味の決め手は半殺し?真田彬乃さんが作る”進化系おはぎ”

石川県民は甘いものが大好き。

なかでもあんこを主役にした「おはぎ」の人気は年々高まっていて、日本三大和菓子処としても知られる金沢市を中心に、おはぎを売りにするお店が増えています。

そんなおはぎですが、今金沢でもっとも注目を集めているお店といえば、金沢市神宮寺にある「ASIAGOHAN to OHAGI ZEN」で異論はないでしょう。

先代から受け継いだおはぎの味。

オリジナリティあふれる創作エスニック料理が食べられるお店として、金沢でも一二を争う人気の「ASIAGOHAN to OHAGI ZEN」ですが、おはぎの歴史はそれよりもっと前。店主の真田貴史さんのお父さんの代からおはぎを作り続けているんです。

真田家に伝わるおはぎ作り。お父さんが鬼籍に入られた後は貴史さんがあんこを炊き、お母さんと奥様の彬乃さんのふたりでおはぎを作っていましたが、昨年4月にお母さんが引退したのをきっかけに、あんこ炊きからおはぎ作りまでを彬乃さんが一手に引き受けることになります。

店主の真田貴史さんと奥様の彬乃(あきの)さん。

ーーおひさしぶりです。しばらく見ないうちにだいぶ変わりましたね!
彬乃さん:アハハ、坊主にしちゃいました。

ーーお似合いだと思います!そういえばお店の雰囲気も変わったような。
彬乃さん:そうなんですよ。昨年の春にリニューアルして、おはぎ専用の厨房も作ったんです。

ーーおはぎ作りを任されるようになって、もうすぐ一年になりますね。
彬乃さん:早かったですね〜。先代の味を受け継ぎながら、時代とマッチした「おはぎ」を作るにはこの先どうすれば良いのか。この一年でたくさんのことを学びました。

ーーあんこも彬乃さんが炊いているんですよね。
彬乃さん:そうですね。厨房は新しくなったけど、先代がこだわった鍋で炊く形は残したくて。手間はかかるけど、機械で作るよりも程よく粒が残って小豆の風味が感じられるし、少量ずつ作るからフレッシュな状態で提供できるんです。

ーーなるほど。
彬乃さん:じつは先代から直接あんこの炊き方を教わったこともありまして。そのときに聞いた「たかがおはぎ されどおはぎ」という言葉は今でも胸に残っています。

お昼すぎから小豆を火にかけ、やさしく混ぜながら、煮込むこと数時間。炊き上がるのは夕方くらいになるそう(写真提供:OHAGI ZEN)

ーー小豆はどんなものを使っているんですか?
彬乃さん:北海道産の小豆が中心となりますが、生産者や品種にこだわらずに少量ずつ仕入れながら、試行錯誤を繰り返しています。30kg買ったら次は違うものを、みたいな感じですね。

ーーたしかに小豆と言っても色々な品種がありますもんね。
彬乃さん:そうなんです。例えばこの前まで使っていた小豆は皮がしっかりしていたけど、今使っている小豆は皮が薄くて柔らかい。それぞれの持ち味を最大限に引き出すように、火にかける時間や砂糖の分量を変えたりしながら、あんこを炊いています。

ーーおはぎの餅の部分はどうやって作るんですか?
彬乃さん:朝一番に餅米を炊き上げて、まずは半殺しにする所から始まります。

ーーは、半殺し!?
彬乃さん:あっ、半殺しというのは、米の粒が残る程度に潰した状態のことで、お餅らしい食感の中にも適度な歯応えを感じることができるんです。ちなみにお米の粒が残らない状態まで潰したものは、本殺しや全殺しと呼ぶんですよ。

ーーそうなんですね。びっくりした〜。
彬乃さん:半殺しの餅を使うのも先代のこだわりで、潰して、広げて、取り分けて、丸める前にもう一度グーで叩いてあげるといい具合に粘りが出て、もっちりとした食感になるんです。

ーー餅米はどんなものを使っているんですか?
彬乃さん:県内産の餅米と黒米をブレンドしたものを使っています。餅米は小松市のジャパンファームさんにお願いして、無農薬無化学有機栽培の「カグラモチ」を作ってもらっているんですよ。

餅米のもちっとした食感と黒米のプチプチした食感が組み合わさった食感の妙が楽しめる。

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時間はかかっても、手仕事にこだわりたい。

ーー彬乃さんは普段どんなことを考えながらおはぎを作っているんですか?
彬乃さん:お母さんからはよく「ひとつずつ美味しくなるように作るんだよ」って言われていて、そのためにも自分自身が楽しみながら作ることを大切にしています。 こだわっていることはありますか? 餡炊きからおはぎを包むまで、ひとつずつ丁寧に手仕事ですることです。その際にも保存料や合成着色料は使わずに、素材本来の自然な味を楽しんでもらいたいと思っています。

