ゴルファーズビークルの王道を行く フォルクスワーゲン「ゴルフヴァリアント」

2022年の後半、フォルクスワーゲン「ゴルフヴァリアント」に、2.0リッターのTDIクリーンディーゼルエンジンが追加された。ゴルフヴァリアントTDIを試乗してみて、ゴルファーに最適なクルマではないかと感じた。

理由は、これ以上何を望むか、と感じるほどの完成度の高さだ。走行性能もスペースユーティリティも磨きに磨き抜かれ、完成型といってもいい出来栄え。そこに燃費もドライブフィールも優れたディーゼルエンジンを積み、さらに広々とした荷室を誇るステーションワゴンのボディを備えている。

走り出して真っ先に感じるのが、TDIクリーンディーゼルの心地良い加速だ。ゼロ発進からタイヤが回り始めて、5メートル、10メートルと進む時の余裕がうれしい。ストップ&ゴーが続く都心の渋滞でもおおらかな気持ちでいられる。スペックを見ると、360N・mという大トルクを、1600rpmというアイドル回転のちょっと上ぐらいの領域から発生しているのが分かる。1.5トンという、そこそこ重いボディを苦もなく引っ張る。昭和の昔はスペック表を見て、「0-400m加速」が速いとか遅いといっては騒いでいたけれど、令和のゴルフは「0-5m加速」が気持ち良い。

TDIクリーンディーゼルのいいところは、ただ力があるだけでなく、ホロホロホロという回転フィールが朗らかで、楽しい気分になることだ。楽しいディーゼル、という点では、BMWのディーゼルエンジンに近づいた、あるいは並んだといってもいいだろう。 しかも高速巡航時は、有能な執事のようにさっと存在感を消す。一定の回転数をキープしていると静かで振動もない。「ゴルフは実用車の鑑」といわれてきたけれど、もはやプレミアムカーといっていいほど走行感覚は上質だ。TDIクリーンディーゼルに好印象を抱くのは、ツインクラッチ式の7段DSGの絶妙な仕事のおかげでもある。変速は気づかないほどシームレスであるけれど、注意して観察すると、スッスッスッと、早め早めのタイミングでシフトアップして、回転数を下げて燃費を稼いでいることが分かる。一方、アクセルペダルを踏み込むと、素早くスパッとキックダウンで低いギアに落とし、加速してくれる。エンジンとの巧みな連携を見せるDSGもまた、完成の域に達している。

高速巡航時にプレミアムカーだと感じた理由は、どっしりとした安定感もある。これには注釈が必要で、試乗車はスポーツサスペンションを備えるヴァリアントTDI R-LINEで、しかもオプションの18インチのタイヤを履いていた。このふたつが、重厚な乗り味につながっていたのだ。ただ、市街地やワインディングロードで舗装の荒れた部分を突破した時の快適性は、ノーマルのサスペンションと標準の17インチタイヤに軍配が上がる。こちらの方が、もう少しまろやかに路面の不整を乗り越える。どちらを選ぶかは、悩ましいところだ。鼻先に重たいディーゼルエンジンを積んでいることが信じられないほどハンドリングは軽快だ。コーナーからの脱出でディーゼルのぶっといトルクが炸裂することもあって、エンジンがシャープに吹け上がるゴルフGTIとはまた違ったファン・トゥ・ドライブがある。家を出発して市街地を抜け、高速道路をクルーズし、ワインディングロードを駆け抜けてゴルフ場に近づく、そのいずれのステージでも楽しませてくれる。

荷室の広さも圧倒的だ。ハッチバックのゴルフでもスペースユーティリティの高さに定評があるのに、ボディをストレッチしてさらに広いラゲッジスペースを確保している。2670mmのホイールベースはハッチバック版より50mm長く、全長も4295mmから4640mmへと345mmも伸ばしている。しかもそのほとんどを荷室の拡大に費やしているのだ。もう一度書くけれど、ゴルフ ヴァリアントはゴルファーの味方だ。 ご存知の方も多いと思うけれど、念のためために書いておくと、フォルクスワーゲン「 ゴルフ」の“ゴルフ”は、メキシコ湾流(ガルフストリーム)に由来するもので、スポーツのゴルフとは全く関係はない。

ともあれ、ゴルフというのは王道であり、それゆえに「当たり前だし、つまらないから選ばない」という方も多いと想像する。けれども、そう思う方にこそ、一度試していただきたい。それほどこのクルマの完成度は高かった。

フォルクスワーゲン ゴルフヴァリアントTDI R-LINE 車両本体価格: 597万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4640 X 全幅 1790 X 全高 1485 mm
  • ホイールベース | 2670 mm
  • 車両重量 | 1500 kg
  • エンジン | 直列4気筒 DOHC ターボ
  • 排気量 | 1968 cc
  • 変速機 | 7速 DSG
  • 最高出力 | 150 ps(110 kW) / 3000 - 4200 rpm
  • 最大トルク | 360 N・m / 1600 - 2750 rpm

Text : Takeshi Sato

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