【後編】過去が輝かせた最高傑作の未来――17年目のPが見た「THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!!!! 2023」両日現地レポート

去る2月11日と12日の2日間、『アイドルマスター』シリーズ5ブランドが出演した合同ライブイベント「THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!!!! 2023」が東京ドームにて開催された。

シリーズ初となる単独東京ドームとなった本公演から3週間たった今、現地や配信で参加したプロデューサー(ファンの総称)の中にはまだ煮え切れない”思い”や”心残り”が少なからずある方もいるだろう。そこで今回はアイマスP歴17年の「紫電P」さんによるライブレポートを前後編に分けて掲載。古参Pならではの愛と経験を元に綴られた5万字に及ぶレポートを読んで心残りをなくしていただきたい。

【本記事はライブレポートの後半です】前編をまだご覧になってない方はこちら

※本記事は一般的なメディアによるレポートとは異なり、一定の知識を前提とする内容が含まれますのでご了承下さい(アイマスを少しでも触れていた方には楽しんで頂ける内容だと思っております)


DAY2 先例も常識も、過去の遺物だろう

DAY2の朝から開場まで、私はほとんどの時間をドーム敷地内で過ごしました。現在ミリシタで開催中の「ミリオンキャスティング」における、菊地真の配役PRの名刺300枚を配布するためで、主に真の描かれたのぼり付近にいることが多かったです。

そうなると必然的に同担の皆様と多くお会いするわけで、話題は平田宏美さんが活躍した昨日のライブ、そして今日のライブとなります。その中でも特に期待が高まっていたのは、

「今日はムンナイをやるんじゃないか?」ということでした。

SideMの誇るキラーチューン、「MOON NIGHTのせいにして」。昨日は「Tulip」を彼らが歌ったわけですから、この日はSideMの曲を女性陣が歌う可能性は高いと思われていました。ムンナイなら当然、我らが菊地真の出番ではないか……と考えてしまうのは担当Pのサガです。個人的には、この手の曲をやるならシャニマスの白瀬咲耶役・八巻アンナさん、ミリオンからは8thライブのオペラセリア・煌輝座で男性役を務めてMVP級の活躍を見せた桜守歌織役・香里有佐さんあたりを引き連れて歌うのではないかと思っていました。原曲はドラスタの3人だけで歌っているので、ライブ数日前の時点ではシンデレラから誰が来るかまではきっちり想定していなかったのですが。

また、個人的には765ASの「Destiny」と「M@STERPIECE」が歌われるかにも注目していました。後者はMOIW2015同様に全ブランドでの歌唱を見込んでいましたが、今日歌われれば、初めて男声で歌われるだけでなく、ムビマス組で唯一フルライブでの歌唱機会のなかった佐竹美奈子役・大関英里さんが9年越しにこの曲を歌えることにもなります。これも注目ポイントでした。とはいえ昨日歌われなかった合同曲や数多の全体曲も控えており、両方まで披露する機会はないかな、というのが開演前の考えでした。

Day2の座席は1階スタンド・三塁側寄りのバックネット裏でした。距離は遠いですが、ほぼ正面からステージをとらえられるため、この日もミリオン8thライブ以来愛用している防振双眼鏡が大活躍することとなります。好みは分かれますが遠方の席でもスクリーン頼りにならなくて済むので、興味のある方はまずは安価なレンタルからでも試してみるのもいいかもしれません。

この日はDay1と打って変わって、開幕の全体曲メドレーは末っ子のシャニマスから逆順に。以下のような曲が披露されました。

「シャイノグラフィ」
「Growing Smiles!」
「Flyers!!!」
「BEYOND THE STARLIGHT」
「Happy!」

頭をひねって考えたのですが、この日は共通する文脈と選曲の意図はこれといってわからずじまいでした。知識不足を痛感します。
ただ、SideMのセンターポジションが先行3ブランドと縁のあるF-LAGSの秋月涼役・三瓶由布子さんだったり、「Flyers!!!」がほぼゲームMVの再現だったのは高く評価したいと思います。タイミングの都合などでライブでは出番の少なかった765ASの「Happy!」が久々に回収されたのは意表を突かれましたが、次はいつあるかわからないその場に居合わせられて良かったです。プラチナスターズの表題曲で私も現地で浴びるのは初めてですが、国内では2017年2月のプロデューサーミーティング以来の披露とのこと。天海春香役・中村繪里子さんが「お待たせー!!」と言うのもわかりますね。

開幕のMCも、この日はシンデレラガールズから。声援ありのライブは初参戦の桐生つかさ役・河瀬茉希さんが大歓声を味わいながら、つかさ社長として「今日は全員虜にする」と宣言していたのが、その後の有言実行も含めて印象深いです。

昨日はここから「ビーチブレイバー」につなぎ、MOIWの方向性を強く示したわけですが、今日は何から始まるのか……。
そう考えていた私の耳に届いたのは、この日の出演者であるシャニマスの信号機・イルミネーションスターズの最初の曲「ヒカリのdestination」でしたが、そのメンバーに驚かされました。信号機は信号機でも、765ASの3人だったからです。

他ブランドと違って、765ASはそもそも信号機概念というものがありませんでした。春香・千早がキャラクター・演者ともに両輪であったのは最初からですが、アケマスではまだ美希はいません。Xbox360版では春香と美希のダブルセンターに近い立ち位置で、SPでは再び美希が765プロに不在。2011年のアニメの頃にようやくその原型が萌芽し、後発ブランドが信号機概念を立ち上げたことで765ASの3人もそう呼ばれるのが定着しました。そのため、3人だけの曲は2014年の劇場版の劇中曲「Fate of the World」の登場まで待つことになります。

そんな3人ですが、他の信号機の歌を披露してもきっちり自分色に染めてくるのはさすがでした。カバー曲経験は765ASが全ブランドでも傑出して多いので、誰かの曲を再解釈してキャラクターとして歌うのは得意としています。とはいえそれを差し引いても、パステルカラーの色合いを感じる原曲を春香・千早・美希として歌うとこうも鮮やかな色彩になるのかと感嘆しました。Day1の「ビーチブレイバー」とは違った形で、開幕から強烈なインパクトを与えたのではないでしょうか。

続いては、シンデレラの双子ユニットmiroir(久川凪役・立花日菜さん、颯役・長江里加さん)による「O-Ku-Ri-Mo-No Sunday!」で、強く期待されていたコラボが実現します。それは、双海亜美/真美役・下田麻美さん、アルストロメリアの大崎甜花役・前川涼子さんと大崎甘奈役・黒木ほの香さんが途中参加する「双子コラボ」です。これ自体はパンフレットでもかなり推す演者さんが多く、Day1が終わった時点でやること自体は確実視されていたと言っても過言ではないでしょう。しかし、現地組も配信組も、背後のスクリーンを見て仰天することになります。映っていたのは「6人」でした。
つまり、「あさぽん(下田さん)が分身している……!?」のです。

その正体はカメラ映像を通常のものと反転したものを同時に映すことで、あたかも亜美真美の両方が映っているかのように見せるからくりでした。サンリッチではダンサーさんに衣装を着せて疑似的な分身をするパフォーマンスがありましたが、ダンサーさんがいない今回でもその手があったかと感服しました。ミリオン9thライブでも望月杏奈役・夏川椎菜さんがソロ曲を歌う際に反転映像を用いて「ONとOFF」を同時に映す演出がありましたが、双子コラボでこれを提案したスタッフには金一封を差し上げてほしいところです。

続いては、もう765AS並みの貫禄と言って差し支えないあんきらの2人による「あんきら!?狂騒曲」。同じく東京ドームで披露したバンナムフェス1stの際も、アイカツやラブライブを巻き込むハチャメチャっぷりでしたが、今回も他ブランドの演者を召喚するやりたい放題のパフォーマンスでした。当然のようにいる横山奈緒役・渡部優衣さんや、台本とはいえ自身の担当の演者に抱き着いてものすごい笑顔を見せる八宮めぐる役・峯田茉優さんには笑ってしまいましたが。

アルストロメリアの「ラブ・ボナペティート」にも、765ASからあざとい……もとい「カワイイどころ」である水瀬伊織役・釘宮理恵さんと萩原雪歩役・浅倉杏美さんが参戦し、そしてもしこの曲ならばと期待する声もあったCafé Paradeの3人もきっちり参加。この曲に限らず、カフェパレのお三方は女声との相性が抜群でしたね。わちゃわちゃの幸せ空間は今はまだ効かないがいずれガンにも効くようになる。

そして、カフェパレがそのままステージに残って披露するのは「Pavé Étoiles」。サイスタでの美麗な3DMVがとても印象的な曲ですね。サブスク解禁以来、SideMの曲はJupiter以外ではFRAME、F-LAGS、そしてカフェパレの曲をよく聴いていましたが、自己肯定感を高めてくれるのが本当に刺さります。

応援メンバーはアンティーカの5人でしたが、注目されていた水嶋咲役・小林大紀さんのパフォーマンスはもちろん、神谷幸広役・狩野翔さんのミュージカル調の歌声が8人の中でのアクセントになっているのが印象的でした。この後の「キラメキラリ」もそうですが、個性的な歌声なのに混声でもバランスを乱さずその曲に調和してきっちりハマる、という意味でこの日のSideMのメンバーでも特に記憶に残った一人です。

