新生・渋野日向子のスイングはどう変わった? 体の強さが動きに凝縮【解説/目澤秀憲】

渋野日向子の“新生”スイングを解説(撮影/村上航)

米ツアー本格参戦2年目を迎える渋野日向子。今年から青木翔コーチの元に戻り、このオフの約2カ月間でスイングの見直しを行ってきた。球の高さが出るようになり、各番手の飛距離も出るようになったという新しい“振り”を、渋野にとって米ツアー今季初戦のタイで撮りおろし。新生・渋野の最新スイングをツアープロコーチの目澤秀憲氏に解説してもらった。

質のいいドローを目指していた

以前よりトップは”タテ”に(撮影/村上航)

ちょうど2年前、渋野選手がアメリカに行く年にイベントで一緒に仕事をしたことがあって、そのとき本人が「右に球が出るドローを打ちたい」と話していたのを覚えています。当時は、右サイドの側屈(脇腹を縮める動き)が強く、右に倒れこみながらドローを打っていた印象がありました。シャット(閉じる)にフェースを使うタイプなので、右に倒れないと安定してドローが打てなかったのだと思います(左に出球が出やすいため)。

この2年間、軌道をフラットにしてシャロー(低い軌道)な入射を目指すなど、“質のいいドロー”に挑戦してきたと思いますが、「体の使い方、力の使い方がなかなか上手くいってない」という印象でした。

アドレスが大きく変わった

体の強さを感じる構えに(撮影/村上航)

ただ今回彼女のスイングを見て、その変わり様にとても驚きました。2年前のいい部分がアップデートされ、日々のトレーニングの成果がスイングに凝縮されたように感じます。

まず、アドレスからその変化を感じます。2年前はハンドダウンかつワイドスタンスでしたが、今は手の位置が適正なポジションに収まり、スタンスも狭くなりました。以前はここまで狭いスタンスで振れる体ができていなかったのでしょう。ボールも外側(左足側)に出せるようになり、スタンスがオープンからスクエアになったのも体が強くなった証拠。

また、今までは骨盤をロックしたような構えでしたが、今はお尻の筋肉で立てていて、骨盤が可動できるポジションにいます。この状態ならしっかりと地面の力を使えるのではないかと思います。

掌屈の良さが復活

体の強さを感じるバックスイング(撮影/村上航)

バックスイング中も、手元より前(ボール側)にヘッドがあって、ヘッドが垂れる動きが見られません。この動きも体が強くないとなかなかできないこと。体のターン量は自然と増え、なおかつ体と同調してクラブを上げられているので、切り返しに時間が生まれています。トップでこれだけ間(ま)が作れればインパクトゾーンも長くとれますから、緊張した場面などでは有利に働くはずです。

また、手元の位置もヘッドの位置も教科書通りに動かせていて、結果、フェースのシャット度合いも減っています。もともと彼女は左手の掌屈(手首を手のひら側に折る動き。左手の場合フェースが閉じる方向に)が強すぎましたが、今のトップの形を見る限り、掌屈の度合いもそんなに強くない。切り返しで自然と掌屈が入る程度で、いいタイミングで掌屈を生かせるようになっています。

自然な掌屈が入る(撮影/村上航)

掌屈は彼女の強みでもありますが、今までのコンパクトトップだと掌屈が入りすぎてフェースの閉じる具合が増えてしまい、弱点にもなっていました。それだと(左を警戒して)右に振るしかなかったと思います。

体を”3D”に使えている

いいアタリが確定したポジション(撮影/村上航)

今のスイングを見る限り、側屈と体の回転の具合がぴったりで、体を3D(立体的)に使えているように見えます。左右にブレず、スイング中は常に体のセンター(中心軸)にいて、なおかつ足の筋肉のおかげか上と下の分離感も出ています。

インパクトに向かって骨盤がボール方向に近づくことも減り、右に倒れる動きも減っている。ハーフウェイダウンでまさに“ナイスショットが確定したポジション”にクラブを下ろせていて、理想としていた質のいいドローにも近づいているのではと思われます。

この形が作れたのはまさにハードなトレーニングのたまもの。これまでずっと斎藤(大介)トレーナーと作ってきた体を、今回青木コーチがついて、いい方向に導いたのではないでしょうか。

新しいスイングをやり切れている(撮影/村上航)

スイングの変化は、当然クラブの変化にもつながります。これまではベンタスなどのハードなモデルは使えなかったと思いますが、ある程度ハードなスペックを使えるということは、自分の出力が出ているからこそ。これだけ縦振りができるようになったら、上下の力を使いやすいと思います。股関節や肩回りのトレーニングも生きているのではないでしょうか。

年末に青木コーチの元に戻ったと聞いたので、そこからわずか2カ月でこの状態まで持ってきたのは正直すごいと思います。自分の良かった時のことを知ってくれているコーチに戻り、一方で長らく取り組んできた体作りがマッチして、今はそのバランスがすごくいい。ここまで来るのに遠回りしたかもしれないですが、本来は誰よりも実力がある選手。このスイングを見る限り、今年の活躍に期待が持てそうです。(聞き手・構成/服部謙二郎)

新生!渋野日向子のスイングを静止画でもう一度

ハンドダウンではなくなった(撮影/村上航)
体の回転とヘッドの動きが同調している(撮影/村上航)
以前よりタテに上がる(撮影/村上航)
掌屈度合いは減ったか(撮影/村上航)
骨盤が前に出ずに我慢(撮影/村上航)
右に倒れず我慢(撮影/村上航)
厚いアタリ(撮影/村上航)
体を倒さず我慢(撮影/村上航)
タテ方向への振り抜き(撮影/村上航)
ストレートボール(撮影/村上航)
バランスよくフィニッシュ(撮影/村上航)

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