ーーなにをしているときが一番楽しいですか?
彬乃さん:う〜ん、やっぱり考えているときですかね。素材がシンプルだからこそ美味しくするには知恵を絞らないといけないけど、それはやりがいにもつながります。あとは季節のおはぎを楽しみにしてくれるお客さんも多いので、どんなもの作ると喜んでもらえるかを考える楽しさもありますね。

ーーZENのおはぎって、昔から見た目もキレイですよね。どうしてなんですか?
彬乃さん:とにかく丸く、丸く、まん丸に包むのが先代からの言い伝え。飾り付けも全体のバランスを考えながら、可愛らしい佇まいになるように心がけています。

(写真提供:OHAGI ZEN)

ーー甘さ控えめなのもZENのおはぎの特徴ですよね。
彬乃さん:はい。砂糖は少なめで保存料も使わないので日持ちはしないけど、そのぶんいつもよりひとつふたつ多く食べられるおはぎだと思います。

ーー年配の方とか病気がちな方にとっても、甘さ控えめだと食べやすくて良いですよね。
彬乃さん:そうなんです。とはいっても物足りなさを感じてはいけないので、餅米の甘さを引き立てたり、フルーツを使ってみたり、自然な甘みを引き出すような工夫はしています。

ーーふむふむ。
彬乃さん:子どものおやつとしても食べてほしいから。これからも石川の素材と向き合いながら、食べる人に寄り添った、身体に優しいおはぎを作り続けていきたいですね。

OHAGI ZENのおはぎを大解剖!

現在のラインナップは以下の8種類(季節のおはぎ⑦⑧は変更の場合あり)

① 北海道小豆ZENの粒あん
② 金沢有機きなこ
③ 加賀棒茶
④ 宇治抹茶と黒豆
⑤ アーモンドココナッツ
⑥ こし餡ピスタチオ
⑦ 金柑とアールグレイ
⑧ 苺ミルクショコラ

こちらをひとつずつ彬乃さんに解説していただきましょう!

北海道小豆ZENの粒あん

彬乃さん:定番人気の粒あん。小豆を入れた鍋をじっくり火にかけて、ほどよく粒を残して炊くのが先代からの言い伝え。ほんのりと甘い香りが漂う、小豆の本来の味を楽しめるのが特徴です。

金沢有機きなこ

彬乃さん:地元金沢で生産された有機きな粉をたっぷりとまぶした一品。お餅の中には粒あんが入っていて、お子様も食べやすいおはぎになっています。

加賀棒茶

彬乃さん:加賀棒茶で炊いた白あんを使用。あっさりとしながら濃厚な棒茶の香りが口の中に広がる、女性にとっても人気のおはぎです。

宇治抹茶と黒豆

彬乃さん:抹茶の香りが漂う上品なおはぎ。サトウキビや金沢の醤油をベースにじっくり2日間かけて炊き上げた黒豆の塩味が、おはぎの甘さを引き立ててくれます。

アーモンドココナッツ

彬乃さん:先代の頃から変わらず一番人気。白あんにアーモンドの粉末を混ぜて炊いたあんこは、洋菓子のようにも感じられます。おはぎの上には、砕いたアーモンドをトッピングしています。

こし餡ピスタチオ

彬乃さん:滑らかなこしあんとピスタチオの香ばしさが楽しめる洋風おはぎ。ローストしたピスタチオを砕く際には、食感が楽しめるように細かさが均一にならないよう工夫しています。

金柑とアールグレイ

彬乃さん:アールグレイで炊いた白あんに、金柑、紅茶の葉、しょうが、八角、砂糖などで手作りしたチャツネを加えた、エキゾチックな味わいが特徴。自家製のドライ金柑をトッピングしてみました。

苺ミルクショコラ

彬乃さん:バレンタインの季節に合わせて作ったおはぎです。半分がチョコレートあん、もう半分がミルク餡になっています。

オンラインストアが開設され、今月からお取り寄せも可能になった「OHAGI ZEN」のおはぎ。先代がこだわった手作りの製法を受け継ぎながら、アイデア満載の彬乃さんが手がける進化系おはぎの快進撃は、まだまだ続きそうです。

暮らしと共にあるZENのおはぎ。

ASIAGOHAN to OHAGI ZEN(あじあごはんとおはぎぜん)
住所/石川県金沢市神宮寺2丁目10-11
TEL.076-251-1060
営業時間/ランチ11:00〜14:30(L.O.)、おはぎ11:00〜16:00(なくなり次第終了)
定休日/日曜、月曜日
席数/27席
駐車場/12台
※こちらの情報は取材時点のものです。

(取材・文/BONNO編集部、撮影/林 賢一郎)

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