そしてこの日のフロート曲初手はシンデレラガールズによる放クラ曲「太陽キッス」。2日連続のタオル曲ですが、星輝子役の松田颯水さんがお馴染みのヒャッハーをしながら煽ったりと原曲より治安が悪い感じがシンデレラらしいなと笑顔になれました。5ブランドでは23年現在で唯一タオル曲がないシンデレラですが、こういう機会を経ていずれはタオルをぶん回せる曲が生まれるかもしれません。

シャイニーカラーズのMCは……なんかもう桑山千雪役・芝崎典子さんがあらゆる意味で持っていった感じでしたね……。MCに定評があるミリオンの木下ひなた役・田村奈央さんやSideMの黒野玄武役・深町寿成さんあたりとMCで競演したらすごいことが起きそうという感想もありましたが、大事故になるのか対消滅してまともな会話になるのかどっちなんでしょう。

そしてここからは、前日も大きな話題を呼んだ「元気メドレー」の時間です。多くの人が期待していたであろうイントロが流れ、高槻やよい役・仁後真耶子さんの「キラメキラリ!! 行っくよーーー!!!」の煽りとともに、東京ドームの客席が一瞬にしてオレンジ色の光の海へと変わりました。やっぱりこの光景は何度見てもいいものです。私自身も現地で仁後さんのいるキラメキラリのコールをするのは初めてだったので、メドレーサイズの曲は体感一瞬で終わってしまいました。
この曲が自己肯定感上昇ソングであることを踏まえれば、応援メンバーのきらり、ロコ、甘奈といった女声メンバー選出にも意図を感じますし、先述したように狩野翔さんのミュージカル調の声が新風を呼び込んでくれたとも言えます。あんな形のキラメキラリもあるんですね。

さらに765ASの曲が続き、今度は「きゅんっ!ヴァンパイアガール」。一ノ瀬志希役・藍原ことみさん、田中摩美々役・菅沼千紗さん、桑山千雪役・芝崎典子さんの人選はドンピシャと言えるもので、原曲や2017年の765ミリオンのライブ「HOTCHPOTCH FESTIV@L!!」(以下ハッチポッチ)のカバーよりキャラの平均年齢が上がっているのもあってか、かなり妖艶な雰囲気に。ヴァンパイアではなくちょっと似てる別の何かでは? などという感想が出るのもさもありなん。

もう少しこのノリが続くのかな、と思っていましたが、ここから風向きが一気に変わります。F-LAGSによる「Treasure☆」は正直しびれるくらい素敵な選曲とパフォーマンスでした。シンデレラには大変失礼なのですが、もう少しこう、出所もあってかネタ寄りの曲の印象があったのですが……。彼らが歌うと、その経緯もあってかここまで感動的な出航の曲になるのかという新鮮な驚きがありました。三瓶由布子さんはこの日絶好調でしたが、特にこの曲が出色の出来栄えだったように思えます。まあそれはそれとして「ぎゃおおおん」するんですが。

また、ここで助けに来るのがミリオンの閃光☆HANABI団だったのも名采配でした。水兵モチーフの衣装というのもありますが、このユニットも旗を掲げているユニットであり、応援団的な属性という意味でもF-LAGSと重なるところはあります。「助けに来るのが”あの”HANABI団で大丈夫なの?」と言われると後から考えればちょっと、いやだいぶ不安なのはそれはそうなんですが……。

思わぬ感動に浸っていると、今度はS.E.Mの人気曲「Study Equal Magic!」を、いわゆるサボり組の星井美希役・長谷川明子さん、双葉杏役・五十嵐裕美さん、大崎甜花役・前川涼子さんで歌うというこれまた愉快な選曲がありました。配信では映りませんでしたが、画面には「Sleepy」とか「Tired」とか「Help」の文字が流れていたり、正弦波がおにぎりだったりと、3人らしい仕上がりに。長谷川さんが歌う最初のパートは男声に寄せており、ライブ後にもミリシタの劇中劇で演じた男性役を意識したという振り返りがあったので、おそらくオリメンの硲道夫先生に寄せたのでしょう。前日のBNFでもそうですが、男性曲でオク上と原キーを両方歌ったりできる音域の広さは長谷川さんの強みですね。

最後は「あふぅ」「はぁ……」「ひぃん」となってしまいましたが、3人ともやればできてしまうタイプなので、S.E.Mの先生方との相性は結構良いのかも……?

そして「勉強の次は運動だ!!」とのFRAMEの掛け声とともに、ミリオンの高坂海美のソロ曲「ココロ☆エクササイズ」がさらに畳みかけてきます。
原曲ではあんなに強調しない「腹筋! 背筋! 胸筋!」をパワフルに歌ったFRAMEの3人に加え、女性メンバーも野球(永吉昴)・サッカー(結城晴)・プロレス(福田のり子)・バスケなど各種(八宮めぐる)・ムキムキにちか(七草にちか)――と、スポーツやトレーニング関係のメンバーできっちり固めてきました。

この手の越境メドレーコーナーの真髄と言えるような人選であり、今回の源流の一つとなっているハッチポッチからの確かなブラッシュアップを感じます。あの時はこの曲で声優ネタが混ざったり、他にも賛否両論な要素もありましたが、今回のシャッフルではそうしたこともなく、居酒屋ノリで決めたようなセトリであっても人選や演出自体はより洗練されていたように思えました。

そして、先述した「恋のHamburg♪」。まさかの信玄誠司役・増元拓也さん残留で、昨日のカレーに対してこの日はハンバーグ。「お料理得意なんです」の奇跡のようなリンクアピールが成立しました。SideMメインのPが増元さんがかわいいと連呼している理由がよくわかった気がします。シンデレラならCu属性、わかるわ。

舞台はセンターステージに移り変わり、もはやMOIW2023の申し子というくらいに曲が起用されている放クラの「学際革命夜明け前」が披露されます。このメンバーの文脈は当初はわからなかったのですが、終演後にTLで流れていた感想の中で「(それぞれの立場や事情で)学祭を楽しんだことがない少年少女による学祭革命夜明け前だった」という意見を見て腑に落ちました。

個人的には、どう考えても学校祭を楽しめるチャンスがないであろう我那覇響役・沼倉愛美さんをセンターに据えつつ、ロコ役の中村温姫さんが英単語のあるパートを任されていたことにサムズアップしたい気分です。
というかカフェパレの2人は普通に原キーで歌ってて、むしろ河瀬茉希さんの方がイケボ枠だったのはなんかもうすごいですね……。

前日に負けず劣らず大盛況だった元気メドレーコーナーを締めたのは、シャイニーカラーズの「虹色ミラクル」。劇場版のエンディングを飾った765ASの曲で、虹というテーマからもこの曲をシャニマスが歌うのは解釈一致だった人も多いのではないでしょうか。

声援が解禁されたからこその「We’re 315!!!!!」で締めたSideMのMCを経てフロートで登場したのはミリオンスターズ。東京ドームということもあってか、プロレス好きの福田のり子役・浜崎奈々さんの煽りで始まったのは、まさかのSideM・神速一魂の看板曲「バーニン・クールで輝いて」。ミリオンが歌うとバーニン・バーニンな気もしますが、煽り全開、コール全開なこの曲は相性が抜群でした。そして、大サビ前のチームの台詞には震えました。

「私たちはミリオンスターズ!! 誰一人手放さない!!!」
「みんな一緒に、ありったけの歌を届けよう!!!」
「どんな時も、ひゃくまんパワー!!!!!」

これこれ、これですよこれ。これがミリオンライブなんです。ブランドの魂と言える代表曲「UNION!!」に通じるブランドの根幹、この言葉をバーニン・クールで輝いてを通じてMOIWで謳うのは筋が通っていて、観客席から快哉を叫びたい思いでした。
今回はミリオン史上最難の9thライブ直後でレッスンに専念できる期間も実質3週間に限られたことやメンバー、セトリの兼ね合いの都合が大きいですが、5ブランドの中でも存在感が薄かったのでは――という内輪からの感想もありました。確かに、新しい全体曲をサプライズ披露し、3rdツアーを発表し、解釈はともかく「約束」もするなどブランドにとって大きな滑走路になったMOIW2015のような目立ち方はしていなかったかもしれません。また、近年のMTSなどの曲がフルライブ未披露ということや765ミリオン前提ということで封印されているのか、SideMのように最新シリーズの曲を歌う機会もありませんでした。
私を含めて予想している人も少なくなかったブランド10th曲「Crossing!」でも披露すればそういう方の感想も違ったのかもしれませんが、しかし今回は総じてアニバーサリー感、集大成感を極力薄めたMOIWであり、東京ドームでさえあくまで通過点という位置付けでした。従って、この曲を歌うのに相応しい場ではありません。

ですがミリオンはこの曲を通じてブランドの魂を強く訴え、続いて「Raise the Flag」を貸し出すことでMOIW2023のコンセプトを完成させ、「みんな元気!!!!!」のテーマを回収するユニット大トリを経て最高傑作たるあの曲にバトンを渡しました。であれば、今回は人体における血液のような役割で、ライブの「全身」隅々まで行き渡っていたとは考えられないでしょうか。これは後述しますが、少なくともDay2後半に関してはミリオンのユニットありきでセトリで構築されていたと思います。

