカム構造
ザイロン素材のアンチ・イントリュージョンパネル
フロント&リアウイング ダラーラ製カーボン構造
ボディワーク カーボン/ダラーラ製のケブラーハニカム構造
DRS F1のDRSと同じ機能/油圧可動式
ギヤボックス ヒューランド製6速縦型シーケンシャル
ギヤ操作 パドルシフトによる電気油圧制御
クラッチ ZFザックス製カーボン
車載スターター 非搭載
サスペンション
プッシュロッド式ダブルスチールウィッシュボーン
フロント:ツインダンパー&トーションバー
リヤ:スプリング
ダンパー コニ製/フロント2方向/リア4方向調整可能
調整可能アンチロールバー 前後
ブレーキキャリパー ブレンボ製6ピストンモノブロックキャリパー
ブレーキディスク&パッド カーボンインダストリー製カーボン
ホイール
OZ製マグネシウムホイール(2020年より18インチ)
前:12J/後:13.7J
タイヤ
FIA F2専用のピレリスリック&ウエットタイヤ
TPMS(タイヤ空気圧監視システム)
■1週末に2レース&リバースグリッド。F1にはない独自フォーマット
FIA F2は全戦がF1のサポートイベントとして開催される。基本的なレースフォーマットは金曜日に45分間のフリー走行と30分間の予選。土曜日にレース距離120km/最大時間45分のスプリントレース(決勝レース1)。日曜日にタイヤ4本交換に伴うピットストップが義務付けられるレース距離170km/最大時間60分のフィーチャーレース(決勝レース2)が行われる。
レースフォーマットにおけるF1との大きな違いが1週末に2度の決勝レースが行われること、そしてリバースグリッド制の導入の2点だろう。金曜日の予選結果により日曜日のフィーチャーレース(決勝レース2)のグリッドが決定。そして予選結果から上位10台を逆順にし、土曜日のスプリントレース(決勝レース1)のグリッドを決定する。
このリバースグリッド制により、たとえば、予選で最速タイムをマークしたドライバーは、スプリントレース(決勝レース1)では10番手から、フィーチャーレース(決勝レース2)ではポールポジションからのスタートすることになる。
一見不公平にも見えるリバースグリッド制だが、スプリントレース(決勝レース1)では上位8台までがポイントを獲得でき、優勝ドライバーには10点。一方、フィーチャーレース(決勝レース2)では上位10台までがポイントを獲得でき、優勝ドライバーには25点が与えられる。獲得できるポイント差が大きいため、タイトル獲得へ向けては2レース合わせてより多くのポイントを獲得し続けられるかが、大きなポイントとなる。
なお、予選ポールシッターには2ポイントが与えられるほか、レース中にファステストラップを記録したドライバーが10位以内でフィニッシュすれば1ポイントが与えられる。そのため、1大会(1週末)で獲得できる最大ポイントは39点となる。
2023年開催スケジュールにおける最大の注目は、FIA F2としては初となるオーストラリア・メルボルン大会に違いない。高速かつ半公道コースということもあり、F1でも荒れたレースとなることが少なくないアルバート・パーク・サーキットで、若手ドライバーたちがどのようなレースを繰り広げるかは大いに注目したいところだ。
■2023年FIA F2開催スケジュール
Round 日程 開催地
1 3月3〜5日 サクヒール(バーレーン)
2 3月17~19日 ジェッダ(サウジアラビア)
3 3月31~4月2日 メルボルン(オーストラリア)
4 4月28~30日 バクー(アゼルバイジャン)
5 5月19~21日 イモラ(イタリア)
6 5月25~28日 モンテカルロ(モナコ)
7 6月2~4日 バルセロナ(スペイン)
8 6月30~7月2日 レッドブル・リンク(オーストリア)
9 7月7~9日 シルバーストン(イギリス)
10 7月21日〜23日 ハンガロリンク(ハンガリー)
11 7月28~30日 スパ・フランコルシャン(ベルギー)
12 8月25~27日 ザントフォールト(オランダ)
13 9月1~3日 モンツァ(イタリア)
14 11月24~26日 ヤス・マリーナ(アブダビ/アラブ首長国連邦)
■岩佐歩夢勝負の2年目。ルクレール加入がタイトルへの後押しに?
