「ウイグル人の子どもに謎の治療」は根拠不十分 高気圧酸素による治療か

検証対象

※各動画のスクリーンショット。ぼかし加工は筆者による。> 中国は東トルキスタンで弾圧を続けている。 こちらは中国のソーシャルメディア上で共有されているビデオで、ウイグル人の子どもたちに対して謎の治療を行っていると。 また、多くの若者に詳細不明の薬などを無理矢理飲ませてから亡くなったと。

(※動画付き投稿)

一般ユーザーのTwitter投稿(2023年2月18日、約2500RT)

判定

判定の基準について

これは日本でも一般的な「高気圧酸素治療」であると考えられ、不適切な処置と見なす特段の根拠は無い。

ファクトチェック

動画には、病院らしき施設内で複数人の子供たちが円筒形の装置に入っている様子が映され、周囲では操作する大人などの姿も見える。装置には中国語らしき文字が書かれているが、子供たちの顔立ちは中国で多数派の漢民族風ではない。

検証対象のツイートはこれを「謎の治療」と表現し、何らかの非人道的な処置が行われていると示唆している。

なお、本稿ではこの「謎の治療」という言及のみを検証対象とし、ツイート中の他の主張については詳述しない。東トルキスタン(中国・新疆ウイグル自治区)におけるウイグル人の「弾圧」の実態は既に様々な証拠によって明らかにされ、国際的な非難が高まっている(参照)。一方、「詳細不明の薬」については根拠が明らかではない。

高圧酸素用の装置か

動画の出典は不明だが、この装置が何のためのものかは動画内の情報からある程度推定することができる。まず手掛かりとなるのは、装置に書かれた「YLC0.5/1.5型」という型番らしき文字列だ。

2本目の動画、0:03付近のスクリーンショット切り出し

これを検索すると、中国・貴州省の産婦人科・小児科医院による、動画のものとよく似た装置の紹介ページが見つかる。紹介されているのは「武汉海博瑞」という会社の「婴幼儿氧舱(乳幼児用酸素チャンバー)」で、「婴幼儿氧舱」は動画で型番の左に見える文字とも一致するようだ。

中国の病院で使われている「乳幼児用酸素チャンバー」(出典:六盤水婦幼保健院

「婴幼儿氧舱」で検索すると、メーターのデザインなど、より動画のものに外観が近い装置の写真を見つけることができる(例1例2)。いずれも、「高压氧治疗(高圧酸素治療)」または「高压氧舱治疗(高圧酸素チャンバー治療)」と呼ばれる、密閉された容器(チャンバー)内に高濃度の酸素を注入して気圧を上げ、患者の体内に多くの酸素を取り込ませる治療法に関するものだ。

日本でも一般的な治療法

この治療法は日本では「高気圧酸素治療(HBO)」などと呼ばれ、多くの医療施設で取り入れられている。東京医科歯科大学病院日本医科大学付属病院の解説によれば、その適応疾患はガス中毒、脳梗塞、突発性難聴、腸閉塞、外傷など多岐に及び、条件によるが保険も適用される。

検証対象の動画には、これがいつ、どこで撮られた光景なのか、子供たちは本当にウイグル人なのかなど、不明な情報が多い。そのため、子供たちがなぜこの処置を受けているのか、高気圧酸素治療を行うのが適切な状況なのかは判別できない。そもそも、これが「高気圧酸素治療に見せかけた全く別の処置」である可能性も完全な否定はできない。

また、ウイグル人に中国当局が適切な医療を提供していることを強調するプロパガンダ的な意図がこの動画に込められていないとも限らない。中国軍の機関紙「解放軍報」は2021年、急性一酸化炭素中毒のウイグル人住民が軍による救護と高気圧酸素治療によって救命され軍に感謝の言葉を述べたという記事を掲載している

とはいえ、少なくとも判明している情報からは、検証対象の動画で子供たちは日本でも行われている一般的な治療を受けているように見える。非人道的行為の存在を裏付ける特段の根拠が無いため、「謎の治療」との主張は「根拠不十分」であると判定する。

(大谷友也)

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