フロート曲の後は、昨日の赤・青に続いて信号機の「黄」が満を持して登場。長谷川明子さんと本田未央役・原紗友里さん、峯田茉優さんの3人で、SideMの黄色系属性曲「Friendly Smile」を披露します。もちろん原曲は知っていましたが、このメンバーの女声で歌うとまるで別人のような表情を見せてくれますね。黄色では最年少の峯田さんの、先輩相手でも一歩も譲るまいとばかりに気持ちの乗った表情や表現が印象的でした。

そして、FRAMEの「Plus 1 Good Day!」。朝に気合いを入れる時にはもってこいの曲ですが、応援メンバーで高音域の女性陣が入ると、朝からジェットコースター感が加わる感じでしょうか。女性陣はちょっと歌いにくいのかな?と感じることもありましたが、北上麗花役・平山笑美さんと櫻木真乃役・関根瞳さんの声は現地でも配信でもよく聴こえましたね。

観客席がざわめいたのは、続くF-LAGSがセンターステージで「♡Cupids」を歌い始めた時でした。私は確信をもって、彼らのカラーである青を掲げるとともに、涼の従姉・秋月律子の個人カラーライトを持ち、瞬時に点灯できるように身構えました。この曲なら必ず若林直美さんが来る、とわかっていたからです。

バレンタイン合わせとも思える恋の応援曲ですが、実は律子にも同系統の恋の応援曲があります。
アイマス2の頃に発表されたソロ曲「恋するミカタ」。サンリッチでも披露したので、もしかすると765ASに詳しい方以外も記憶の片隅にあるかもしれませんが、あの曲は「旗」を振る曲なんです。ライブでも若林さんが実際に振り、秋月律子としては千秋楽公演が伝説となった2018年9月の「MR ST@GE」主演回で、旗を持つ2人のダンサーさんを従えて披露しました。
だからこそ、以前一度だけ機会のあった「876プロの秋月涼」ではなく、「315プロ、F-LAGSの秋月涼」と律子が競演するのなら、この曲が最適だったのだと思われます。

特に嬉しかったのは、登場した若林さんが三瓶さんだけでなく、兜大吾役・浦尾岳大さん、九十九一希役・比留間俊哉さんとも同じように絡んだことでした。律子Pや涼Pならずとも、古参の多くがいつか見たかった律子と315プロの涼、そしてF-LAGSのコラボ。まるで同人誌や脳内で組み立てた妄想のようなその光景が今まさに、私たちの目の前にありました。高速で3人とポーズを取る演者最年長の若林さんの俊敏さには笑みもこぼれましたが、その後のハートポーズもあり、やはり感動の方が勝りました。

アイマス演者最古参の一角である若林さんは、全てが手づくりだったあの頃に各地のアケマスを営業行脚したり、まだ私服でステージに立ち専門家もいなかった初期のイベントではゲームを参考に振付師の役割を果たすなど、コンテンツの草創期にとって極めて大きな役割を果たした存在でした。
しかしながら、2nd visionのアイマス2やベースとなるアニメでは、律子は竜宮小町のプロデューサーという役割に回り、一部救済措置はあったものの基本的には裏方ポジションとなってしまいます。劇場版でも、ラストの「M@STERPIECE」が披露されたステージに立つことはありませんでした。
それ以降の据え置きやミリオンライブ時空ではアイドル専念のポジションに戻りますが、ライブでは若林さんの事情もあり、9th、MOIW2014、そして10thでもあるMOIW2015は欠席。そのため、「M@STERPIECE」や「アイ MUST GO!」を歌う姿を見るためには、長い長い時間がかかりました。

他方、DSで登場した秋月涼は、登場から5年半の長いブランクを経てDSのベストエンド経由(男性カミングアウト成功)の設定で315プロ入り。三瓶由布子さんも続投してSideM唯一の女性演者として活躍してくださるだけでなく、若林さんをSideMのライブに招くことを通じて、彼女に765プロ以外の世界の扉を開いてくださいました。最年長・最古参演者の若林さんが広く他ブランドに目を向けたことが、ひいては765ASに限らずアイマスの世界の境界線をいい意味で崩すきっかけの一つになったことは間違いありません。

そんな2人と、涼の生き様が人生の転換点になったF-LAGSの大吾・一希の計4人が同じステージに立つことは、今回のMOIWの象徴的なシーンであり、同時に律子と若林さんにとっても、そして律子Pにとっても大きな大きな「酬い(むくい)」だったのではないかと思います。前日のサイバーグラスの時もそうでしたが、縁のある他ブランドのアイドルの応援メンバーにたった一人だけで加わる特別待遇は、両日通じて「秋月律子」ただ一人の特権でした。

振り返れば、2nd visionで初めて登場したアイドルは涼たちディアリースターズであり、その次に登場したのがJupiterです。そしてこのMOIWは2nd visionの締めくくりで、演者やセトリの制限がありつつも、可能な範囲で宿題を解決していったライブでもありました。
そうした意味で2nd visionが、「5ブランド集結のM@STERPIECE」だけでなく「天海春香と天ヶ瀬冬馬がGO MY WAY!で競演する」「765プロの”アイドル”秋月律子と315プロの”男性”アイドル秋月涼が♡Cupidsで競演する」というMOIWの象徴的なシーンとともに幕を下ろしたのは、これ以上ないほど美しい区切りの形だったのではないでしょうか。

「まるで夢のような景色を見た……」と軽く放心状態の私でしたが、その次にあの曲のイントロが流れ、混乱しながらペンライトを彼女の色である赤に切り替えました。
信じられない。でも誰が歌う? まさかまた? いやそんなはずは。

おそらく何の曲かわからなかった人も少なくなかったであろうその壮大なイントロは。876プロ・ディアリースターズの「赤」である日高愛、そして母親でありアイマス世界最強のアイドル(だった)と位置づけられる日高舞の持ち曲「ALIVE」でした。

ステージに立つのは、作曲の椎名豪さんが手掛ける曲を多く歌ってきた如月千早役・今井麻美さんでした。両サイドに楽曲と演者が表示され、どよめきが起きたことは鮮明に覚えています。
最初のパートを歌うと、ステージ上にスポットライトの光がさらに3つ。シンデレラで同じく椎名曲持ちの藤原肇役・鈴木みのりさん、ミリオンの「歌のお姉さん」ポジションで、オケマスにも出演した桜守歌織役・香里有佐さん、そしてシャニマスのシーズ、緋田美琴役の山根綺さんでした。

ミリオン発祥の言葉をもじって「越境Vo力団」などと言われていましたが、この曲では四者いずれも譲らぬ抜群の歌唱力が光ります。前回も圧倒的な世界観構築力で真夏の西武ドームに細氷を降らせ、それから7年以上経った今なお進化を止めない今井さん、そしてあれだけの数の演者がいるシンデレラの中でも屈指と言われる鈴木さんの歌唱は言うまでもなく。ブランドの歌姫枠で抜擢された香里さんの気迫もビリビリと肌に伝わるようでした。今井さんと競演したオケマスでもブランドの看板に相応しい歌唱は見せましたが、きっとまだまだ足りないとも感じていたのでしょう。あの時よりさらに磨かれていたこの日の歌声は、演者にも認知されている「四天王」と呼ばれる平山笑美さんや高山紗代子役・駒形友梨さんにも遜色ないものでした。今井さんとの歌唱はハッチポッチの「arcadia」、オケマスの「瞳の中のシリウス」を経て今回が3回目ですが、ようやく並び立ったと感じられたのでしょうか。間奏で2人が顔を見合わせた時の笑みからは、そんな雰囲気も感じました。
そして山根さん。ステージパフォーマンスと高い歌唱力は持つものの、各ブランドが集う舞台ではバンナムフェス2ndで少し歌ったくらいで、シーズとして歌う曲の傾向もあってか他ブランドメインのPからはどちらかというとダンスやビジュアルの方が注目されがちだったように思えます。しかしこの日は越境歌姫枠としてこの曲に臨んだことで他ブランドのボーカル勢と真っ向から比較でき、「これほどとは知らなかった」と思った方も多かったのではないでしょうか。主に他ブランドを追っているユーザーに対しては、今回のシャニマスメンバーでは上げ幅という意味では最も株を上げた演者なのではないかと思います。

MOIW2014のような日高愛役・戸松遥さんのサプライズ出演は実現しませんでしたが、仲間を想って歌う4ブランドの歌姫の集結は、1曲前の秋月家コラボと同様、アイドルマスターDSというブランドに向けてこれ以上ない礼儀だったはずです。
そう言えば、今井さんはかなり前から推していた肇との初競演でしたね。

じゃあこの後どうするんだよ、MC入るの?という流れから、聴こえてきたのは961プロの刺客・ZWEIGLANZの「アライアンス・スターダスト」のイントロでした。そりゃそうですよね。こういう時にオーバーランクの切り札と秘蔵っ子に真っ向から対抗させてくるのが黒井社長の流儀でしょう。

