巡ったツアーは“12” カート・キタヤマ初Vを導いた「世界中での小さな成功」

副賞の赤いカーディガンに身を包むカート・キタヤマ。キャディのティム・タッカー氏は2年前にブライソン・デシャンボーのバッグを担いでいた(撮影/田辺安啓(JJ))

◇米国男子◇アーノルド・パーマー招待byマスターカード 最終日(5日)◇ベイヒルクラブ&ロッジ(フロリダ州)◇7466yd(パー72)

これまでの道のりを考えれば、何でもなかったかもしれない。1Wショットを左のOBゾーンに曲げ、トリプルボギーで首位から陥落した前半9番。サンデーバックナインまでの短いスロープで、カート・キタヤマは気持ちを切り替えた。キャディとの会話で内心を吐き出す。「まだやれる。はじき出されてはいない。悪いスイングを1回しただけだ」

今大会がPGAツアーで節目の50試合目。30歳にして母国のトップツアーに定着するまで、あらゆる国を巡ってきた。2016年にPGAツアー・カナダでプロデビュー。職場を求めて18年に海を渡り、アジアンツアーと日本ツアーを兼ねた「SMBCシンガポールオープン」をはじめ、アジア下部、オーストラリア、中国などあらゆるツアーを転戦した。これまでにプレーした世界ランキングポイント対象ツアーは実に12にも上る。

18番ホールで歓声に応える(撮影/田辺安啓(JJ))

初めて足を踏み入れた、故アーノルド・パーマーの大会。1991年から初出場選手による優勝がなく、経験と相性がモノを言うことを証明するように、ライバルは百戦錬磨の選手ばかりになった。14番で再び単独首位に立ったとき、1打差の2位にはロリー・マキロイ(北アイルランド)、スコッティ・シェフラーら歴代王者を含む7人が並ぶ大混戦。

キタヤマはタフなホールでパーを並べ、トップタイで迎えた17番(パー3)で勝負を決めた。5mのバーディパットを沈めてスター選手たちから一歩抜け出し、18番は左ラフから懸命にグリーンに乗せた。「信じられない。あれだけの混戦で勝つためには運が必要。ほんの少し、僕はラッキーだった」。ロングパット直後のウィニングパットは5cmもなかった。

優勝を決めて笑顔がこぼれた(撮影/田辺安啓(JJ))

日系米国人の父と日本人の母との間に生まれ、シュンというミドルネームを持つ。カリフォルニア育ちで、高校時代はバスケット選手としても活躍。ゴルフに専念したネバダ大ラスベガス校では、練習に明け暮れる様子から仲間に「プロジェクト」と呼ばれるほどだった。

苦労の末につかんだビッグタイトル。「世界中で小さな成功を見つけて、自分を信じ始めるようになった。大学を出た後は苦労した。でもひたすら努力して、自信を積み上げて、自分の居場所を見つけたんだ」。その足跡は多くのゴルファーの希望になる。(フロリダ州オーランド/桂川洋一)

※カート・キタヤマが出場した世界ランキング対象ツアー(出場順)
PGAツアー・カナダ、コーンフェリーツアー、PGAツアー、アジアンツアー、日本ツアー、アジア下部ツアー、オーストラレイジアツアー、欧州ツアー、PGAツアーシリーズ・チャイナ、チャイナツアー、韓国ツアー、サンシャインツアー(南アフリカ)

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