海藻養殖の拡大が人口増による環境破壊対策の鍵に

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世界人口が増える中、農地の拡大によってさらなる環境破壊の発生が懸念されている。その対策の一つとして注目されているのが海藻の養殖だ。科学誌『ネイチャー』のオンラインジャーナル『ネイチャー・サステナビリティ』に1月末に掲載された論文によると、海藻養殖を世界的に拡大し、海藻を食料や家畜飼料、バイオ燃料などに活用することで農地開発を大きく減らすことが可能になるという。

研究を行ったのはオーストラリア・クイーンズランド大学地球環境科学部のスコット・スピリアス氏が率いる研究グループだ。

スピリアス氏は「海藻は栄養価が高く、家畜飼料やプラスチック、ディーゼル燃料、繊維、エタノールなどとしても使うことができるため、ビジネス・環境の両面で大きな可能性を秘めています。今回の研究で、海藻養殖を世界的に拡大することで農作物の需要を減らすことができることが分かりました。さらに、牛などの反すう動物の飼料として紅藻類『カギケノリ』を養殖することによって、CO2を年間で最大26億トン削減できるという結果も出ました。これは検討したシナリオの中でも最も効果のある温室効果ガスの緩和策でした」と説明する。

海藻の中でも、大型で褐色のコンブは1エイカーあたりのCO2吸収量が森林の最大20倍に上る。コンブはリジェネラティブ(環境再生型)で気候変動の影響に強い海藻養殖の可能性を示す存在だ。すでに世界的にも栄養豊富なスーパーフードとして知られ、バイオ繊維としても活用されている。コンブの供給が増えることは地球にとって有益なことだ。

研究者らは、34種以上の商業的に重要な海藻の海洋養殖の可能性をマップ化した。これには、チームに参加する組織の一つ「IIASA(国際応用システム分析研究所)」の地球生物圏管理モデル(GLOBIOM)が使われている。土地利用の変化や温室効果ガスの排出、水や肥料の使用、2050年までに起こりうる種の変化に基づき、さまざまなシナリオの環境的利益を推定した。

「あるシナリオでは、世界の人々の食事の10%を海藻製品にすることで1億1000万ヘクタールの農地開発を防ぐことができると判明しました。また、世界の排他的経済水域(EEZ)内に海藻養殖に使える数百万ヘクタールの領域があることも確認できました」(スピリアス氏)

なかでもインドネシアのEEZは海藻養殖の適地が最も多く、1億1400万ヘクタールに及ぶ。オーストラリアのEEZも大きな可能性を秘めており、種の多様性もある。少なくとも22種類の商業化が見込める海藻があり、養殖に適した領域は約7500万ヘクタールに上るという。スピリアス氏によると、オーストラリア海域に生息する在来の海藻の多くは商業生産を行うための研究がこれまで進んでこなかったそうだ。

スピリアス氏は「トウモロコシや小麦などの日常作物の原型は目立たない雑草のようなものだったと考えています。人類は、数千年にわたって行ってきた品種改良によって現代社会を支える主要生産物を開発してきました。海藻は将来的にとても似たような道を辿ることになるでしょう」と話す。

IIASA生物多様性・自然資源プログラムの暫定理事であるペテル・ハブリック氏は「この研究の特徴は、人類が直面している地球規模のサステナビリティに関連する課題に対応し、さらに課題を陸から海へ、海から陸へと移行させることなく、陸上生態系と海洋生態系を一つと捉える統合戦略が必要であることを強調している点です」と指摘する。

ここで海藻養殖の好例を紹介しよう。米国では2021年、ニューヨーク州の沿岸で長らく禁止されてきたコンブ養殖を認める法案が採択され、同州のブルーエコノミーを推進する重要なビジネスチャンスが誕生した。

同州の「モントーク・シーウィード・サプライ・カンパニー」は海藻を使って無農薬肥料やバイオスティミュラント(植物や土壌によりよい状態をもたらす、さまざまな物質や微生物のこと)などの農業資材を製造する。創業者のショーン・バレット氏は米サステナブル・ブランドの取材に対し、「今ではコンブ養殖産業に従事することが奨励され、地域の生態系や世界の生態系にとって重要な窒素隔離や炭素回収の役割をコンブ養殖が果たすという認識も広がり始めています。コンブの養殖産業はこれから数年間で、世界の需要増加に対応するべく飛躍的な成長を遂げるでしょう」と語った。

# The Next Economy

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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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