CDのパッケージイラストを思わせるステンドグラスの映像を背に登場したのは、アイマス世界の「現役アイドル」では最強のオーバーランクと位置付けられている玲音役・茅原実里さん、そしてミリシタの世界線ではその玲音とデュオを組む黒井社長の秘蔵っ子……というか愛娘の詩花役・高橋李依さん。もういいですよね、初登場のステラステージから5年経ちましたし。

過去の据え置きゲームであるワンフォーオール(以下OFA)、ステラステージのラスボス2人が組んだユニットで、また茅原さんも高橋さんも抜群のステージ巧者ということもあり、その存在感はこれまで登場した5ブランドの精鋭に引けを取りません。アイマスのステージに登場するのはコロナ禍直前の2020年1月・ミリシタ感謝祭以来で、お二方とも事前予告ありでアイマスライブに登場するのはこれが初めてでした。今回は衣装も新調され、紹介こそ765ASと並ぶ形ですがミリシタ世界線の961プロのユニットということもあって、ブランドモチーフの蝶のアクセサリーをつけていましたね。

パフォーマンスは961プロからの刺客に相応しいもので、高橋さんの熱唱はプロデューサーミーティング2018 Day2の「Blooming Star」の記憶を想起させました。高橋さんは「ちろりP」というプロデューサー名義も持っており、それでウェブ検索するとかなり前からこう……今回出演の他ブランドメンバーで言うと山崎はるかさんや高塚智人さん、峯田茉優さんのような熱い熱い思いを抱いていたことがわかりますが、その彼女がアイマス史上最高の祭典に参加できたのは喜ばしいことですし、961フェスをやりたいという声をここからもぶち上げてくれたことには思わず歓喜の声を上げました。
後述しますが、本来予定されていたMOIW2021の前座であったプロミツアーの枠で、20thイヤーに961フェスが実現してほしいですね。

なお765ASのMCでは、みんなで一斉に想いを告げるから聴き分けてと言っているのに、一人だけ遅出しジャンケンをしてドラマチック繪里子をしようとした我らがセンターオブセンターさんはやっぱり山賊でした。

MC明けの初手は、この日のために紅い新衣装を用意したシンデレラのFlamme Martiniが登場。シンデレラのVo力団と言えるメンバーで、私も期待していた「レッド・ソール」を披露します。

今回のシンデレラのユニットでは最も注目していたのでぶち上がりましたが、まあ歌が上手い。そして「Vo力にはVo力をぶつけるんだよ!!」とばかりに投入されたのはミリオンの4 luxuryから「名曲しか歌えない女」こと馬場このみ役・髙橋ミナミさん、ユニットの全体バフ役に回ることが多いものの火力担当としても一流の豊川風花役・末柄理恵さん。ALIVEで他ブランドの歌姫相手に一歩も退かないパフォーマンスを見せた山根綺さん。そして再登場が予告されてわずか3分で再びマイクを握った茅原実里さん。もう笑うしかないですね。
その豪華メンバーの挑戦を退けてやるとばかりに真っ向からやり合うオリメンもさすがの一語でしたし、茅原さん、そしてこの日の歌唱では終始アタッカー寄りの属性だった末柄さんの一挙手一投足も見所でした。歌声の切り替え方もそうですが、攻める時の表情の見せ方が巧いんですよね……。ソロ曲は最新の4曲目を除いて癒し系なのに、ここぞの場面できっちりセクシーを発揮できるのが強いんです。

その熱をさらに高めるように登場したのは、ゴスロリ系衣装をまとったミリオンの退廃&耽美ユニット、Chrono-Lexicaによる「dans l′obscurité」。

この日は他所との被りの都合で3/5での披露となりましたが、条件はカフェパレと同じ。真壁瑞希役・阿部里果さんを軸に、見せ場の交互歌唱もスイッチャーさんともどもきっちりと決めてくれました。この日を含めてリリイベを含め6回披露してそれぞれ誰かしら欠けているのですが、その分誰かが欠けても出力はなるべく落とさない、そうしたパフォーマンスが今回もできていたのではないかと思います。そして期待通りに現れたアンティーカとの声の相性も良く、叶うならいつの日かオリメン集結を果たして、次のMOIWの機会があるならどちらかのユニットの曲を10人で歌ってほしいな……という夢も生まれました。その場合、今回欠席だった伊藤美来さん演じる七尾百合子は大喜びでしょう。

なお、センターは斉藤佑圭さんが演じる永吉昴でしたが、このアイドルもカッコいいビジュアルのオレっ子でありながら声がかわいい系(最近はカッコいい曲も増えた)というギャップがあり、最近ではヤンデレソングの「スペードのQ」という曲が強いです。よければサブスクで聴いてみてください。

さらに余談ですが、この曲で上手側に立ったふわふわツインテの西洋人形のようなビジュアルだった演者さんが、アーティストアイドルであるロコ役の中村温姫さんです。信号機や4 luxuryの面々のようなわかりやすい強さがあるというわけではないのですが、この温姫さんや前日出演の大神環役・稲川英里さんは、ミリオンにおける「過不足なくステージにアイドルを顕現させる」タイプの演者さんで、チームの脇をがっちりと固めてくれている存在です。何というか、とにかく「ロコ」なんですよね。9thのソロ曲は出演者の中でも最難と言える歌だったのですが、演じるアイドルを崩すことなくやり切ったのはお見事でした。
また、一人も手放さないと謳うブランドを象徴するように、温姫さんは不在のメンバーのカラーやアクセサリーをつけたり、その担当プロデューサーや、MCでも言いたいことが言えなさそうだった後輩を慮ったりと、非常に仲間想いな方だったりします。
これ以上は脱線なのでここまでに収めますが「アイマスのドラマチックなナカムラは2人だけでなく、3人いる」とだけ覚えて帰ってくだされば……とか書いていたのですが、掲載までの間に4人目のナカムラが現れましたのでいずれ4人になるかもしれません。

さて。Chrono-Lexicaに引き続き、ステージに残ったアンティーカの披露する曲は「純白トロイメライ」。やはりこのユニットはViの見せ方が抜群です。しかしChrono-Lexicaからのアンティーカと来れば次に来るのはもはや必然レベルであるわけで。期待に応えるDimension-3の登場で、会場は激しく沸きました。

「期待通りに、VoにはVo、ViにはViをぶつけるんだよ」というライブチームのグランドデザインへの思想が垣間見えます。「こうなったらいいな」というライブの二次会で語るような妄想を次々と実現していきながら、矢継ぎ早に披露された「バベル」では、今度はシーズを迎えての4人構成でこれがまたビジュアル的によく映えます。昨年のバンナムフェス2ndでも現地で見ることができましたが、この熱い流れを追い風に変えたのか、藍原ことみさん、二宮飛鳥役の青木志貴さんともに、前回よりパフォーマンスの仕上がりが一層増しているように見えました。また、あの時はできなかった最後の手つなぎも、他のユニット同様に解禁されましたね。2人の手が重なったその瞬間の歓声は物凄いものがありました。

そして予告先発通り、というべき流れでシーズが登場。治安悪めのViDaゾーンを締めくくります。その強さは言うまでもないのですが、一方で「これ誰呼ぶんだよ」という疑問も沸き上がります。三浦あずさ役・たかはし智秋さんでもいれば765ASからでも良かったかなあ……と思っていたら。選ばれたのは、ZWEIGLANZでした。
私も本日何度目かも忘れた「そ、それがあったかー!!」を心の中で叫んだのは言うまでもありません。そして、この2人が余裕じみた笑みを浮かべながらこの曲を披露するのは実に961プロらしいですし、アイマス世界でこれをやったら七草にちかは大変どころの話じゃなかろうな……とか考えてしまいますね。演じる紫月杏朱彩さんが、いわゆる「にちか砲」以外でも負けじと食らいついていくような表情だったのもとても良かったですね。シーズは立ちポーズ一つでも絵になるデュオですが、それに961プロの2人を競わせるというのは一見すぐ考えつきそうで実際には早々できることではないでしょう。

「いやー治安も悪くて良いパートだった、ただZWEIGLANZが来たならここで一旦締めくくりだろう」。
そんな考えが脳裏をよぎった瞬間、まだ終わってねえぞとばかりに鳴り響いたのは765AS・961プロのキラーチューン「オーバーマスター」のイントロでした。

CDやライブでも歌唱しているので、まさかZWEIGLANZがそのまま!? と予想されるメンバーに考えを巡らせていたところ、センターステージに現れたのはシンデレラのThreat Sign。「それがプランBだったか!!」と理解するが早いか、ほぼ無意識に懐のサイリウムを折っていました。
今回は961プロ参戦ということもあり、この曲自体はおそらくやるであろうとは思っていました。ただ、並行世界の元961プロつながりはDay1のBNFで回収してしまったので、ZWEIGLANZが歌わないならもうないかなと思っていたのですが、それがまさかここで来るとは!!
シンデレラを長年引っ張ってきた原紗友里さんのセンターの安定感はもちろん、カッコいいに全振りした結城晴役・小市眞琴さんのキレッキレの動きと、不敵な笑みが光るナターリア役・生田輝さんの見せ方も素晴らしく、決してこの選曲は消極的選択肢としてのプランBではないぞと言わんばかりのパフォーマンスです。赤いユニット衣装をまとっての歌唱は、むしろ本家だって喰ってやると言わんばかりの熱気に満ちていて――そして、沸き上がる期待に応えるかのようにその本家、765ASのダブルエースが登場します。長谷川明子さんも沼倉愛美さんも、もう14年以上歌い続けてきた曲ですからその安心感は言うまでもありません。前回披露のミリシタ感謝祭から3年が経っていましたが、目をつぶっていても披露できそうな貫禄でした。最後に横一列に並んで、5人で声を重ねるところも強い印象を残しましたね。

