国宝・旧閑谷学校講堂 耐震化へ 岡山県教委 23年度後半にも着手

岡山県教委が耐震化事業に乗り出す旧閑谷学校講堂。「教育県岡山」の象徴を後世に残すため2023年度に着手する=2月27日、備前市閑谷

 岡山県教委は2月28日までに、江戸時代前期の建立で現存する世界最古の庶民学校とされる国宝・旧閑谷学校講堂(備前市閑谷)の耐震化事業に乗り出す方針を固めた。講堂は文化庁の耐震診断で強度不足の可能性が指摘されたものの、多額の事業費が見込まれることから対応を慎重に検討していた。南海トラフ地震を含めた大規模災害の発生リスクも見据え、「教育県岡山」の象徴として後世に残すため抜本的な措置が必要と判断した。

 文化財の耐震化は、特殊な工法が必要なため資金の確保がネックとなって全国的に進まず、旧閑谷学校講堂のケースが先行例となるか注目される。県教委は2023年度後半にも本格的な耐震診断に着手し、専門家による委員会を設けて具体的な工法を検討。工事完了まで最長で10年程度を要する大事業となりそうだ。

 関係者によると、建物の強度や地盤の状態を調べる耐震診断には約2年かかる見込み。現時点で具体的な工法は見通せていないが、文化財としての外観や価値を守りながら工事を進める必要があり、費用は少なくとも数億円に上るとみられている。

 閑谷学校は岡山藩主・池田光政が1670年に創建。代表的な建築物である講堂は1701年に建立され、1953年に県有施設で唯一の国宝に指定された。入り母屋造りで、内室はケヤキの柱10本が天井を貫く構造。現在も地元の高校生らが論語に関する学習などに使用している。

 一方、文化庁が2011年に公表した簡易耐震診断では、講堂の大広間に壁がなく、柱も少ないとして不安定さが指摘された。県教委はこれまで、地震時に建物外への避難を促す看板の設置といった応急的な措置を講じていた。

 岡山県の伊原木隆太知事は28日の山陽新聞社の取材に対し、「旧閑谷学校は先人たちの熱い思いが詰まった教育県岡山の礎だ。まさに岡山の宝だけに、しっかりと対応していきたい」と話した。

文化財でのモデルケースに

 建築遺産に詳しい上田恭嗣ノートルダム清心女子大名誉教授の話 旧閑谷学校講堂は当時の技術を結集したわが国でも最高ランクの建築遺産であり、耐震化のめどがついた意義は非常に大きい。国宝だけに慎重なプランの策定と施工が求められるが、文化財の耐震化の重要性を世に示すモデルケースになり得る。そのためにも事業の過程をなるべく公開し、社会で共有することが大事だ。

ここポイント!

 2011年の東日本大震災では国宝、国重要文化財など500件を超える被害が報告され、16年の熊本地震で国重文の櫓(やぐら)などが被災した熊本城の惨状も記憶に新しい。文化庁の簡易耐震診断では、旧閑谷学校講堂を含む岡山県内の国重文108棟のうち6割以上の68棟で構造などの課題が指摘されている。所有者や自治体には南海トラフ地震をにらんだ対応が迫られるが、多くは費用負担を前に二の足を踏んでいるのが実情だ。

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