[ウインターカップ感動大賞/男子チーム部門]東海大付諏訪・入野貴幸コーチインタビュー「バスケをとおして人生を生き抜くための基軸を作ってほしい」

感動大賞「男子チーム部門」を受賞したのは東海大付諏訪

ウインターカップ2022の感動大賞、男子チーム部門は4年ぶりに東海大付諏訪が受賞。今大会ではベスト8まで勝ち上がり、大いに大会を沸かせてくれた。そんなチームを指揮した入野貴幸コーチに、改めて大会を、そして1年間を振り返ってもらった。

※『月刊バスケットボール』4月号(2/25発売)に掲載しきれなかったものを記事にしています。

■東海大付諏訪 大会勝ち上がり

1回戦vs.別府溝部学園(大分) 86-78

2回戦vs.広島県瀬戸内(広島②) 105-70

3回戦vs.実践学園(東京②) 82-64

準々決勝vs.開志国際(新潟①) 57-91

■感動大賞 男子チーム部門 投票結果

1位 東海大付諏訪(133票)

2位 福岡第一(132票)

3位 桜丘(69票)

4位 福岡大附大濠/市船橋(65票)

ディフェンスにフォーカスした非常にすばらしい大会になった

――まずは受賞の感想を教えてください。

「まずはありがとうございます。うちで本当に良かったのかなっていうのが正直なところですが、ウインターカップでの3試合やトップリーグなども含め1年間応援してくださった方々に評価していただいたと捉えるのならば非常にうれしいです」

――チーム部門での感動大賞受賞は4年ぶりです。今年の3年生の中には当時のチームに憧れて諏訪に入学してきた選手もいると思いますが、いかがでしょうか?

「そうですね。北村(孝太/中央大4年)たち当時の3年生や黒川虎徹(東海大3年)たちの姿を見て入学してきたのが#14髙山鈴琉や#5石口直、#3中川知定真なので、そういう面でいくと、今年はさらに進化した諏訪のバスケを体現してくれたなと思いますね」

――改めてウインターカップ全体を振り返ると、どんな大会でしたか?

「もう一回原点に立ち返ってディフェンスを頑張るんだということをずっと言ってきました。私自身、別府溝部学園との1回戦から全く気は抜いてなかったですし、相手は外回りの選手も留学生も非常に良いチームでした。そんな相手に対して大会の入りの1Qですごく良いディフェンスができました。100点満点のゲームというのは年間を通してもそう多くはできませんが、それができなくても負けない戦い方をしていくという意味では、ディフェンスにフォーカスした非常にすばらしい大会になったような気はします。最後の試合(準決勝vs.開志国際)は除いてですが(笑)」

大会前、選手からあった"うれしい"申し出

――今年度はタレントもそろっていて、優勝も狙えるようなメンバー構成でもあったと思います。改めて1年間を振り返るとどんなチームでしたか?

「今まではどうしても5番ポジションの選手が3Pシュートを打てない部分がありました。ただ、うちは日本人だけのチームなので、どうしてもビッグマンをコートに入れる必要があったんです。そんな中で、今年は全員がオールラウンドにプレーできるのが特徴で、それにプラスして個の力が結構強かったです。だからこそ、数字に表れない“ゴーストスタッツ”を大切にすることを私もいろいろなところで発言して、『そういうところで頑張っていくのが諏訪メンタリティーだ』と、子どもたちにも分かりやすいキーワードとして伝えるようにしてきました。

そう考えると開志国際との試合で一番頑張ってくれたのが(#99櫻田)睦人だったのは、いいことだったのかもしれないです。彼はどちらかというと年間を通してみんなに注意される側だったんですけど、最後には独り立ちしてくれましたし、そういうところなどで選手個々の成長した姿には感動しましたね」

――新チームが始まったときからどのように成長していったのでしょうか?