さあ今度こそ一息つけるぞと思ったら、次は聴き慣れたあのぶち上げイントロが流れて血が沸き立ちます。キーが低く、照明は緑。それならば答えは一つ。

この曲でMOIW2023が完成形に至ったと私が考える、SideMによるフロートでのミリオン曲「Raise the FLAG」(以下RtF)でした。「みんな!! 旗を掲げる準備できてるー!?」という三瓶由布子さんの煽りで、私も思わず歓声を上げました。

RtFはグリー版ミリオンライブ後期のCDシリーズで生まれた曲で、本来はこの日出演した真壁瑞希役・阿部里果さん、舞浜歩役・戸田めぐみさん、そして所恵美役・藤井ゆきよさんの3人の曲です。激しい曲調で、固定観念をブチ破ることを謳う一曲であり、ミリオンでもライブの盛り上げ曲として人気の曲です。

作詞の松井洋平さんは、以前この曲を以下のように解説していました。

勘違いされやすいのですが、RtFは反抗・反発の歌ではありません。松井さんがおっしゃる通り、「未踏の領域に光があるのにそれを遮ろうとする者を打ち破ろうとする人々への応援歌」です。
この曲が進化したのは、2017年に765ミリオンで開催されたハッチポッチでした。集大成だったMOIW2015以降、一時休養に入りフルライブはしていなかった765ASにとって本格的な復帰戦で、また武道館公演を経て十分な力をつけた直系の後輩との初となる対等なフルライブでの競演でもありました。その時に、この曲の歌唱を任されたのが765ASのパーフェクトサン組(春香・やよい・真・響)である中村繪里子さん、仁後真耶子さん、平田宏美さん、沼倉愛美さんでした。

中村さんはこの時のMCで、RtFの歌唱について「(新しい時代というテーマの歌を)私たちが歌わせてもらえることが本当に嬉しくて、みんなで一緒に新しい時代に進んでいく、そこに春香たちもいさせてもらえる証なんだなと思えた」といった趣旨の話をしています。当時の765ASはMOIW2015までの約5年の全力の航海を終えた後で、10年来の船頭も下船したこともあってか指針が今より不明瞭だった時期だったと認識しています。先例にも常識にも囚われないと訴えるこの曲は、ハッチポッチで後輩たちミリオンスターズから得た刺激とともに錨も引き揚げ、持続できる形での前進と新たなる挑戦への航路に入った765ASの道標になった曲と解釈しています。

そしてもう一つ、この時の4人のパフォーマンスは傑出した内容で、同日に出演した戸田さんを含め、オリメンにも大きな刺激になりました。2年後の6thライブ福岡では久々にオリメン3人での披露があり、戸田さんを中心に最後のシャウトなどハッチポッチの765ASの歌い方を逆輸入することで進化したRtFを見せたことを覚えている方も少なくないと思います。7thリバーンでも歌い方は踏襲されたので、ミリオンスターズの中でも定着しているようです。
RtFはそうした、同じ世界に生きる他の誰かの指針にもなり、そしてそんな誰かに歌い継がれるたびにさらに強度を増していく、そんな曲でした。

話が長くなりました。そんな曲が、理由(わけ)あってのアイドルであり、また理由があるからこそ輝けているSideMのメンバーにより歌われるわけです。先例も常識も過去の遺物だ、未知の領域に挑み革新の旗を掲げろと秋月涼を筆頭にして彼らが歌う意味は、きっと私よりもSideMを初期から追い続けたプロデューサーさんにこそ刺さったはずです。

そしてそれは、前述したように今回のMOIWのコンセプトとも強く合致するものでした。

今回のライブの前に、SideMを含めたここまでのシャッフルをすると言えば、多くの方には一笑に付されるか、あるいは反発まではいかずともモヤモヤ感を与えてしまったでしょう。MOIWがハッチポッチの進化系ではなくフェスの延長線上とする見方が少なくなかったのも、社会的情勢以上に「そんなことできるわけがない」「混声がそんなに上手くいくはずがない」という先入観があったからだと思います。
ですがそんな古い楔を引っこ抜いてしまえば、未踏の地平線は誰が思うよりも遥か遠くにまで広がっていました。勿論どのブランドもその新しい領域に軸足を移さなければならないというわけではありませんが、「それ」がすぐ隣に確かにある、少し踏み出すだけでそこにも行けるのだと認識できたことに意味があるはずです。

このライブはまだ続きますが、今回のRtFはその象徴でした。メインテーマの「みんな元気!!!!!」を締めくくるのが閃光☆HANABI団だったことも含めて、グリー時代からブランドを支えてきた方々は胸を張ってもいいのではないでしょうか。改めて言いますが、前回のような派手な待遇はなくとも、間違いなくミリオンライブはMOIW2023を循環した血液でした。

そして、この日の関係者席にはRtFに欠かせない存在である戸田さんも見に来ていました。諸事情もあり長らくアイマス単独のライブからは離れている戸田さんですが、いつの日かステージに戻って来られた時にこの曲がセトリに入っていれば、きっとMOIWのSideMのRtFも咀嚼して、この曲を再び進化させてくれると信じています。

最高でパワフルな歌唱に胸の高鳴りが収まらない中、この日もMCのトリを務めたのはミリオンスターズ。

またオチ担当になるんだろうかと心配しましたが、センターの斉藤佑圭さんが突然抜き打ちクイズを始めたり、ライトスタンドの民とレフトスタンドの民が伝統の一戦の空気をまといそうになりながらも、大きなやらかしはなく終わりました。渡部優衣さんがミリオンとはと問われて、とっさに自身の別のユニットであるリコッタに重ねて「家族」と答えたことも含め、概ねまともだったのではないでしょうか……。

この日の最終ブロックは、「明るく楽しく最高に盛り上げる」ブロック。予告通り、その初手はフロートでシンデレラ屈指の盛り上げ曲「Yes! Party Time!!」を歌う765ASでした。

完全燃焼に向けて観客席の熱気も急上昇していくのを肌で感じましたが、一方で「この曲をコールなしでやるプランもあったとか拷問か?」ということも脳裏をよぎります。帰宅後に「たしか去年やってたよね」と調べたら声援禁止の期間だけで計4回も披露していたとのことで「やっぱり拷問だな」と再確認しました。
おそらく選出理由の一つかと思いますが、「ちゃんと見てるよ」を中村繪里子さんに言わせるのはずるいですよね。私はチョロい古参なので、あれだけで胸が熱くなってしまいます。

765ASからステージを引き継いだのは、シャニマスの信号機・イルミネーションスターズの「Happy Funny Lucky」。この歌を応援メンバーとしてmiroirとHappyHappyTwinが歌うのは非常にマッチしていると感じましたし、出逢いに感謝する歌詞もあんきらの2人が歌えばまた違った色彩を帯びる構成になっているのが素敵だな、とうんうん頷いていました。だまゆPもまた役得でしたね。次回のMOIWではシャニマスの青である風野灯織役・近藤玲奈さんも揃って、3人のイルミネがドームで見られたらより喜ばしいです。

……と、そんなほっこりした気分になっていたらここで警戒していた曲の一つが。そう、SideMの切り札の一つ「Bet your intuition!」です。

前日の「Tulip」の対になる候補曲であり、「あるいは私の担当はこの曲か」とも想定していたのですが、選抜されたのは4 luxuryとFlamme Martiniの8人。実質的な両ブランドのボーカル強者選抜の激突に、前日同様会場は大きく沸きました。

ミリオンはここでも大人の色気をまとってガン攻めする末柄里恵さんがとにかく切り込んでくる姿勢で、これほどの彼女は単独でもそう見られるものではありません。この曲ではミリオン側で最も存在感を示したのは末柄さんでしょう。そして、後述するあの曲はセトリの都合上出られなかったミリオン屈指のイケボ持ち・香里有佐さんも、ちょっぴりオペラセリアで演じた男性役・オスカーを思わせる声色を効かせて、思わず私も俗に言う「ティアラ生える」状態になりかけたり。
しかし、この曲で一番目立ったのは河瀬茉希さんでしょう。メンバーの中ではシンデレラに参加してまだ比較的日が浅いこともあって他ブランドメインの方への知名度がおそらく低く、今回も伏兵的存在だったのもあるでしょうが、結果的に両日のシンデレラのメンバーでは最も株を上げた演者さんなのではないかと思います。特に、SideMのメンバーは誘うように告げる「さあ、次は君のターンだ」の台詞を、あそこまで挑発的にアレンジするのは鳥肌が立ちました。

