会社に対する“もやもや”を解消する方法は?キーワードは相対化

「うちの会社は時代の波に乗れていない気がする」「このまま居続けて、自分は成長できるのだろうか?」−−仕事を続けていると、所属する会社に対する“もやもや”を抱くこともあるでしょう。

リクルート全社マネジャーMVPを2度受賞した井上功 氏の著書『CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・編集して所属する会社への“もやもや”を解消する方法を紹介します。


出向制度を使い、自社とは異なる居場所で、相対化を体現する

仕事が一人前にできるようになって、会社を全体としてとらえられるようになったら、少し離れてみるといいかもしれません。そこで注目するのが出向です。

出向とは、労働者が所属する企業(出向元)と何らかの関係を保ちながら、新たな働き先の企業(出向先)との間の新たな雇用契約関係に基づき、一定期間継続的に勤務する形態です。所属が今の企業のままの在籍型出向と、新たな企業と雇用契約を結ぶ移籍型出向の2種類があります。移籍型出向は転職に近い形態といえそうです。また、1年〜数年くらいで出向期間が決められている場合が多く、出向から戻ると別の人が派遣されるケースが多いようです。

比較的馴染みがある出向ですが、これも越境と捉えることができます。以下の流れで越境としての出向ができるかを確認していきます。

  • 自分の会社が出向(制度)を実施しているかを人事部に確認
  • 実施している場合には、募集形態、出向の目的・期間、出向先の仕事の内容、立場や権限、待遇や報酬等について詳細にヒアリング
  • (実施していない場合は、その理由を確認する)
  • 過去、同じ組織に出向していた社員がいれば、関係者や職場の様子は詳しく聞く。特にものごとを決める際の基準や考え方、仕事を行なう上でのルール・作法については、エピソードを含め共有してもらう
  • 自社や自部署での今までの仕事との違いをイメージする
  • 自分の経歴・経験や価値観等をふりかえる
  • 出向先での仕事が明らかに今までと異なれば、先ずエントリーしてみる
  • 出向して、企業間越境を体験する

出向制度を活用した越境のポイントは、会社側の目的にあります。人材育成や企業間での交流促進が目的の場合は、応募してみるといいでしょう。

ただ、雇用調整弁として機能させている場合もあります。また、雇用契約書や就業規則に出向命令権について明記されていて、社員が同意している場合は、その規則に従わなければいけません。人事部に確認する際に、このあたりも詳しく聞くといいでしょう。

僕はリクルートの在籍が長いですが、その間出向をしたことはありません。ただ、出向者を受け入れたことはあります。霞が関の中央官庁の官僚や自衛隊幹部候補生、事業で協業する民間企業の方々などです。

自衛隊の方と一緒に仕事をしたことが印象的でした。

「お客様の状況とニーズを踏まえ、皆で新たな企画をつくっていきましょう」
「はい。それは命令ですか?」
「いえ、命令ではありません」
「分かりました。では、自分としてはどう対処していいか分かりません。今までは指揮命令系統がはっきりした組織で仕事をしておりましたので」
「皆で共創しながらやっていきましょう」
「共創???」

といったやりとりがありました。

これは極端な例かと思いますが、会社や組織が変わるとこのようなことは頻出します。ここでの僕の気づきは、責任の所在、ということです。シェアード・リーダーシップを発揮する自律型の組織は変化対応には強いですが、指揮命令系統が明確でなく責任の所在も曖昧です。自衛官の発言を最初はびっくりして聞きましたが、俯瞰して捉えると、なるほど、と思えました。責任は誰にあるのか? 大事なことだと思います。

出向して、今までの組織とは全く異なる場所に身を置くことは、変化を如実に感じやすく、新結合が得られる場合が多い と思います。企業間越境としての出向、トライする価値はあると思います。

副業・兼業で、仕事と"好き"をつなげる

仕事ができるようになって、余力もでてきた。自分でやりたいこともある。そんな人には副業・兼業がおすすめです。

最近よく耳にする副業や兼業。副業と兼業に法律的に明確な違いはなく、〝本業以外にも仕事を持っている状態〞を指します。2018年1月、厚生労働省が「モデル就業規則」を改定し、これまでの「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定は廃止されました。そして、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」ことになりました。労働者の自由として、副業・兼業が明文化されたことで、大きな注目が集まっています。政府・経済産業省や経済団体等でも議論が盛んになり、副業・兼業を認める企業は増加傾向にあります。

副業・兼業も越境として捉えることができます。ただし、雇用契約を結んでいる自分の会社以外で仕事を持つことには注意が必要です。次の流れで確認していきましょう。

  • まず、副業・兼業が自社で認められているか確認する。多くの企業が副業・兼業を解禁しているようですが、さまざまな観点から認めていないところもあります。特に自社と競業する企業や組織での副業は認められないケースがほとんどです。副業先の企業・業務内容・雇用形態・就業時間・勤務日数等での制約がありますので、どのような副業・兼業ができそうかを確かめることが大切です。また、労働基準法で明確に、「労働時間に関しては、事業場を異にする場合においても労働時間に関する規定の適用については通算する」とありますので、副業・兼業先と自社での労働時間を合算することが求められます。このあたりは人事部が詳しいので、相談することが必須です。
  • 自社での副業・兼業の先例を聞く。実際に仕事を持ちながら副業・兼業することの面白さはもちろんですが、時間的・精神的・身体的な大変さもあろうかと思います。分からないことは先達に聞きながら、副業・兼業の越境としてのメリットを確認します。
  • 自社で認められていたら、副業・兼業先を探す。企業、NPO・NGO等の組織・団体等が考えられます。多くの求人サイトでは、副業・兼業可の案件を取り扱っています。一部を確認するだけでも、業種・職種・勤務時間や条件等が多彩であることが分かります。それらを比較検討する際に、自社の仕事との距離感を考慮してみてください。
  • 自分の経歴・経験や価値観等をふりかえる
  • 副業・兼業先にアクセスして、面談(面接)を行なう。このプロセスは転職をすることと変わりません。唯一異なることがあるとするなら、副業・兼業として働くか否か、ということでしょう。なぜ副業・兼業として働きたいかの理由を、相手先に対してきちんと説明することが大事です。また、副業・兼業の期間や辞める際の条件等についても確認しておくことが必要です。辞めるに辞められない状況になってしまうことだけは避けなければなりません。
  • 副業・兼業先との合意が得られれば、越境してみます。

