社説:高齢者の運転 事故増踏まえ対策強化を

 高齢ドライバーの運転による死亡事故が後を絶たない。

 先週、大阪市内で71歳の男が運転する乗用車が病院に突っ込み、通行人の高齢女性2人をはねて死亡させた。

 車は反対車線を逆走して歩道に乗り上げた。警察は男が何らかの理由で意識障害に陥ったとみて、事故原因を調べている。

 繰り返される事故は、ハンドルを握る高齢者にとって人ごとではないだろう。惨事の当事者とならぬよう、自らの身体能力や、地域と生活の在り方を見つめ直すことが求められる。

 交通事故全体の死者数は6年連続で減少する中、75歳以上のドライバーによる車やバイクの死亡事故が2年続けて増えている。昨年は前年比33件増の379件で、京都は8件、滋賀は5件あった。運転免許保有者10万人当たりの件数は、75歳未満の2.3倍だった。

 母数の多い「団塊の世代」が後期高齢者になってきたこともあろう。75歳以上の免許保有者は昨年末で約666万人と、2021年末から56万人増えた。対策の強化は喫緊の課題だ。

 車の事故の要因では、適切でないハンドルさばきや、ブレーキとアクセルの踏み間違いなどの操作ミスが3割を占める。

 こうした状況を踏まえ、昨年5月から75歳以上を対象に新たな免許制度が導入された。

 信号無視など11種類の違反のうち一つでもあった人に義務付けたのが、更新時の運転技能検査(実車試験)だ。期限まで何度でも受検できて昨年末までに延べ約7万7千人が受け、約1割が不合格となった。

 ただ、合格率は都道府県によって大きな開きがある。事故の増加を考えれば、試験内容や判定が妥当なのかも含め、十分な検証が欠かせない。

 もう一つの柱は、衝突被害軽減ブレーキなどが搭載された「安全運転サポート車(サポカー)」の限定免許だった。運転を続けるための選択肢として期待されたが、昨年末までの取得者は全国で14人にすぎず、有効策とはなっていない。

 滋賀では、高齢者でも安全に運転できる社会をめざし、医療や自動車教習所の関係者が協議会を立ち上げた。連携して支援や運転能力の正確な評価を目指すという。

 免許を自主返納した75歳以上の人は、東京・池袋で母子死亡事故が起きた19年に約35万人まで伸びたが、その後は20万人台後半で推移して頭打ちだ。他に移動手段がなかったり、便利さに慣れたりして、免許を手放せない人は少なくない。

 民間の調査によると、「免許を返納するよう誰かを説得したことがある」とした約400人のうち、返納に至ったのは約3分の2だという。説得回数は半数近くが「4回以上」と答えた。身内の粘り強い働きかけが必要だということだろう。

 公共交通機関の整備状況は地域によって異なる。高齢者たちの暮らしの足をどう確保するのか。住民による送迎サービス活用も含めて、模索していかねばならない。

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