ともあれ、いわゆる「Tulip」枠は終わり、次は私も予想していたバレンタイン曲「SWEET♡STEP」が始まったことで、「あとは花ざかりと君花火だけだし、今日は平田さんの出番控えめの日だったかなー? まあ、昨日あれだけ美味しいところ持ってったもんね」と勝手に納得しながら一息ついていました。

正直なところあまりに平田さんが出てこないので折り返しあたりから気が気ではなかったのですが、前日が好待遇だったので「最後に765ASで一曲あったらいいな」くらいに切り替えて、かわいいSideMのメンバーたちを眺めていました。アイマスのバレンタイン曲はいくつもありますが、MOIWで男性陣に歌わせるならやはりこれですよね。

そんな調子でゆったり構えたら、不意のメロディに激震が走ります。期待していたけれどもうないかなと思っていたムンナイのイントロ。そうですよね、ここまで予想を上回り続けて期待に応えてきたMOIW2023のセトリが、この曲を外すわけありませんもんね。断末魔のような女性の悲鳴と野太い大歓声が上がる中、我らが平田宏美さんは他ブランドのイケボ勢を率いて、「MOON NIGHTのせいにして」でセンターを張っていました。

この曲は21年の「BRUTUS」アイマス特集における仮想合同ライブ企画でもセトリに選ばれており、今回もSideMのメンバーで歌うという意味であれば有力とされていました。しかしこのセトリの経緯で一旦油断させてから刺すなんて、ライブチームも人が悪い。……いや、そういやこのコンテンツ、最古参ブランドのメンバーが「(MCで)油断している奴は刺せ」みたいなことを言うやつでした。ええ、完全に油断していましたね。

この時のメンバーは、平田さん以外は青木志貴さん、河瀬茉希さん、松田颯水さんのシンデレラ3人、そしてアンティーカの八巻アンナさんで計5人。両サイドのスクリーンにアイドル&演者名が表示された時の大歓声は、まだ耳に残っている方もいるはずです。
できればミリオンが入っていてほしかったなーという思いもあるのですが、香里有佐さんは今回歌姫属性に振ったのとセトリの都合上出られず、斉藤佑圭さんもまだMOIW基準では昴にカッコいい曲の蓄積が足りないかな、というところもあり。ジュリア役の愛美さん、あるいは舞浜歩役の戸田めぐみさんがいれば声質的にもフィットしそうだったのですが、それはまあ次回への希望ということにしておきましょう。

ともあれ、この後の「ぴらみ砲」ともども、高いハードルが設けられた5人の演者にかかるプレッシャーは相当なものだったと思います。SideMが合同に持ち込む曲では全体曲以外では最強格に挙がるカードですし、そもそもオリメンが抜群のボーカリスト揃い。前日の「Tulip」にも勝つくらいでないといけない。そんな中でも、それぞれのパフォーマンスはここにきて最高潮でした。

5人ともイケボはそれぞれ相当なものですが、八巻さんはビジュアル面でも魅せ方が巧みだなと、ムンナイを通じて改めて再確認できます。ただ、担当びいきを承知で申し上げれば、センターとしてソロパートも多めだった平田さんの声の表現力はやはり頭一つ抜けていました。

菊地真は元祖ボーイッシュ/カッコいい系のアイドルではありますが、その声は決してイケボ全振りではないんですよね。もちろん曲にもよりますし長い歴史の中で演技も変遷していってはいるのですが、総じて少年寄りのカッコいい歌声でもしっかり中性的というか、女性的な柔らかさも必ずと言っていいほど同居しているのが魅力なんです。
だからこそ「絶険、あるいは逃げられぬ恋」のようなカッコいいに全振りした曲でも、歌声そのものは振り切らない。そこに味が出るわけです。そういう歌声ですから、イケボ曲ではない「チアリングレター」や「たいせつなひと」のようなソロ曲が一層光るということでもあります。今回のムンナイでは語尾での声の抜き方が象徴的でしたが、あの辺りの絶妙な加減が真骨頂です。

観客席の熱狂を引き連れたまま、曲はBサビへ進んでいきます。そう、「おいで」のあるパートですね。誰が歌うのか平田さんなのかそれとも……と皆が固唾を呑んで見守る中、出されたのは5人揃っての「おいで」というベストアンサーでした。ライブ後の回顧によると当初は平田さんのみの予定だったとのことですが、平田さんが原曲を聞き込んだ際にオリメンであるドラマチックスターズが3人全員で歌っていることから、5人全員での「おいで」に切り替える提案をしたとか。その言い方も、ドラスタよりもぐいぐい攻めてくるような声色で、これもまた一夜限りのメンバーらしい攻めた演出でしたね。
ラスサビでも見所である「本当の姿を見せて」のパートを平田さんが任されるわ、最後にドームごと抱かれるわで担当P的にはもうありがとうございましたという言葉に尽きます。菊地真は決してカッコいいだけのアイドルではなく、「カッコいい」と「かわいい」の両面を揃えることこそが理想形であるというのはたびたび公式からも示されているのは重ねて強調しますが、それはそれとして「東京ドームで開かれるMOIWのカッコいい女性アイドル選抜で、真がセンターを張ってそれに相応しいパフォーマンスを見せられる」というのは、感慨を通り越してただただ恵まれているな、真Pで良かったなと、十二分に満足させてくれるものでした。

最後のポーズを決めた5人に地鳴りのような歓声が送られる中、「まだまだボスラッシュは続くぞ」とばかりに間髪入れず差し込まれるのは「花ざかりWeekend✿」。ムンナイに負けじと、女性の支持も強いミリオン屈指の人気曲で盛り上げます。とにかくメンバーのVoが強いこの曲ですが、歌うたびによりブラッシュアップしてくるのはさすがですね。バンナムフェス以来のコールもできましたが、復習をしなくても体が覚えていたことに安堵しました。

注目された応援メンバーは、若林直美さん、三船美優役・原田彩楓さん、芝崎典子さん。形は違えど社会人つながり、というところでしょうか。でも律子は未成年なので金曜日の夜も酒盛りはできませんが……。
さて、この曲と言えば平山笑美さんによる「ぴらみ砲」が注目されます。もちろん、そこまでに着実にトスを上げる馬場このみ役・髙橋ミナミさんらの巧さも見てほしいのですが、大舞台で歌うたびに進化していくのが「ぴらみ砲」でした。MOIWの4週間前に開催されたミリオン9thでは、演者間でも認識されていることが判明した「ボーカル四天王」の双璧である駒形友梨さんがこの曲を歌って「おべい砲」をぶっ放しました。となればそれを見たばかりの本家はどうなるか。平山さんが舞台下手の定位置についたことで、自然と目はそちらに引き寄せられます。現地4万人の注目を浴びながら、平山さんは過去を上回る5段式の「ぴらみ砲」をぶっ放し、大きな歓声を浴びました。
もっとも、1階スタンドの私は場所の関係上、歓声と被ってしまってしっかり聴けたのは配信でだったのですが……これはバンナムフェス1st同様、致し方ない所ですね。敢えてリクエストするなら、ブルーレイではあの場面をもう少し平山さん中心に映してほしいです。

続けて最後のユニットかと思いきや、これまた聞き慣れたあのイントロが。そう、これもあるいはやってくれるかなと願っていた「待ち受けプリンス」です。ダブルセンターは、CD歌唱メンバーでもある765ASの釘宮理恵さんと、SideMの小林大紀さん。小林さんは当然のように違和感なしの原キーです。

水瀬伊織がこの手の曲を可愛く、時にカッコよく、あるいはあざとく歌えるのはもちろんですが、相方が水嶋咲というのも、また象徴的だったのではないでしょうか。SideMは現在進行形で勉強中なのであまり偉そうなことは言えないのですが、自分なりのかわいいを貫こうとする彼も、女性との共演に緊張というか葛藤を抱える描写があったというのは私でも知っています。そんな彼が、「SWEET♡STEP」でセンターを務めた後に、あざといくらいにかわいいアイドルである伊織とダブルセンターを張る。担当、及びカフェパレPにはきっと感涙ものの名場面だったのではないでしょうか。若林直美さんにそのあたりたっぷりと解説いただきたいところです。でもドームに挑む段階の伊織なら、咲が気にしている素振りを見せるなら積極的に発破をかけて、背中を押してくれそうな気もしますね。
見せ場である台詞パートは小林さん、そして「嘘つき」は釘宮さんと、ダブルセンターが面目躍如。そう言えばこの曲だけは、「イルミネーション」とか「偽りのシンデレラ」とか、当て書きっぽい配役だったような……。ですがシャニマスの2人もシンデレラの久川姉妹も、それぞれ短いパートでキャラクターの味を出していたのはさすがでした。特に立花日菜さんは凪として抜群の存在感……というかマイペースぶりでしたね。

そして、2日間のユニットパートの大トリは、満を持してミリオンの閃光☆HANABI団が登場。歌うのはもちろん、「咲くは浮世の君花火」です。19年秋のバンナムフェス1st以来の「Fire Flower!!!!」コールには、感慨深いものがありました。なお、当たり前ですが花火は英語で「firework」です。ミリオンの中でも特に脳筋扱いされるプリンセス属性だからしょうがないですね。

