北陸新幹線の福井延伸「素直に喜べない」…県内企業が不安な理由とは 魅力的な関東にどう対抗

【グラフィックレコード】ストロー現象と向き合う
福井県内企業5社でつくる「ITラボふくい」が開いた就活イベント=1月5日、福井県福井市の福井商工会議所ビル

 「福井延伸を素直に喜べない部分もある」。福井県内企業の担当者は北陸新幹線が東京までつながれば、優秀な若者の流出に拍車がかかるのではと心配している。

 福井県の有効求人倍率は今年1月時点で41カ月連続全国1位。製造業などを中心に求人数が求職者数を大幅に上回る状況が続き、人手不足が慢性化している。先の担当者は「将来主力となる労働力が外に出てしまうのは企業の存続、地域経済にとって深刻な問題」と指摘する。

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 成長分野のIT業界では激しい人材獲得競争が起きている。県内のIT企業も新幹線延伸を見据え、動き出している。

 22年11月に県内5社で発足した団体「ITラボふくい」は、新卒向けの就活イベントなどを合同で開催。ライバルともいえる企業同士がタッグを組み、福井のIT業界で働く魅力の発信に力を入れる。事務局のアートテクノロジー(鯖江市)の竹島隆之助管理本部長は「IT業界は東京が主戦場。ただ、福井を拠点にしながらも都市部や世界を相手に仕事ができる」と強調する。

 福井コンピュータホールディングス(福井市)は、就活生の交通の利便性を考慮し、22年9月にJR福井駅近くにある県繊協ビルに、企業説明会ができるサテライトオフィスを設置。東京にも人材育成拠点となる「東京開発室」を設けた。橋本彰常務は「場所にとらわれない採用や働き方を進める。一方で将来的には福井に戻ってこられる受け皿でありたい」と話す。

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 県によると、過去5年で、県内の高校卒業後に進学する生徒の約65%が県外の大学・短大へ進んでいる。政府は18年、東京23区にある大学の定員増を28年3月末まで原則禁止する新法を制定したが、デジタル人材育成という名目で24年度にも緩和する方針を今年2月に示した。若者流出が加速する恐れがあり、地方から反発の声が上がった。

 福井県の場合、県外進学者全体の過去5年のUターン率は約30%。このうち、関東進学者のUターン率は約16%で、関西の約27%を大きく下回る。県定住交流課の担当者は「関東は名の知れた大手企業が多く、魅力的なのだろう」と分析する。

 福井県立大学は学生の半数を県内出身者が占め、そのうち80%が県内企業に就職している。ただ、同大キャリアセンターの担当者は「(新型コロナウイルス禍で)オンラインでの就活が浸透し、(就活に使う)お金と時間の壁がなくなっている中、楽観視はできない」。地元や都市部で就職した県外出身者にIターン就職を促すアプローチも強化している。

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