大谷翔平は2度言った「それ専門外です…」 愛読書にルーツ見つけたり!

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――自身の移籍にかかわるお金の話を聞かれて。

「僕はその道のプロではないのでよく分からないですが……」

――今季チームは強くなろうとしているのかという質問に対し。

「僕はもう一選手でしかないので、マイナーでも正直どういう環境でやっているのかは理解してないですし、僕の専門外のところであるかなと思います」

その人は2度、短い間に「それは自分の専門外」という趣旨の言葉を口にした。知らない、ということをはっきりと認めたのだ。

大谷翔平(エンゼルス)。メジャー6年目のキャンプ初日にメディア取材に応じた時間の中でのことだ。

現在28歳。そりゃ一般人よりもはるかに厳しい競争の世界、プレッシャーのかかるステージを経験し続けた人物だ。穏やかに話しているようで、重みがある。知性すら感じさせる。

なんだろうこれ、と思い彼の愛読書といわれる書籍を読み返した。

渋沢栄一「論語と算盤」

北海道日本ハムファイターズ時代の監督、栗山英樹監督から薦められた本であることはよく知られるところ。「日本実業界の父」といわれる渋沢が語った「ビジネスマンの心構え」がまとめられたものだ。

この本の第6章「人格と修養」であるシーンが描かれている。

当時、大蔵大丞という低い役職にあった渋沢の家に西郷隆盛が訪れる。渋沢より12歳年上で、遥かに要職である政府の参議という立場にあった人物がふらっと訪れてきたというのだ。

西郷は他に頼めないある藩の法改正に関する相談ごとを「まぁ計らってくれよ」とお願いに来た。その法について渋沢が「知っているのか」と聞くと、西郷は「知らない」とあっさり認めた。さらに渋沢が「政府の要職にあるあなたが、一つの藩の法の話に首を突っ込むのはいかがなものか」という趣旨で熱心に意見すると、西郷は素直に納得して帰っていったという。

これを渋沢はこうつづっている。

「とにかく明治維新の豪傑のなかで、知らないことは素直に知らないといって、まったく飾り気のない人物が西郷さんだったのだ。心から尊敬する次第である」(渋沢栄一(守屋淳訳)「現代語訳 論語と算盤」ちくま新書2010年134ページ)

大谷はきっと(いや必ず)この下りを読んでいる。同著は現代語訳版と当時の文体そのもののバージョンの双方が流通しているが、目にしているに違いない。

知らないって言えるのはカッコいいのだ。なぜなら「知っていることがある」という確信の裏返しでもあるでもあるから。

そして大谷の専門分野は本当に幅広い。だってピッチングとバッティング、両方知っているという点では人類史上最高峰なのだから。

大谷がそれを語ったシーンは以下の動画にて。

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