WBCで侍ジャパンと対戦 中国ではなぜ野球が流行らないのか

@Getty Images

中国で野球が流行らない理由は、「先入観」と「リーグ運営基盤の弱さ」、そして「北京五輪前に注目を集めた逃したこと」――。

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)2023で日本が3日9日に中国代表と対戦する。中国はWBCに4回出場していずれも1次ラウンド敗退。日本にとっては「勝っておきたい相手」には違いない。

もちろん中国は言うまでもなくスポーツ大国だ。東京五輪では国別のメダル獲得数がアメリカについでの2位。ではなぜ中国は野球強国になりきれていないのか。

史実だけ切り取れば、20世紀前半までは北京の名門大学などで野球が人気を誇ったものの、文化大革命を経て「資本主義的なもの」と見なされ、野球は文字通り敬遠されるようになった。21世紀に入ってプロリーグが発足したものの、安定しないリーグ運営で中断と再開を繰り返している。

「なぜある国がそういった事情にあるのか?」。そういう類の分析は、国外からの視点に頼ったほうがより的確なケースが多い。中国の野球事情をつぶさに見ているのが、韓国・中央日報とネイバー(NAVER)が設立したメディア「CHINA LAB」。2019年3月23日に「スポーツ強国  中国はなぜ野球に熱狂しないのか」という分析結果を掲載し、先入観や基盤のもろさを指摘した。

プロ野球リーグは4チームで運営…

中国の野球不人気が不思議がられるのは、周りの東アジア諸国と対照的だからだろう。日本のプロ野球は今年、パ・リーグが3月30日、セ・リーグが翌31日に開幕する。隣の韓国でも年々盛り上がりを増し、KBOリーグプロ野球(韓国プロ野球)は4月1日に10チームで開幕。台湾も含めて東アジアでは野球は人気のあるスポーツコンテンツで、アメリカの大リーグ(MLB)同様にメディアをにぎわせている。

日本も韓国もキャンプ中からテレビが追いかけ、年末年始はバラエティー番組にも選手たちが登場。WBCに向けた調整試合も行われ、機運は高まってきている。WBC直後のペナントレースは大いに盛り上がることだろう。

ところが、中国ではいまひとつ野球が人気を集めきらない。2019年に発足したプロ野球リーグ(CNBL)も、参加しているのは4チームのみという有様。代表チームはワールドベースボールクラシック(WBC)に初回から参加しているが、サッカーやバスケットボールの人気には遠く及ばない。

サッカーの中国サッカースーパーリーグが1部だけでも18チームも参加しているのに比べると、たった4チームのプロ野球が盛り上がるはずもなく、野球は全くと言っていいほど関心を集められていないのが実情だ。

2017年大会での中国代表=東京ドーム @Getty Images

ではなぜ中国ではなぜ野球が盛り上がらないのか。韓国の「CHINA LAB」は、大きく分けて問題は二つに分けられるとする。

一つは野球に対する偏見が払しょくできていないからだ。試合時間が長く、退屈。ルールが分かりにくい。時間を持て余した富裕層が見るスポーツ――。今でもそんな散々なイメージが付けられ、庶民のスポーツにはなりきれていない。

せっかく「資本主義のスポーツ」という“不名誉”を00年代半ばにすすぐことができそうだったのに、それから15年前後の怠慢は古いイメージを回帰させるのには十分すぎる時間だった、という。

「CHINA LAB」が挙げるもうひとつの要因はシステムの未熟さだ。マンパワー不足とハード不足で、球場は楽しめるものにはなっていない。応援スタイルは各国で異なるが、日米韓の各リーグでは球場といえば、華やかな演出が行われ、スタジアム内外で様々なイベントが行われる。行くだけで誰もが楽しめる場所と言えるが、中国では運営を行える人材が各所で不足している。

ソフトパワーが足りないのだから、ハードも足りないのは当然のことで、練習環境も限られ、レベルも上がらないという悪循環から抜け出せていない。これでは余程のコアなファン以外は楽しめず、もちろん選手自身にとってもつまらないリーグになってしまうだろう。

そんな中国だが、実は現在のリーグが発足する以前からプロ野球は存在していた。2002年に設立された中国野球リーグ(CBL)がそれで、6年後に控えていた北京オリンピック(2008年)に向けた強化も図ろうとしていたのだ。

オリンピック自体は中国でも人気があるスポーツの祭典。それを目指したリーグは一時的にせよ人気を集め、野球が一大娯楽になれる兆しがあった。

しかし、肝心の北京オリンピックでは8チーム中8位の最下位に終わり、野球への関心は急速にしぼんでしまう。リーグから撤退する球団やスポンサーが相次ぎ、2012年と13年はリーグ戦自体が開催されなかった。天から地への直滑降だった。

北京オリンピックでの中国代表 @Getty Images

リーグ戦は基盤がもろく…

2008年の北京オリンピック開催からわずか数年で凋落したのには、リーグの収益モデルがもろいことにも理由にある。スタジアムスポーツの根幹は入場料収入や広告収入だが、日本や韓国では大きな親会社の支援を受ける球団が多く、存立基盤は非常に強固。文化として定着している分、放映権収入、グッズ収入も見込める。

だが、中国では北京オリンピックという旗印こそ良かったが、そうした基盤を育てられず、肝心の選手も集められなくなった。

今回のWBCも苦戦が予想されているが、スポーツ大国のプライドを傷つけるような成績を残し続けるわけにもいかないだろう。

近年、習近平政権はスポーツの産業化、強靭化を掲げ、莫大な資金を投じようとしている。わずか4チームのCNBLも、MLBと提携。韓国とは指導者の交流や協力を通じて、野球産業の底上げを図ろうとしている。今度こそ暗黒時代を終わらせ、飛躍の舞台を整えられるだろうか。

それでも"多い"競技人口

2019年にMLBが実施した調査によると、中国の「野球人口(興味がある人口)」は2100万人という。年に1度以上、試合をしたり、グッズを買ったりして楽しんだ人は1730万人で、このうち観戦者は970万人、プレー経験者は850万人だった。

統計手法が違うだろうから単純比較はできないが、日本の野球の競技人口は700万人超と言われており、中国は競技人口だけでも日本を上回る。その数は一見多そうに見えるが、総人口14億人の中国。バスケットボール、サッカー、卓球、体操、バドミントンの国内5大スポーツはおろか、ベスト10にも入っていないのだ。

野球に積極的に関心を寄せるのはわずか1.5パーセント。この人口規模に面目を一新するポテンシャルはあるだろうか?

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