さて。このユニットは「みんな元気!!!!!」のテーマでライブをやるにあたって、全員招集を前提としない3ブランドの中ではFRAME同様、真っ先にオファーが目指されたのではないかと考察します。
MOIWは5ブランドの祭典。祭りを締めくくると言えば、ミリオン7thリバーンもそうでしたが、大きな花火です。また、アケマスやXbox360版のアイマスでも、最終盤にラストライブを花火に例える要素がありました。
さらに、このユニットに応援に加わったのは、下田麻美さん、FRAME、Threat Signの計7人。下田さんは「ポジティブ」や、元気復興ソングとして位置づけられ、MOIW2015でも披露された「YOU往 MY進」など数々の元気曲持ちです。Threat Signもユニットとしての本来の曲はギャップが魅力ですが、それぞれ元気いっぱいエネルギー全開のメンバー。そしてFRAMEは花火の消火担当なんてネタもありましたが、この曲にはこんな一節があります。

「俯いてる誰かに 勇気の火花が届くように」

きっと、出演者が固まった時点でユニットパートの大トリは閃光☆HANABI団、そこにこのメンバーを加えるというのは早い段階で決まっていたのではないでしょうか。

ミリオンの煽り隊長である渡部優衣さんの声に乗れるのもバンナムフェス1stぶり。コール曲はここで最後なのはわかっていましたから、私もオレンジの光を掲げながら完全燃焼しようと枯れかけた声を上げました。ふと見上げればドームの天井にも数多の花が咲いていて、地上も空も、ドーム全体が花火大会のように眩しく輝いていましたね。

前日であれば、ここから全員集合で「CRYST@LOUD」を歌う流れです。けれどMOIW2023は、私のような古参Pによく効く、隠し球のプレゼントを用意してくれていました。

765ASの「Destiny」。

正直、イントロで叫んでしまったのか、それとも「アッ」とだけ言って言葉を失ってしまったのか記憶にありません。ですが、私にとってこの曲はただのOFAのエンディング曲、あるいは765ASの10thとしてのMOIW2015の締めくくり曲を超えて、特別な特別な一曲でした。
「ねえ 最初に出会った日 覚えてるかな」という言葉から始まるこの曲は、出逢いとこれからを歌う「思い出ボム曲」です。アイマスと共に歩んだ期間が長ければ長いほど、それは問答無用で走馬灯のように次々と現れては炸裂し続けます。

07年に色々あって心が沈んでいた学生時代にアイマスと出逢い、バイト代から捻出して初めてのCDを買ったこと。革新的だったXbox360版のグラフィックに感動したこと。全盛期を迎えていたニコニコ動画のアイマスコンテンツで、視聴者としても創作者としても長く楽しませてもらったこと。メンタルを病んで苦しんだ時もアニマスや楽曲たちが支えてくれたこと。参加できなかったMOIW2015の後に一度コンテンツから少し距離を取り、これが最後という思いで参加した18年の初星宴舞で再び深く沼落ちしたこと。765ASの可能性を広げ、ライブの魅力と多様性を教えてくれただけでなく、定期的にモヤモヤするのがわかっていても単体ブランドとしても追い続けずにはいられないミリオンライブ。初めて真や千早に「会えた」MR ST@GE。バンナムフェス1stでの「あの言葉」を敢えて温存しての誓い。制限だらけの長く苦しい期間も、いつかの約束を果たす瞬間を信じて待ち続けた日々。

時に不信感を抱いたりやきもきしたりすることもありますが、長く長く待ち望んだ景色を見てやはり思うことはただ一つでした。

アイマスをずっと好きで良かった、と。

だからこそ、全員集合こそなりませんでしたがこのドームで、東京ドームのステージで765ASにこの曲を歌ってほしかった。その夢がついに叶ったのです。若林直美さんの第一声もあって、あふれ出る感情は抑えられぬままでしたが、ただ崩れ落ちるまい、一瞬でも多くこの至高の時間を目と心に焼き付けたいと踏ん張っていたはずです。

Bメロからは今回出演の765AS全員が揃い、ドームの中心であるセンターステージで円になりました。MOIW2015でも披露された、原作MVの再現です。ギリギリまで調整して演者サイドの要望で実現した演出だったことが各所で語られていますが、私たちが大好きなあの演出を、演者の皆様も無理を通すくらいに愛してくださっていることがただただ嬉しい限りです。
「Destiny」は集大成感のある曲ではありますが今回はそこに悲壮感はなく、「必ず叶う再会」という要素をより押し出しているように感じました。だからこそ、オケマスですらボロ泣きしてしまったCメロの「もし離れたって信じてるから 必ずまた逢えることを」という歌詞も、この日はしっかりと前を見て、765ASのパフォーマンスを見届けられた……はずです。

最後のポーズのシーンも、キャラカラーは12色。両サイドには三浦あずさと四条貴音の個人カラーのライトが当てられていました。まだ765AS全員揃って披露されたことのないこの曲ですが、このような演出をしてくれるなら、いつかは必ずと信じて何年でも待ちたいと思えます。

そして、この曲の歌唱メンバーの登場順にも、他の曲同様に意図があったと考えられます。
MOIW2015でこの曲を歌えなかったのは、若林直美さん、仁後真耶子さん、長谷川明子さんでした。(3人とも歌唱そのものは初星宴舞で経験済み)
また、MOIW2015ではアケマスからの初期メンバー6人による「my song」が披露され、ここでは沼倉愛美さん、四条貴音役の原由実さん、萩原雪歩役の浅倉杏美さんは外れています。前回から連なる文脈なら、これに絡めるところですが、しかしそういう人選ではありませんでした。

最初は若林さん、下田さん、沼倉さん、仁後さん、そして釘宮さんの5人。Aサビラストで、平田さんと浅倉さんが追加して7人。そしてBメロ前にセンターステージに信号機の3人が登場し、全員で移動する流れでした。
当日現地ではこのメンバーの意味を読み取る余裕などあるはずもなく、せいぜいが、平田さんをハグする浅倉さんを見て「まーたあずみんが役得してる……」と考える程度の余力でした。

しかし、律子、亜美、響、やよい、伊織となれば、一つだけ該当するものがあります。それは、ミリオンライブでも初期のCDシリーズの一つ、「LIVE THE@TER HARMONY」です。
通称LTHと呼ばれ、今なお人気曲の多いこのシリーズは2014年に展開されました。OFAが発売され、「Destiny」が世に出た時期と数カ月しか差がありません。そのシリーズの先駆けとして登場したのが、この5人によるユニット「レジェンドデイズ」とユニット曲「合言葉はスタートアップ!」でした。

友情と絆をテーマにしたこの曲では、色とりどりの光が願いを受け止めて星になること、そして今までの全てを思い出しながら「力あわせて伝説を作ろう」と呼びかける流れになっています。今回のMOIWにも通じるところがありますね。
オリメンの初披露は18年の初星宴舞。LTH発表当時はまだミリオンを敬遠しがちで、2016年以降はコンテンツとやや距離を取っていた私はこの曲を把握しておらず、盛り上がる会場の空気から取り残されていました。ライブ後にその意味を知り、765ASのソロ曲+αくらいしかミリオンを追っていなかったことで「とんでもない損をしていたのではないか」と気付いたのが転機になります。しばらく後から、当初から登録はしていたもののたまにログインする程度だったミリシタを、ほぼ毎イベント欠かさず完走するようになります。
言わば、レジェンドデイズは私にとってミリオンライブにおける765ASを強く意識させるきっかけになったユニットでした。

最初からセトリがパンク寸前だった前年のサンリッチに引き続き、今回のMOIWでも「ミリオンライブとしての765AS要素」はほぼ触れられることはありませんでした。演者不在だったDay1の「秘密のメモリーズ」がかろうじて貴音と風花のデュオ曲だったくらいで、オリメンが揃っていた「アライブファクター」「ジャングル☆パーティー」など数曲が披露されることもなし。また繰り返しにはなりますが、すべての曲が765ミリオン混成で展開され、ライブ向けの強い曲も数多い最新のMTSシリーズの曲も完全封印でした。SideMが最新の曲を次々と投入してきたのとは対照的です。
もちろん今回のMOIWの性格上、765ミリオンだけで完結するのは内輪感が強く、コンセプトと合致しません(オリメン含めた越境ジャンパはやってもいい気がしましたが……)。

ですが、ドームでも改めて「一人も手放さない」と叫んだのもミリオンライブです。だからこそあえて平田さんと浅倉さんを最初は外し、レジェンドデイズで「Destiny」をスタートさせることで、少なくともライブチームとしては「ミリオンとしての765ASの要素も決して手放しはしない」という隠れた意思表明をしてくれたのではないでしょうか。
もちろん考えすぎなのかもしれませんが、この日は比較的負担が軽めだった平田さんと浅倉さんを外す理由はそれ以外に思い当たりません。765ミリオンの正統派フルライブを強く希望する一人としては、そうであってほしいと願います。

いつか見たかった「Destiny」を現状叶えられる最高の形で見届けることができ、私は思わず同行者に「もうマスピなくても満足だ……」と漏らしていました。「CRYST@LOUD」もこの日はより安定してクラップすることができ、余韻に浸りながら曲に聴き入っていたような記憶があります。振り返ってみれば、Day2最後は「なんどでも笑おう」確定だと思い込んでいたのもあるでしょう。

