インディカー開幕戦:エリクソンが最高のシーズンスタート。オワードは失速を悔やむ

 3月5日、NTTインディカー・シリーズの2023シーズン開幕戦がセント・ピーターズバーグで開催。予選4番手のマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)がレース終盤にトップに立ち勝利を飾った。

 予選でイニシアティブを取ったのはアンドレッティ・オートスポート。ポールポジションはロマン・グロージャン(キャリア2回目)、予選2番手はコルトン・ハータだった。オフのテストで順調な仕上がりを見せていた彼らは、シーズン最初のレースでもアドバンテージを有していた。

 予選3番手はパト・オワード(アロウ・マクラーレン)。着々と力をつけてきているマクラーレンは、タイトル初制覇に意欲満々。インディカータイトルを手土産にF1進出を果たしたいオワードは、そちらでもライバルであるハータのすぐ後ろという好位置にグリッドを得ていた。

 予選4、5、6番手はマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)、カイル・カークウッド(アンドレッティ・スタインブレナー)、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)だった。

 アンドレッティに対抗したのはチップ・ガナッシ・レーシングとマクラーレン、そしてチーム・ペンスキーというわけだ。

 ただし、ガナッシ勢がルーキーのマーカス・アームストロング以外の3人をトップ10入りさせていた(スコット・ディクソンが予選9番手)のに対し、ペンスキーは2014年と昨年の二度チャンピオンになっているウィル・パワーをもってしても10番手。同じく2回タイトルを獲得しているジョセフ・ニューガーデンは予選14番手と苦戦を強いられていた。

 大勢のファンがグランドスタンドから見守る中、快晴、最高気温28度というコンディションで行われたレースでのアンドレッティ軍団は、表彰台中央に立つドライバーを輩出できなかった……。それどころか、表彰台に上ることさえ叶わなかった。
 

セント・ピーターズバーグ決勝スタート

 
 序盤戦をリードし続けたグロージャンは間違いなく今日の優勝候補だったが、実際にはプライマリータイヤでのパフォーマンスが今ひとつで、オルタネートタイヤでのスタートでより多くのラップをこなしたマクラフランが1回目のピットストップでグロージャンの前に出ることに成功。2回目のピットストップ後に彼らふたりはコンタクト。ふたり揃って優勝のチャンスを失った。

 インディカー初勝利を実現する大きなチャンスだったグロージャンだが、長かったF1時代にも勝つことができていなかった彼の勝負勘は鈍ってしまっているのかもしれない。仕掛けるタイミングを焦ってしまった感がある。

 自分はピットストップを行ってから1周以上を走ったタイヤ、相手はピットアウト直後で、まだ温まっていないタイヤ……という条件から、グロージャンはターン4でアウト側からのパスにトライしたのだろう。

 相手側が引くはず……という読みもあったと考えられるが、マクラフランは一切引かなかった。その結果、接触して両者ともタイヤバリアの餌食になった。
 

グロージャンを抑えるスコット・マクラフラン

 
 マクラフランとグロージャンは、今日の最速ランナーだった。彼らのどちらかが優勝しても何の不思議もないレースだった。しかし、彼らが消え、勝負はオワード対エリクソンとディクソンのガナッシ軍団に変わった。

 残り22周のリスタート、早めに加速を開始したオワードに、2番手のエリクソンはターン1進入時点で大きな差をつけられ、たった1周でそれは2.7秒にまで広がった。グリーンフラッグを受けるラップでエリクソンはタイヤカスを拾うミスを冒し、ペースを上げることができなかったのだ。

 それでもエリクソンは諦めなかった。残された周回数の多さから“逆転は十分に可能”との感触を得ていたのだ。

 タイヤかすが取れるとエリクソンのペースが上がった。残り周回数が5周を切った時、両者間には差が0.5秒ほどしかなく、そうなった直後にオワードが突然の失速。それを突いてエリクソンがトップを奪った。

「急にスピードが落ちてしまった……。こんな形で勝利を手放すのは大変悔しい」とオワードはコメントしたが、失速の原因に関しては多くを語らなかった。

 ターボのオーバー・ブーストで自動的に短期間だけパワーがシャットダウンされる状況となってしまったようだ。詳細はまだ明らかにされていない。ターボのブースト圧を維持するためのプレナム・チャンバー関連の問題では?と推測する者もいた。

 かくして優勝はレースでの速さ、粘り強さが身上のエリクソン。2位は失意のオワード。そして、3位は予選9番手だったディクソンのものとなった。
 

レース終盤にオワードを交わしトップに立つマーカス・エリクソン

 
 昨シーズンは2勝を挙げるだけにとどまったガナッシだが、今年はまたトップレベルの強さを取り戻すことになるかもしれない。開幕戦での彼らは、優勝、3位、8位、11位で全員がゴールまで走り切ってみせたのだ。

 マクラーレンはしぶとさをレベルアップしている。今回がマクラーレンでの初レースだったアレクサンダー・ロッシも予選12番手から4位フィニッシュをしてみせた。

「パトには悪いが、これもレースだ。ゴールしなくちゃダメなんだ、レースというものは。自分たちはとても良い週末を過ごせた」

「今日もマシンはずっとファンタスティックだった。最後はオワードを迫い、プレッシャーをかけた。そういう状況で何かは起こるもの。最高のシーズンスタートを切ることができたよ」とエリクソンは喜んでいた。

「こんな負け方は悔し過ぎる」と言ったのはオワードだった。

「自分のセント・ピーターズバーグでの実力は、昨年と比べるとかなり高くなっていた。しかし、自分たちはほぼ手に入れていた勝利をライバルに贈ってしまった。こんなことは二度と起こって欲しくない。2位は決して悪い結果ではないけれど……」

 3位はディクソン。7度目のタイトルを狙う彼は、「オフの間のチーム全体の努力により、自分たちは速くなっている」と初戦で得た手応えを語っていた。

 カラム・アイロット(フンコス・ホリンガー・レーシング)はキャリア初のトップ5入りとなる5位フィニッシュで達成した。22番手スタートから5位。当然、今日最もポジションを上げたドライバーとなった。

 マクラフランはグロージャンとの接触は自分に非があったと認めた。

 チーム・ペンスキーにとっての2023年開幕戦は苦いものになった。ニューガーデンはターボかエンジンのトラブルでサイドポッド内に火災を発生させてリタイア。パワーはレース終盤にハータに二度コンタクトし、相手をタイヤバリアにヒットさせるラフなドライビングがあったため、最後のリスタート時に列の最後尾まで下げられるペナルティを受けた。

 最終スティント用にオルタネートタイヤを選んだ彼はリスタート後にグイグイと追い上げたが、7位までゲインしチェッカーフラッグが振られた。

 シリーズ第2戦は全長1.5マイルのハイスピードオーバル、テキサスモータースピードウェイでのPPG375。佐藤琢磨がチップ・ガナッシ・レーシングでの初レースを行う。

 昨年のテキサス戦はペンスキーのワン・ツーという結果だったが、今年はどうなるだろうか?

 ストリート同様にアンドレッティ、ガナッシ、マクラーレンが好パフォーマンスを見せるか否かに注目したい。

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