
東日本大震災から丸12年を迎えるのを前に、熊日の「SNSこちら編集局」など読者との双方向型報道に取り組む全国16の地方紙は、政府の原発政策や防災意識について尋ねるアンケートを実施した。原発については「脱原発を急ぐべきだ」の声が3割弱と最多だったものの、電気料金の高騰や脱炭素の考えから原発を容認する意見が前年より増えた。
アンケートは、2年前から地方紙が協働して取り組む企画「#311jp」の一つで3回目。2月前半に各紙がLINEや紙面で呼びかけ、全国45都道府県と海外から、計3230件の回答があった。うち熊本地震を経験した熊本県内からの回答は269件と8・3%を占め、関心の高さが目立った。

熊日など全国16の地方紙が協働して実施したアンケートでは、今後の原発政策について「積極的に廃炉とし、脱原発を急ぐべきだ」が27・7%と最多だったが、割合は2022年調査から7・7ポイント減った。「すぐにでも全国的に廃炉とすべきだ」も3・2ポイント減の8・0%だった。
一方、「増設や建て替えなど積極的に原発を推進してよい」は2・7ポイント増えて9・2%。「運転延長を含め、規制委の審査を通過した既存の発電所は維持して」は10・6ポイント増の22・0%だった。「運転延長は控え、基数を減らしながら活用すべき」(25・4%)との〝消極的容認派〟も含めると、容認意見の割合が初めて半数を超えた。
「脱原発を急ぐべきだ」と答えた天草市の主婦(40)は理由を「国の対応に信用がないから」と回答。山江村の農業男性(72)も「原発事故を見て、いまだに原発は安全と思うのが間違いだ」とした。
これに対し、熊本市の自営業男性(57)は「九州は原発のおかげで電気代の上昇が抑えられている」として積極的な原発推進を主張。玉名市の男子大学生(21)も「安全性が担保されるなら電気料金が下がって国民の負担が減る」として、規制委の審査を通過した原発維持を支持した。
身近な防災について、地域のハザードマップ(災害予測地図)を見たことがあるかには「見たことがある」が54・4%で「見たことがない」の9・5%を大きく上回った。内容まで「理解している」も36・1%だった。
国内で想定される巨大地震の認知度については「南海トラフ地震」の被害想定を「知っている」の52・4%に対し、北海道や青森などで最大20万人近い死者が想定される「日本海溝・千島海溝沿い地震」は20・7%にとどまり、差が見られた。(太路秀紀)

■福島の今 知りたいのは「原発の廃炉作業」
熊日など全国16の地方紙が実施した「#311jp」アンケートで、原発事故があった「福島県の今」について最も関心があることを尋ねたところ、「原発事故の廃炉作業」が最多を占めた。
廃炉作業を挙げたのは31・2%で、2022年調査時の43・0%に比べると11・8ポイント減少した。次に多かったのは「地震、津波からの生活の復興状況」の28・0%で、22年調査時より4・7ポイント増加。「避難区域の現状」が15・0%で続いた。
熊本県民に限定すると、生活の復興状況を知りたいという人が最多の27・1%で、廃炉作業の26・8%をわずかに上回った。非難区域の現状も20・1%。
政府が今春から夏ごろにかけて計画している福島第1原発の処理水の海洋放出方針については「反対だ」と「できればやめてほしい」が合わせて48・4%。「賛成だ」と「やむを得ない」を合わせた〝容認〟の45・2%をやや上回った。
東日本大震災への関心度合いを尋ねた問いでは、最も関心の高い6点が30・5%と最多で22年調査と同割合。ただ、21年調査時の52・9%からは低下した。(太路秀紀)
【#311jp アンケート】
JOD(オンデマンド調査報道)パートナーシップに加盟する地方紙が、2011年の東日本大震災から10年を迎えたのを機に、21年から毎年実施している。東日本大震災への関心度合いや原発政策への考え、地域のハザードマップ(災害予測地図)の認知度などを尋ねている。熊日は22年から調査に参加した。読者の多様な声を集めるのが目的で、無作為抽出して民意を把握する世論調査とは性格が異なる。
【参加16紙】
岩手日報/河北新報/福島民報/福島民友/下野新聞/新潟日報/北陸中日新聞/福井新聞/信濃毎日新聞/岐阜新聞/静岡新聞/京都新聞/愛媛新聞/高知新聞/西日本新聞/熊本日日新聞/