あつれき以前より大きく「石木ダム」 対話で解決、期待が <検証・大石県政 就任1年④>

石木ダムに反対する住民と話し合う大石知事(中央)=昨年9月、東彼川棚町

 国の事業採択から48年たつ今も完成していない石木ダム。4人の歴代知事がなしえなかった長崎県の重要課題を引き継いだ大石賢吾知事は「対話による解決」を掲げた。就任9日目の昨年3月10日に東彼川棚町の工事現場を訪れ、反対住民にあいさつ。その後も面会を重ね、良好な関係構築を目指したが、同9月を最後に話し合いはストップし、再び溝が深まっている。
 2度目の訪問となった同4月。知事は作業着姿で、住民11人と一緒に水没予定地を約1.5キロ歩いた。川べりにホタルが飛び交う様子や古里への思いなどを聞きながら約1時間。住民の先祖が眠る墓参りも申し出て、持参した線香を供え手を合わせた。
 「(初面会で)見て回ってほしいと言ったが実現するなんて。こんな知事は初めて。わずかでも希望を持ちたい」。案内した岩下すみ子さん(74)は少なからず期待感を抱いた。
 同8月、屋内での「対話」が実現。2019年に中村法道知事が県庁で向かい合って以来約3年ぶりだった。大石知事は家屋などを強制撤去する行政代執行について「無理やり造るのではなく、しっかりと理解を得た上で進めたい」と改めて述べた。
 ところが同9月の話し合いは、ダムの必要性を巡って平行線をたどる。既に司法で結論が出ているとして「議論する段階にない」とする知事に対し、住民側は「議論を」と譲らない。岩下和雄さん(75)は「最初から必要と言うのなら、すぐにでも行政代執行すればいい」と突き放し、妻すみ子さんも「ダムありき。ムカムカする」と声を荒らげた。春に膨らんだわずかな希望がしぼんだ。
 対話が途切れて約半年。この間、佐世保市の朝長則男市長は、収用地を買い戻す権利(買受権)を住民が得る可能性があるとして、収用地での着工を県に迫った。同市議会も早期完成を求める意見書を可決した。
 今なお知事は「対話による解決」に向けて現地に足を運ぶが、ある県議は「額面通りには受け取れない」という。事実、県は2月に入ると、住民に収用地での耕作中止を求める文書を出した。さらに同月下旬には「工程に沿って」(県河川課)収用地でも工事を始めた。
 変化に対する期待が大きかった分、住民の落胆の色は濃い。70代女性は「お墓も参ってくれて『今までの知事とは違う』と期待したけれど、2度の話し合いで『変わりないな』と思った。むしろ若いから今までの知事より、前に進めるのではないか」と警戒する。双方のあつれきは以前よりも大きくなったようにも映る。

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