2023年シーズンのエントリーだが、まず3チームがエントリー名を変更している。2022年まで参戦したチャロウズ・レーシング・システムのエントリーをドイツの『PHMレーシング』が引き継いでエントリー。ただし、2023年シーズンにおいてはチャロウズがメンテナンスを担当するため、エントリー名は『PHMレーシング・バイ・チャロウズ』と、チャロウズの名が残った。
また、イギリスの名門カーリンはロダン・カーズによる買収で『ロダン・カーリン』に。同じくイギリスのハイテックGPは映像・音響機器メーカーのパルスエイト社のスポンサードにより、エントリー名称を『ハイテック・パルスエイト』へと変更。さらに、ビルトゥジ・レーシングは老舗時計ブランド『インビクタ』との提携により、『インビクタ・ビルトゥジ・レーシング』へと名称を変更している。
22名のドライバーのうち9名がFIA F2ルーキーイヤーを迎える。9名全員がFIA F3経験者だ。なかでも注目は2022年のFIA F3王者のビクトール・マルタンス(ARTグランプリ/アルピーヌ育成)、そしてシャルル・ルクレールの弟で、今季岩佐歩夢のチームメイトとなるアーサー・ルクレール(ダムス/フェラーリ育成)だろう。2月14日〜16日にバーレーンで開催されたプレシーズンテストにおいてもチームメイトと遜色ない走りを見せていただけに、参戦初年度からタイトル争いを繰り広げるかもしれない。
そして、そんな新人とも対峙する岩佐歩夢の走りにも大いに注目したい。計算上、F1参戦に必要なスーパーライセンス獲得に向け、『過去3年間でスーパーライセンスポイントを合計40点以上取得』という条件をクリアするべく、2023年の岩佐はFIA F2でシリーズランキング5位(SP:20点)以上に入らなければいけない(現在の持ち点:22点)。
ただ、岩佐の目標はシャルル・ルクレールやジョージ・ラッセル、ニック・デ・フリースらがそうであったように、『FIA F2タイトルを獲ってF1昇格』に違いない。アーサー・ルクレール加入が、ダムス、そして岩佐にどのような刺激と影響を与えることになるかは、2023年シーズンを観戦する上で大きなポイントとなるだろう。
2023年FIA F2開幕戦は3月3〜5日に、F1バーレーンGPのサポートイベントとしてバーレーン・インターナショナル・サーキットで開催される。F1を目指し、F1直下で繰り広げられる若手ドライバーたちの未来を賭けた戦いからは、今年も目が離せない。
■2023年FIA F2エントリーリスト
Car.No Rookie Driver Team Program
1
デニス・ハウガー MPモータースポーツ レッドブル育成
2
ユアン・ダルバラ MPモータースポーツ –
3 ○ ゼイン・マロニー ロダン・カーリン レッドブル育成
4
エンツォ・フィッティパルディ ロダン・カーリン レッドブル育成
5
テオ・プルシェール ARTグランプリ ザウバー育成
6 ○ ビクトール・マルタンス ARTグランプリ アルピーヌ育成
7
フレデリック・ベスティ プレマ・レーシング メルセデス育成
8 ○ オリバー・ベアマン プレマ・レーシング フェラーリ育成
9 ○ ジャック・クロフォード ハイテック・パルスエイト レッドブル育成
10 ○ アイザック・ハジャル ハイテック・パルスエイト レッドブル育成
11
岩佐歩夢 ダムス レッドブル&ホンダ育成
12 ○ アーサー・ルクレール ダムス フェラーリ育成
14
ジャック・ドゥーハン インビクタ・ビルトゥジ・レーシング アルピーヌ育成
15
アムーリ・コルデール インビクタ・ビルトゥジ・レーシング –
16
ロイ・ニッサニー PHMレーシング・バイ・チャロウズ ウイリアムズ育成
17 ○ ブラッド・ベナビデス PHMレーシング・バイ・チャロウズ –
20 ○ ロマン・スタネ トライデント –
21
クレモン・ノバラック トライデント –
22
リチャード・フェルシュフォー ファン・アメルスフォールト・レーシング –
23
ファン・マヌエル・コレア ファン・アメルスフォールト・レーシング –
24 ○ クッシュ・マイニ カンポス・レーシング –
25
ラルフ・ボシュング カンポス・レーシング –