航空自衛隊内「セクハラ被害」10年間“放置”に現役隊員が提訴 弁護士「二次被害も深刻」

航空自衛隊で働く現役の女性自衛官が、同僚であるベテランの男性隊員からセクハラ被害を受け、自衛隊側に申告するも適切な対応が取られなかったとして、国を相手に慰謝料など約1100万円の損害賠償を求める訴訟を、2月27日に東京地方裁判所に起こした。

女性は那覇基地に着任した2010年から、身体的特徴や性行為に関する発言を繰り返しされるセクハラ被害に遭い、2013年には上司に報告、以来10年にわたり、自衛隊・防衛省の機関など12か所(※)に被害を申し立てたが、一向に適切な対応が取られなかったという。

(※)女性が13年間に相談した機関など①班長、②セクハラ相談員、③法務班、④セクハラホットライン(防衛省人事局)、⑤航空幕僚監部セクハラ相談室、⑥防衛省・自衛隊 公益通報窓口、⑦総隊司令官、⑧河野克俊統幕長(当時)、⑨防衛監察、⑩法務省、⑪人事院、⑫特別防衛監察

組織の責任を追及する裁判

また、女性は2016年に、那覇地方裁判所で加害者を被告とする訴訟を提起したが、加害者側も反訴。この一連の裁判で、那覇地裁と福岡高等裁判所はセクハラを事実上認定した上で、国家公務員である加害者個人の責任は問えないとして女性の訴えを退けていた。加害者は、隊内で一番軽い注意の訓戒を受けただけだったという。

27日の提訴後、記者会見を行った原告弁護団の田渕大輔弁護士は「原告は長い期間にわたり、自衛隊側の不誠実な対応に苦しめられてきた。セクハラ教育の場で、加害者の名前は伏せられたのに被害者である原告は実名をあげられるなど、基地内での二次被害も深刻だ。セクハラ後の自衛隊の対応を問題としてこの裁判を提訴した」と説明。

同弁護団の佐藤博文弁護士は「現職の自衛官が声をあげることがどれだけ大変なことか。彼女の勇気と決断に敬意を表する。この裁判は何としてでも勝ちたい」と力を込め、「自衛隊だけではなく、ハラスメントに対する『組織の責任』を追及する裁判にしたい」と話した。

提訴後の記者会見。左から「自衛官の命を守る家族の会」樋口のり子さん、武井由起子弁護士、佐藤博文弁護士、田渕大輔弁護士(2月27日東京・霞が関/弁護士JP)

自衛隊内で相次ぐハラスメント・労働問題

防衛省が組織内のハラスメントの実態を調べるため、昨年9月から全自衛隊を対象に実施した「特別防衛監察」では、パワハラやセクハラなどの被害申告が1414件あった(11月末までの集計分)。

さらに自衛隊の労働環境をめぐっては、今年すでに2件の裁判が提訴されているほか、国側の安全配慮義務違反が認められた判決も1件出されている。

◎自衛隊が訴えられている主な裁判

  • 1月30日、陸上自衛隊郡山駐屯地で性被害を受けた元自衛官の五ノ井里奈さん(23)が国と加害者の元隊員ら5人を相手取り、計750万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。
  • 2月3日、海上自衛隊でのパワハラの被害を海上幕僚監部に訴えたところ、隊内の捜査機関である警務隊に不当に逮捕されたとして、パワハラの被害に遭った20代の男性と、上司で横須賀基地に所属する男性自衛官が、計約1000万円の国家賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。
  • 2月21日、陸上自衛隊松山駐屯地に勤務していた男性(当時28)が自殺したのは、過重な長時間労働などが原因だったとして、大津地方裁判所は国の安全配慮義務違反を認め約7800万円を遺族に支払うよう命じる判決を言い渡した。

20年前から変わらない? 自衛隊の体質

会見に出席した、護衛艦「さわぎり」内での自死(※)で息子を亡くした「自衛官の命を守る家族の会」共同代表・樋口のり子さんは、「息子を失ってから24年たつが、自衛隊内の状態は(当時と比べ)さらにひどくなったように感じる。声をあげられず、泣き寝入りをしている隊員もいるかもしれない。女性の裁判も支援しながら、他のつらい思いをしている自衛官のためにも力を尽くしたい」と語った。

(※)海上自衛隊護衛艦さわぎり事件…1999年、海上自衛隊の3等海曹(当時21歳)が護衛艦さわぎりに乗艦中に自死。いじめが疑われたが、事故調査委員会はいじめの事実は認められないという調査結果を公表した。しかし、福岡高等裁判所が上司の言動を「指導の域を越える違法なもの」と認定し、国に350万円の支払いを命じた。(福岡高裁平成20年8月25日判決)

提訴後、原告は弁護団を通じて発表したコメントで、提訴にあたり上長から「過去のことを掘り返すな」と言われたことを明かし、「しかし私にとっては過去のことではなく、今なお私を苦しめ続けています」とつづった。自衛隊に対しては、「きちんと行動ができる組織になって欲しい」と訴えた。

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