「もともとポテンシャルはあったのですが、インターハイでの敗戦からもう一度立ち直ってトップリーグも良い機会になったので試合ごと、大会ごとに成長していった感覚です。その分、もっともっと自分たちで成長の速度を上げていかなきゃいけなかったというのは振り返りの反省ではありますね。ただ、トップリーグが始まった頃は、皆さん諏訪を厳しい目線で見ていたんじゃないかなと思うんですけど、トップリーグでの経験で毎試合ごとに準備、本番、反省の繰り返しができたので、気付いたら日本一を狙えるチームになっていったと思いますね」

――ウインターカップで一番印象的だったシーンはどんなものですか?

「大会期間中は試合当日の午前中に都内で借りている体育館に移動して練習をしていたのですが、そのときに子どもたちとああでもないこうでもないと話している時間がすごく楽しかったです。あと、大会に入る前に子どもたちの方から『先生、オフェンスはこうしてほしいです』という申し出があったんですよね。それはすごく良いことだと思っていて、指導者の言うことに対して全部『はい』と答えるよりも自分の意見をしっかりと持って、それを言えるというのは目指してきた自主自立に通ずるところでした。高校生だとなかなか先生に進言するって難しいことだと思うんです。だからこそ、大会前にそういう声が出てきたのはすごく印象的でしたね」

飛躍的な成長を遂げたキャプテンの石口直

「最後に成長した姿を見られて彼らに感銘を受けた」

――3年生との3年間を振り返るとどんなシーンが印象深いですか?

「この代は入学していきなりコロナで2ヵ月くらい会えない期間もありました。彼らがどう思っているかは分かりませんが、個人的にはもっと彼らと一緒にいたかったなという気持ちですね。印象深かったことというと先ほどと同じで最後のウインターカップです。最後の最後で自分たちの意見を持って、しっかりとそれを伝えられたところに成長したのがやっぱり印象深いです。それまでにどんなシーンがあったとしても、最後に成長した姿を見られて彼らに感銘を受けたというか。日々たわいもないコミュニケーションはたくさん取っていましたが、最後に彼らからちゃんと意見を言ってきてくれたのがすごくうれしかったです。

――3年生と新チームの1、2年生へのそれぞれの期待を教えてください。

「諏訪の良さって“心の持久力”があることだと思うので、それは1、2年生も3年生も、卒業生にも大事にしてほしいなと思います。よく、『努力は裏切らない』と言うじゃないですか。でも、私は最近それよりも『夢中は努力を上回る』と思うんですよね。1、2年生も3年生も本当にバスケに熱中するというか、バスケが本当に好きだと思うのでとにかく夢中になって、勉強や日常生活などのやるべきこともやってほしいです。バスケを通して社会に貢献する人材になってほしいというベースは変わらないので。バスケに夢中になれる時間は今しかないと思うので、ご飯を食べることよりも練習に夢中になってほしいなと思います(笑)」

――石口選手が「死ぬ気で努力すれば本当に楽しいから」と言っていたのが印象的でした。そういった言葉にも通ずる部分かもしれないですね。

「そうですね。夢中になってやるというのは仕事でもそうだと思いますが、気付いたら時間が過ぎているというか。直の言葉も夢中になっていたらいつの間にか時間が過ぎていたということを言いたんだと思うので、そういうのが何よりも強さやその人にとっての支えになるのかな、と。バスケを通して人生を生き抜くための基軸みたいなものを作ってほしいし、彼らには私たちをワクワクさせてほしいです。指導者は子どもたちが成長している姿を見るのが一番の楽しみですから。

これは余談ですが、かつて僕が担任をしていたクラスのバスケ部ではなかった生徒がLINEで『今の諏訪を見て自分も仕事を頑張ろうと思った』とくれたんです。『こんなに一生懸命にやっている高校生の姿を見ると、俺は何をやってんだろう。入野先生に教わったからにはもっと仕事を頑張ろうといつも励みになっています』と。私はバスケで勝つことだけじゃなくて人間力の向上にも常々触れているので、連絡をくれた彼のように、それが多くの人に伝わった結果の感動大賞であったならば、本当に心底からうれしいです」

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