副業・兼業は、自分の仕事を持ちながら行なうことになります。他企業と合同で行なわれる研修よりも更に大変かもしれません。ただし、〝異業種研修〞とは異なり、副業・兼業は明確な経済的成果が求められることが多い。覚悟は必要ですが、コミットすると刺激的な越境経験を積むことができると思います。

副業・兼業では、基本的に本業の仕事とは違うことをやることになります。そうなると、本業とは異なる考え方や行動を迫られることになります。本業と兼業、両方とも真剣にやっていると、個人に2つの人格が生じてきそうです。違うもの同士をつなげる新結合が、ひとりの人間の頭脳で起きる。本業と兼業との距離が離れていればいるほど、事業や仕事の内容が異なれば異なるほど、思いもよらぬ創造が生まれる可能性もあります。

また、自社の強みや自分の仕事の提供価値の根幹を踏まえ、副業・兼業先のさまざまなコトと比較することで、恐らく自社や自分の仕事の再認識や再定義ができると思います。相対化です。そして、自分の会社も捨てたものではないなぁ、と感じることもあるでしょう。

副業で起業し、経営の生々しさを手に入れる

副業や兼業で雇われて仕事をするうちに、自分でやってみよう、という気持ちがもたげてくる場合があります。そんなときには副業で起業してみましょう。

他社・他団体で副業・兼業するのとは別に、副業で起業するという選択肢があります。起業というと株式会社や合同会社を設立するというイメージがありますが、フリーランサーと称される個人事業主も起業者です。起業とは、自ら新しく事業を起こすことです。代表者である自分に責任があり、自らが経営者になるのです。

副業として自分で事業をやることや、株式会社を設立することは、その事業全般を考えて行動するという観点で、雇われて行なう仕事とは根本的に異なります。ビジネス・パーソンとしての仕事は、代表権を持つ経営者でもない限り、機能分化された全体の一部分です。

いっぽう、 起業は全体を考える必要があります。顧客は誰で、事業(製品・サービス)は何で、どのような価値を顧客に提供し、他社とどのような差別化を図り、どのように収益を上げるのかについて、常に考えて行動しなければなりません。

ここでいう事業とは、「顧客に対して価値を提供することで、継続的に対価を得る活動」と定義できます。継続的に活動を続けなければならないのです。結構大変そうに聞こえるかもしれません。ただ、起業することで得られることは沢山あります。少し挙げてみましょう。

  • 起業して事業活動全体を考えることで、今の仕事の部分としての意味や価値を改めて認識することができた
  • どんな顧客に事業を展開することが必要かを思い知った。顧客を明確に区分分け(セグメンテーション)しないとぼんやりとしたものになってしまう
  • 起業して磨いた顧客価値を、自分の仕事に当てはめて考えられるようになった
  • 顧客価値を言語化できるようになった
  • 真の差別化や独創性の確立を、工夫することで実現できた
  • 起業して儲けることがいかに難しいかが分かった。収益システムを確立するために徹底して改善しないといけない
  • 起業して始めた事業で、初めて顧客に対価を支払ってもらったときの感動が忘れられない
  • 今までは数字に弱かったが、P/L(損益計算書)、B/S(貸借対照表)を肌感覚で理解できるようになった

こんな感じでしょうか。全体を捉えることで、部分の意味や凄みを改めて知ることができるのが、副業・兼業としての起業の強みということができます。

僕の周りにはビジネス・パーソンをしながら副業・兼業をしている人が多数います。

NPO・NGOを立上げさまざまな社会課題に立ち向かっている人、京都や長野などの観光地で古民家をリノベーションしてゲストハウスをつくりインバウンドビジネスをしている人、副業の延長で福祉法人を買収して介護施設を経営している人、ペットのレンタル事業を始めた人……。枚挙にいとまがありません。

その人たちの特徴は「自分の好き」を貫いていることです。起業自体は自分の意志で行なっているので、当然「嫌いなこと」はしないでしょう。

好きなことをしているときに人間は一番力がでます。本当に自分が好きなことは何か?をつかむことは簡単ではない気がしますが、ちょっとでも好きだと思ったらやってみるといいかもしれません。副業で起業し越境すると、経営の解像度が高まってくると思います。好きなことのOSの上に、派生して見つかったさまざまなアプリケーションが乗ってくる感じでしょうか。

彼らと話していると、とにかく楽しそう。苦労すらも楽しんでいる気がします。まさに夢中という感じです。そして、全員真っすぐです。僕自身があまり興味・関心がない領域の事業であっても、彼らの話に思わず引き込まれてしまいます。副業・兼業による起業で越境した人たちが身近にいれば、ぜひ話を聞いてみてください。

CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考

著者:井上 功
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