北陸新幹線が来れば移住者増加、福井県内で探る共生の道 池田町の七か条は「ミスマッチ防ぎたかった」

【グラフィックレコード】移住者がやってくる
住民の女性(右)と談笑する愛知県出身の竹内祥太さん。冬になると、高齢世帯の屋根雪下ろしを手伝う=2月3日、福井県福井市中手町

 自然豊かな福井県福井市美山地区の中手町集落には、移住者がコンスタントにやってくる。愛知県出身の竹内祥太さん(34)は2018年に移り住み、養蜂を営みながら妻と暮らす。きっかけは、大阪にいた頃に読んだ「福井人」というガイドブック。自給自足の生活を心がける県外出身者のグループがこの集落に開いたカフェ「手の花」の記事を読み、緑にあふれていて移住者が過ごしやすそうな雰囲気に引かれた。

 移住後、竹内さんは手の花関係者から受けた「地域の清掃や寄り合いなどの行事は積極的に出た方がいい」とのアドバイスを実践。高齢世帯の屋根雪下ろしも手伝う。住民は移住者の対応に慣れており、竹内さんは「適度な距離感で付き合ってくれる」と話す。

 町内会の役員の男性(65)は「かつては移住者との間で摩擦やすれ違いもあったが、今はそういうことはない」。竹内さん宅の近所の女性(93)は「空き家が増えるより、にぎやかな方がいいね」と笑顔を見せる。

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 同県の越前町漁協は人手不足を背景に、09年頃から外国人技能実習生の受け入れを始めた。現在、インドネシアを中心に75人が働く。「外国人は漁を支える欠かせない戦力」と漁協担当者。多くは3年間の実習期間終了後も働き続けられる新たな在留資格「特定技能」に移行している。

 外国人は越前地区内の空き家だった民家で暮らしている。「騒がしい」「コンビニでたむろしていて怖い」。当初は近隣住民から不安の声が出た。日本の若者とのけんかもあった。

 住民との交流は徐々に増え、毎年恒例の祭りでは地元の男衆とみこしを担ぎ、喝采を浴びた。3年前には漁港で溺れていたワカメ採りの高齢者をインドネシア人4人がロープで防波堤に引き上げ、近くの病院に連れて行き、県警鯖江署から感謝状を受けた。同漁協の山本こずえ課長は「今も不満の声はなくならないが、住民は少しずつ外国人を受け入れ始めている」と話す。

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 北陸新幹線が福井につながれば、観光客だけでなく、都市と地方の「2拠点居住」を含めた移住者の増加も予想される。

 移住・定住政策に力を入れる同県池田町では昨年12月、区長会が移住者の心得を説いた「池田暮らしの七か条」を提言した。「都会風を吹かさないよう心掛けて」「品定めがなされていることを自覚して」などの文言が町の広報誌に掲載されると、町内外で物議を醸した。

 同町の高齢化率は45%超。一方、移住者は比較的若い世代が多い。提言策定に携わった前区長会長の男性(68)は「若者や子育て世代は拝みたいぐらいの存在。ただ、風土や伝統、文化もないがしろにはできない。互いの価値観を尊重し、共生したい。ミスマッチで移住者が出て行かないようにしたかった」。

 同町の人口は昨年9月時点で2327人。過去5年で300人以上減る中、年間20人ほどが町外から移り住んでいる。移住者の存在感が高まる中、受け入れ側も共存共栄の地域運営を模索している。

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