イ・ボミ 単独インタビュー 「引退後も日本ツアーと関わりたい」

日本ツアー引退を表明したイ・ボミが心境を語った(撮影/和田慎太郎)

今季限りでの日本ツアー引退を表明したイ・ボミ(韓国)が27日、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の単独インタビューに応じた。3月2日(木)にスタートする2023年シーズンの開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」(沖縄・琉球GC)に出場。10月の「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」(兵庫・マスターズGC)が国内ツアー最後の試合となる。

「2022年にやめようと思っていた」

決断までは葛藤があったようだ(撮影/和田慎太郎)

―日本ツアー引退を発表した心境は?

発表して、荷が下りた感じ。今はスッキリしています。出る試合が全部大事になってくると改めて思います。出る試合全てで『頑張りたい』という気持ちです。でも正直、きのうまで「発表したくない…」って思ったりもしました。マネジャーから『14時までなら(発表を)止められるよ』って言われて(※27日午後3時に発表)。でも、この試合の推薦出場が開幕直前に決まったこともあって、今回発表するべきなのかなと。あしたからどうなるか…みんな優しくしてくれるかな(笑)。

―引退を決断したタイミング。その後、どんなことを考えながら過ごしてきましたか?

正直、2022年シーズンいっぱいでやめようと思い、会社(所属先=延田グループ)に相談したけれど、自分でもちょっと急すぎかなって。スポンサーの方やファンの方にも失礼だし、もう1年、頑張った方がいいかなと思い直した。1試合でも早く伝えることで、自分も試合を大事にプレーできるようになると思った。“引退ツアー”みたいな感じで、みんなにもあいさつできる。みんなと一緒に、いい思い出にしたいなって思いました。

ゴルフと家族

イメージした引退発表と違った?(撮影/和田慎太郎)

―2015年に年間7勝、16年は5勝して2年連続の賞金女王戴冠。当時の強さの源は?

2014年にお父さんのこと(ソクジュさんが死去)があって、「賞金女王を獲りたい」という気持ちがとても強かった。自分が家族を守らないといけない、というのが大きくて。あの時は、お父さんも空から力をくれていたんだと思っています。家族の力が本当に大きかったですね。

韓国で1度(2010年)、日本ツアーで2度の賞金女王になることができた。当時は優勝できることが幸せだった。でも一方で、ちょっとでも成績が悪かったら「次の試合どうしよう…」って臆病になった。自分のプレーに満足できなくなって、もっとスイングをきれいにしたいとか、もっとうまくプレーしたいとか、試合を楽しめなくなってしまった。振り返れば、競い合うことがしんどくなった時期でもある。そう思い始めると同時に、家族と過ごす時間の方が楽しくなってきた。もしそう思わなかったら、もう少し(現役を)続けられたのかなって今は思う。

―当時のプレッシャーは

成績が良かったときも結構ストレスがあって、泣きながらプレーしていた。ずっと1位にいても、その状態が何試合で変わるかというプレッシャーがすごかった。「2位に落ちたくない」って。2014年の時は途中で成績が落ちていったのも経験してたから(賞金ランク3位)。

―2015年には「日本で引退したい」と話したことが、韓国で大きな話題に。難しい立場にいたと思いますが…

振り返っても、自分は韓国ツアーでなく日本ツアーで長くプレーしているんだから、そこで終えたいと思うのは当然のことだと思った。それを日本のファンも、韓国のファンも理解してくれると思っていた。結果的に、韓国のファンを失望させてしまったことは残念だけど、タイミングとして、当時、日韓の仲が(ゴルフ界ではないところで)良くなかったこともあってか、あのような発言に取られてしまったのかな。韓国では永久シードがあるので、“引退”という概念がないこともある。でも、(当時)イメージしていた引退発表とは全然違う(笑)

後悔と苦悩

変調の理由も明かした(撮影/和田慎太郎)

―日本ツアー通算21勝。2017年を最後に勝利から遠ざかっている。調子を落とした要因は?

2017年「ANAインスピレーション」(女子メジャー・現シェブロン選手権)に行ったときに、選手たちがみんなボールを高く上げて、グリーンの端にあるピンを狙っていた。私は(高く上げることが)できなくて、グリーンセンターを狙うしかなかった。だからバーディパットも長くてチャンスにつけられない。もう少し球を高くして止められる球を打たなくちゃいけないと思った。

それまで“狙うところだけを見て打っていた”のが、スイングを変えて分からなくなってしまった。 (海外の選手は)背も高いし、筋肉もある。レキシー(トンプソン)とは私が6Iのところで、PWを使うほど飛距離の差がある。(相手が)飛ぶから、私も飛ばしたいって思ってしまう。もう一回、あの試合に戻るなら、ほかの選手のことを考えず、もっと自分らしくプレーするべきだったと思う。

ほかの選手たちへの視線に変化も(撮影/和田慎太郎)

―練習へのモチベーションの変化は?

体力的にも問題があると見直した時に、もっとトレーニングしないといけないなと思った。でも体はどんどんしんどくなっていって、『何のために試合に出ないといけないのかな』って思うこともあった。ゴルフ自体は好きで、練習は楽しかった。でも、上手くなるために必要なトレーニングが一番しんどい。できないとゴルフも上手くならない、そんな悪循環だった。

若い選手たちが試合後に練習しているのを見ていると、(時間や練習量、飛距離も)かなわないなと思ってしまう。

以前ノリさん(清水重憲キャディ)に聞かれたことがあって。「例えば、ボミが今、引退して、ラウンドレポーターをやったとする。ほかの選手のプレーを見て『ここはすごい』と思えたり、素直にプレーを称賛することができるか?」。もちろん当時は「できない」と思っていた。自分にはできない、他選手のプレーを見る(称賛する)ことで、自分が劣っていると思うことがすごく悔しかったから。でも今の私は、そう思えるし、それができる。ライバルではあるけど、一歩引いた目線で若手選手たちを見ているのかもしれない。

「ゴルフがまだ頭の80%」

これからもみんなを楽しませていく(撮影/和田慎太郎)

―2019年にイ・ワンさんとの結婚を発表。一緒にゴルフもする仲だとか?

ショット自体は自分の方が上手(笑) 。でも、スコアを見るとあまり変わらなくて。(イ・ワンは)グリーンで20mのパーパットを決めてきて、あきらめないゴルフをする。自分は「長いな…」って思ってしまうけど、『これは絶対に入れる!』って思って打っているみたい。その考え方が自分とは違うなと。そういう強い気持ちが大事なんだ、ということを教えてくれた。結婚してありがたいのは、旦那さんが自分を(気持ちの面で)楽にさせてくれたり、息抜きさせてくれるところ。しんどくても、今まで(キャリアを)続けてこられたと思っています。

―引退後のプランは?

今まで、シーズンが長くて自由な時間がなかった。だから、色んな国を旅したり、自由なことをしたい。おもしろい仕事があったらやってみたい。女子プロに密着取材したり、あとはキッチンカーを出して、選手に韓国料理をふるまったり。とにかくリラックスして選手が楽しんでくれるようなことを企画してみたい。現役選手でなくなっても、日本ツアーとは関わっていたい。ゴルフがまだ頭の80%を占めています。子どもができたら幸せだと思う。でも今は心の整理をして、その先に授かることができたら、もっと幸せだと思う。一つひとつステップアップしていきたい。

(聞き手/石井操、糸井順子)

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