アンコール明け。ブランド単位のお知らせがなかったのは少し驚きましたが、尺の問題もありますしそもそもこのライブは徹底して5ブランド(+α)のライブとして完遂してきたわけですから、冷静になればそれをやるのは無粋というものですね。
MCでは、最後の一曲について言及する中村繪里子さんの言葉をじっと待っていたはずが唐突に始まった今井麻美さんとの熟練の漫才に笑わされたわけですが、その後に告げられた「ヒントは、今日のライブは最高傑作」の一言で電流が走りました。ここははっきりと、ありったけの歓声で応えたことを覚えています。

東京ドームで、5ブランド集結で、あの最高の曲を歌うのだ、と喜びを噛みしめながら。

ただその後、肝心の「M@STERPIECE」のイントロがかかった後は、サンリッチの時同様にほとんど記憶がありませんでした。たぶん目元を拭いながら、お世辞にも音程が合っているとは言えない歌を、ひたすら楽しそうに歌ったはずなのですが……。

けれど、それで良かったのだと思います。マスピについては5ブランドで歌うことで悲願の歌唱ができた方もいたり、憧れに手が届いた方もいるでしょう。ただ、それを殊更に語るのは野暮というものです。本来は765ASと劇場版に登場したミリオンスターズの一部メンバーの曲ではありますが、「M@STERPIECE」はその名の通り、初公開から約9年を経てもなおアイマス楽曲の最高峰に立ち続けています。例え他ブランドメインの方でも、5ブランドで披露されたこの曲を聴き、あるいは担当の演者さんの姿を見届けて、あの景色を見た時にはきっとそれぞれ特別な世界が見えていたでしょう。

見えているものは十人十色でも、皆で作るこの空間がただただ楽しいのはきっと共通していて。私に至ってはふと「このまま燃え尽きてもいいかな」という考えが脳裏を過ぎるほどだったのが、今回のマスピの答えなのだと思います。

もっとも、今井麻美さんと中村繪里子さんによる終演後の「またお会いしましょうね!」「約束ですよ、約束!!」の言葉でどうにか冷静さを取り戻しました。「約束」という言葉は、私にとってそれくらい重い言葉でした。
いずれはその日が来るのでしょうが、彼女たちがいつの日か光る杖を振らせるとまで言っている以上、まだまだバーンアウトするには早いのです。

その2人の銀テープを巡るやり取りはMOIW2015に通じるものがありましたが、一つだけ違うところがありました。前回は中村さんが「また来られますように」と願掛けをしてステージの手すりに銀テープを掛けていったのですが、今回はそれがなかったのです。
きっと、もうそうした願掛けは必要なくなったのでしょう。

それからこれは現地でも配信でもしっかり抜かれていましたが、マスピを歌い終えた後のやり切った表情の峯田茉優さんを撮ったカメラさんについては絶賛されてしかるべきだと思います。ブルーレイでもぜひあのカットは残してほしいですね。今回最年少だったシャニマスですが、MOIW2015の時のシンデレラやミリオンよりもとうに年上です。今回は5ブランド+αが全て集ったからこそ東京ドームで開催できたわけですし、パフォーマンスは言うまでもなく高水準でした。SideM同様、意図的に既存ブランドと離していたことでできていた境界線が、これからは演者もメインブランドとする若いユーザーも良い意味で薄れる方向に進んでいくのかもしれませんね。

終演後、待ち合わせのため真の描かれたのぼりで待機していると、同じように同担の皆様が集まってきていました。ムンナイを絶賛したりマスピに感動したという話をしつつも、一方で「次は真のかわいいを重視して見せてほしい」という声も出て、例によっていつものかわいいカッコいい論争も。真は両方揃えてこそのアイドルという前提は共有した上で、何かと意見がぶつかることもある担当P同士のいつもの会話なのですが、共通していたのは「2日間のライブが楽しかった」「平田さんのステージは素晴らしかった」ということです。

そう、本当に楽しく、元気をもらえるライブでした。ほとんどの人がその感想を共有できているのなら、ややこしい話は抜きにしても、MOIW2023は大成功だったのです。

終章 3.0と次回MOIWに向けて

終演後、スクリーンで2nd visionから3.0への表示切り替えがあり、そこでも会場はもう一度沸きました。
先ほどは春香と冬馬、律子と涼の競演を例に挙げましたが、2nd visionが掲げられた当時の誰にも想像できなかったほど広がった世界は、このMOIWでまた形状と認識を変えたのは間違いありません。今回のMOIWは意図的にアニバーサリー感こそ抑えていましたが、一つの区切り感はありました。

3.0で何が起きるのかは、まだ判然としません。ただMRに注力していくことや、それこそ十数年前から語られていたように「現実への浸食」をさらに深めていくことは間違いなさそうです。まだ詳細不明のMRフェスティバルという企画も動いていますが、そろそろ続報にも期待したいところですね。
一方で、新アケマスとも呼ばれる「アイドルマスター ツアーズ」も発表されました。スターリットシーズンで使われた、いわゆるスタマスモデルを使うとみられるアーケードゲームで、スタマスにはいなかったシンデレラやシャニマスの信号機メンバーのモデルも確認されています。そして、SideMから少なくとも天道輝の参戦があると読み取ることができます。
スタマスモデルに合う男性モデルを作る関係かロケテではSideMは未参加とのことですが、据え置きモデルに対応する男性モデルが登場すれば、アイマス2のJupiter以来12年ぶりとなります。お出しされるものにもよりますが、ポプマスやMOIWを経た今ならば、そう摩擦はないでしょう。人数は限られるでしょうが5ブランド共通のハイエンドモデルができることは、この先に向けても様々な期待を抱かせます。

一方でMOIWに関しても、前提条件付きを含めれば「またやってほしい」という意見が大多数を占めるのではないかと思います。シンデレラ、ミリオン、SideMを中心に今回出演できなかった強者揃いの演者が多いことはもちろん、各ブランドの名曲も山ほど残っています。

組み合わせについても「今回○○ができたんだから次回は△△とかどう?」というように、心理的な壁も取っ払った状態でより自由な提案や妄想ができるようになったのは大きいのではないでしょうか。例えば各ブランドの「和系」メンバー集結、あるいは炎陣&神速一魂、青の熱バトル、楽器演奏系メンバー、「絶険、あるいは逃げられぬ恋」もしくは「White Vows」を歌う男性陣、ラップ曲経験者ユニット、引率者が心労で倒れるハンズコラボユニット、蒼黒の美声楽団、スタマス4コマで描かれたマコストロメリアなどなど……。

また、そのスタマスの曲もその気になれば今回ねじ込めたはずですが、まったく使われませんでした。これもどこかで回収されてほしいところです。20年時点ではプロミツアーという形式を採ったMOIW前哨戦は、今度はブランド混合、あるいは対バン形式のツアーでも十分受け入れられるでしょうから、そうしたところで拾われるかもしれません。また、演者熱望の961フェスもこの形式なら実現できるのではないかと考えます。
もちろん何もかも越境にリソースを割く必要はなく、まずはMOIWで持ち帰ったものを各ブランドで活かすのが何より大事でしょう。
その上で忘れてはならないことがあります。今回のMOIWで高い満足度を得られた前提条件として、各ブランドの単独ライブがしっかり行われた後だったからというのは忘れてはいけません。持続に舵を切ってから周年ライブの概念が消滅した765ASも、平田さんがサンリッチで宣言したように20thイヤーまでにもう一度単独ライブが実現された上でこそのMOIWでしょうし、繰り返しますが曲は出し続けるのに意図的に封印されている765ミリオンのフルライブ完遂も次の開催条件には加えてほしいところです。

……とまあ、最後には何かとリクエストもしましたが、改めて今回のMOIWは限られた条件下でほぼ文句のつけどころがない結果を出してくれました。同行者でMOIW2015以来の現地だった知人にも予想以上の好影響があり、関心を持ってくれたブランドの布教をさっそく始めているところです。4月に開催されるミリオン10thツアーSSA公演にも参加してくれることになり、コミカライズの「ゲッサンミリオン」と「ミリオンBC」まで購入してくれました。
それほどの刺激を与えてくれたライブだったからこそブルーレイもライブ翌日に予約しましたし、今回垣間見られた輝きの向こう側のさらにその先で、これから何が起こるかは今から楽しみでしかありません。

非常に長くなった記事もこれで終わりですが、最初に申し上げたようにMOIWロスの方の寂しさを少しでも埋めつつ、考察も深めて未来への希望を高められるような記事になっていたのなら幸いです。ここまでお読みいただき、深く感謝申し上げます。

今回のMOIWと2nd vison完結でたどり着いたゴールは、次への新しいスタート。到達する頃には私の人生の半分がアイマスとの付き合いになる20周年イヤーに向けた新しい旅路を、胸を高鳴らせながら走り続けたいと思います。
(筆者・紫電P 拝)

文・執筆・編集:紫電P
企画・編集:オタク総研編集部
取材協力:株式会社バンダイナムコエンターテインメント

※イベント公式サイト:https://idolmaster-official.jp/live_event/idolworld2023/

©窪岡俊之 THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.

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