上五島「知名度不足」 五島市とのPR力の差… 埋没に危機感 『ならでは』を前面に 

コバルトブルーの海と白い砂浜のコントラストが美しい遠浅の蛤浜海水浴場。新上五島町ならではの自然景観だ=同町七目郷(町観光物産協会提供)

「新上五島町」を地図で正確に指し示せる長崎県民はどれくらいいるだろう。ましてや県外の人は?
 町には、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の頭ケ島の集落や、コバルトブルーの海と白い砂浜のコントラストが美しい遠浅の蛤浜海水浴場など多くの観光地がある。五島うどん、かんころもち、新鮮な水産物など食文化も豊かだ。
 ところが島外では知名度が低く「上五島→五島列島→五島=五島市」というイメージの図式が生まれがち。新上五島町が埋没するという危機感から「情報発信がうまくいっていないのでは」「これでは経済活性化を期待できない」と憂う町民も少なくない。
 町のホームページアクセス数は2022年度約12万7千件と3年前の約7万1千件から増えているが、観光客数は新型コロナウイルス禍前の水準に達していない。
 五島市とのPR力の差について、近藤聡町観光商工課長は「島の大きさや人口、財力が違う。五島市は民間の力も大きい」と分析。一方、上五島の景観や食文化については「ポテンシャルはある」と胸を張る。3月には初めての釣り大会を予定しており、「(魅力を)ブラッシュアップしながら『上五島』を前面に出して言い続けていくしかない。ターゲットの絞り込みも必要」と考えている。
 青方郷でうどんの乾麺を製造している創業103年の老舗、太田製麺所代表、太田充昭さん(45)も上五島の特色をアピールする必要性を訴える。「五島列島でひとくくりにされると、空港もあり、交通アクセスが有利な五島市に観光客の注目は集まる」と指摘。「名産のうどんの歴史や食文化を紹介するなど『上五島ならでは』をしっかりと打ち出さなければ認知されず、人は増えない」と力を込める。
 町は上五島の急峻(きゅうしゅん)な地形を生かし、ターゲットを絞った新たな取り組みも始めている。交流人口拡大を目指した大型イベントとして1月、山道を走るレース「上五島トレイル」を初開催した。コースを監修した同町出身で日本トレイルランニング界のトップランナー、川崎雄哉さん(38)=静岡県=は「上五島を初めて知った参加者が多く、来てよかったと言われた。イベントは来島のきっかけ作りに有効。次回訪れた時に何を楽しんでもらえるかを考えていかなければ」と先を見据える。
 一方、長崎大経済学部の山口純哉准教授は知名度不足について「情報発信力のせいにしてはいけない」と警鐘を鳴らす。「上五島ならではのセールスや差別化に力を入れて、商品名などに『上五島』を使うべきだ」と強調。もっと満足してもらうためにどうすればいいのか-。「問題意識を持って取り組むことが必要。その結果として知名度がある」と説く。
 「急がば回れ。時間がかかっても上五島ならではをしっかり固めていくことが知名度アップにつながる」とアドバイスする。


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