「お菓子配り族」職場で増加? パワハラリスク恐れ若手の機嫌取り 中堅社員はモヤモヤ、募る会社への不信感

 

 「お菓子配り族」、皆さんの職場にも出没していませんか。とりわけ若手社員に手渡して機嫌を取るのが最近の傾向。背景には、部下との付き合い方の難しさがあるようです。「パワハラリスク」を恐れて苦言を飲み込み、気疲れして…。とりわけ中堅社員たちは「自分たちと違って会社は若手を過剰に甘やかして…」とモヤモヤを募らせています。

人事部からは謎の決まり「1日1回、若手を褒める」

 今年のバレンタイン、広島県内の大手企業に勤める女性(35)は、新入社員にチョコレートを配った。「いつもありがとうねー」と作り笑いを添えて。

 本音では「ワガママ言わず働けよ」と思っているが「若い子に敵視されるのが怖くて」。女性の職場では2年連続で新人が退職。焦った人事部は、「今年は絶対辞めさせるな」と通達を出し「とにかく優しく」と求めてくる。 

 「兵隊」のように扱われた自分の若い頃とは大違いだ。毎日怒られ、理不尽なことも我慢した。「代わりはいるから辞めたければどうぞ、って感じで。お菓子なんてもらったことないですね」と苦笑いする。

 なのに、最近の会社の手のひら返しは何なのだろう。新人たちを腫れ物扱いし、増長させているように見える。 

 特にある女性社員には手を焼いている。休日出勤が必要な時も常に「用事があるんで」と断る。周りが困っていても知らん顔。ミスにも反省する様子はない。顧客から預かった免許証を返し忘れた時。幸い客が30分後に取りに戻るというので当然待っていると思いきや「私、昼休憩なんで渡しといてください」と外出。あぜんとしたが怒っても損するだけ。「次からは気を付けて」と顔を引きつらせながら言うしかなかった。

 みんなあきれているが、辞めさせないことが最重要課題だ。でも、昨年の新人は、客から「ちゃんとしなさいよ」と言われただけで「おなかが痛い」と長期間休み、そのまま転職。何のために甘やかしたのかバカらしくなる。さらに腹が立つのは人事のトンチンカンぶり。「1日1回、若手を褒めましょう」と謎の決まりを設定した。「言うべきことを言えない職場で人は育たない。今後どうするつもりなんですかね」 

勤務態度を注意した上司は関連会社に飛ばされた

 岡山市の男性(37)は、「お菓子外交」に余念がない50代の女性上司を冷ややかに見つめる。彼女は毎日のように若手にチョコやクッキーを差し入れる。自分たち中堅社員への気遣いは不要ということなのか、手元には回ってこない。

 若手の言うことは「いいねー」「すごーい」と持ち上げて一切叱らない。「でも度を超えた寛大さは責任放棄ですよ」。50代は逃げ切れるからいいが、自分たちが管理職になった時、教育されず「戦力外」のままの後輩を押し付けられたらたまったもんじゃない。

 ただ、「刺されるのが怖い」という気持ちは分かる。最近の若手はすぐに「パワハラ認定」する。実際、20代の部下の勤務態度を注意した男性上司は関連会社に飛ばされた。

 その部下は雨や雪が降ると会社を休み、会議に遅れても謝罪がない。取引先との会食は「業務時間外なので」と参加を拒否。頼んだ仕事も期限を守らない。商品を誤出荷した挙げ句「置いてあった場所が悪い」と自分を正当化した時には、さすがに頭にきた。

 上司は、彼のことを思って親心で注意したのに、部下は「親にも怒られたことがないのに、上司のせいでメンタル不調になった」と訴えた。尊敬していた上司が簡単に切られる様子を見て、会社への不信感だけが胸に残っている。

 就活や採用活動を支援するマイナビ研修サービスが昨年、新入社員4306人に行った意識調査では、9割が「先輩には優しく接してほしい」と回答。4年前と比べて17・5ポイント増えた。人材サービスのエン・ジャパンのアンケートでは「年下社員との接し方で悩んだことがある」と答えた30代以上は6割。「叱るのが苦手」「パワハラにならないか心配」との声が目立つ。

新入社員にチョコを配った広島県の女性。「若い子に遠慮してしまう」と話す

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