勝みなみ“スタンス格闘史” 「私、オープンじゃないとだめなんです」 【女子プロSWINGインタビュー】

今季から米女子ツアーを主戦場にする勝みなみは、国内ツアー3試合に出場後、アメリカへ飛び立つ。昨年の「日本女子オープン」優勝時点で「理想の7割」(勝)だったスイングは、オフを踏まえて現在8割の段階まできているという。渡米を前にした勝に「スイングの現在地」を聞いた。(取材・構成/服部謙二郎)

足のラインは左のバンカーを向くオープンスタンス(写真は2023ダイキンオーキッドレディス)(撮影/服部謙二郎)

近年の女子ツアーはスイングコーチの存在が目立つが、勝といえば、これまで特別なコーチをつけることなく、スイングは自分で考え、その悩みに対して自己解決してきた。だからこそ自分の癖をよく理解しており、エラーが起きればその都度考え、変化させながらブラッシュアップしてきた。そんな彼女のスイング史(といってもまだ20年も経っていないが…)は、「スタンス」と「クラブ軌道」との格闘史でもあったのだ。

もともと「オープンスタンスでカットスライスを打っていました」と言うように、勝は足が目標よりも左を向いた打ち方でゴルフを覚えた。

「小さい時は(スタンスなりに)左に出球を出して右に曲げる球を打っていました。フェアウェイの左サイドに池があったとしても、左の池を狙っていかなければいけない。池からフェアウェイ方向に曲がっていくようなスライスでした。その後だんだんと力がついてきて、真っすぐの球も打てるようになりましたが、軌道はアウトサイドイン(以降アウトイン)のまま。オープンスタンスも変えられず、ずっとそのままでやってきました」

「かっこいいから」という理由でスクエアスタンスに

初優勝を飾った2014年「バンテリンレディス」。当時から振り切っていた(撮影/内田眞樹)

そんな勝のスイングに変化があったのは、高校1年の時だった。突如、スタンスをオープンからスクエアに変更したのだ。

変更理由はいたって単純、「なんかスクエアがかっこいいと思って(笑)」。

高校1年といえば、勝が「KTT杯バンテリンレディス」でツアー史上最年少優勝(15歳293日)を遂げたころ。その一躍有名になった女子高生が、かっこいいからという理由で“足の向き”を変化させていたなんて、誰が気づいていただろうか。

その後の勝は、プロ入りしたあともずっと「スクエアスタンス×アウトイン軌道」で通していた。

「何回かオープンを試したこともありましたが、自分に合わないと思ってスクエアに戻したりの繰り返し。自分の中でカット軌道(アウトイン)は継続していて、でも球はつかまっていたので、どちらかというとフェードのような球が出ていたと思います。プロ入り後から昨年の6月まではずっとスクエアスタンスのカット打ちでした」

「私はやっぱりオープンスタンス」

ではその昨年6月、勝にいったい何があったのか? 同月上旬「サントリーレディス」の会場、六甲国際GCの練習場で、勝は突如ジュニアの頃に慣れ親しんだオープンスタンスに戻したのだ。

「実はそこも紆余曲折があるんです。昨シーズンのツアー開幕前(2月)、『右に行くミスが嫌でつかまる球を打ちたいんです』と所属ゴルフ場(高牧CC)のプロに相談したら、『軌道をインアウトに変えたらどう?』と言われ、すぐに取り組みました。改造はうまくいったかに思えたんですが、ある時からシャンクが止まらなくなって…。そこで『自分が打ちやすいスイングって何だろう』と改めて考えた時に、『私はやっぱりオープンスタンスだよね』って。そこは母とも意気投合して、サントリーの週から足をオープンにして構えてみたんです。すると不思議なことにシャンクが止まったんですよ(軌道はインアウトのまま)」

開いた足に対してボール位置と手の位置が重要と勝はいう(写真は2023ダイキンオーキッドレディス)(撮影/服部謙二郎)

スタンスと軌道の関係が複雑になってきたので、ここで一度、勝の「スタンス×スイング軌道」をおさらいしておきたい。

~勝みなみのスタンス×スイング軌道HISTORY(あくまでざっくり)~

・6歳~高校1年=オープンスタンス×アウトイン軌道
・高校1年~22年2月=スクエアスタンス×アウトイン軌道
・22年2月~6月=スクエアスタンス×インアウト軌道
・22年6月~現在= オープンスタンス×インアウト軌道

新シーズンは「オープンスタンス×インアウト」の精度を高める

アメリカ挑戦に向けてスイングをよりブラッシュアップ(撮影/石井操)

「オープンスタンス×インアウト」に出会って以降、勝はスイングに迷いがなくなり、徐々に成績も上がってきた。その先の日本女子オープンでの圧勝劇は今も記憶に新しい。それでも勝は「女子オープンのときのスイングは理想の70%」と自己分析し、現在は理想に近づけるべく調整を行っている段階だ。

「新しいスイングが型にハマって、意識せずできるようになっています。その精度をもっと上げるために、今年のオフはボール位置や構えた時の手の位置などを微調整して、自分に合うポジションを探してきました。いい時って無意識にいいポジションにボールを置けますよね。そのボール位置を『ここ!』と把握しておけば、悪くなった時に『あ、ここだったよな』と戻ってこられるんです」

勝は「基本的には球を右に置きたいタイプ」で、今はその“右に置く度合い”を探しているという。ただし「ボール位置が良くても手の位置が悪いといい球は出ないので、両方の位置のバランスが重要になってくるんです」と付け加える。

聞けば彼女はトラックマンなどの測定器を持っておらず、クラブの試打などで使うことがあっても、データなどは一切気にしないとか。そうした測定器がなくても、ボール位置や手の位置を調整することで、適正な入射角やクラブパス、フェース向きなどを感覚で探っているのだろう。

「ハマった感覚」を大事にしている

まさにハマったインパクト後(撮影/服部謙二郎)

そんな彼女がスイングで大事にしているというのが、「ハマる感覚」だという。

「ハマるスイングがいちばん良くて、いい時はインパクトの手前とインパクトの瞬間に『ハマった感覚』になります。そんな時は球をとらえた瞬間、すごく気持ちいい。悪い時は、なんならバックスイングの時点で『あ、ダメだ』と分かります。今はその自分がやりたいハマるスイングを100%にするために頑張っていて、そのためには打ち方だけでなく、体がちゃんと動くかどうかも大事。体のいろんな筋肉を使わないと理想のスイングがやり切れないのもわかっているんです」

実際、このオフは、しっかりとトレーニングをこなしてきたという。

「今までは大きい筋肉ばかりを鍛えて、体を動かせるようにしてきました。でも、(ハマるなど)そうした微妙な動きは、大きい筋肉の中にある小さい筋肉を動かしておかないとできない。そのために、おもりを付けて片足で立つなどバランス系のトレーニングをやっていて、少しずつ感覚を狂わせながら小さい筋肉に刺激を与えています」

出球は右へ。ドローボールで攻める(撮影/服部謙二郎)

渡米を控えた今の状態で、スイングは「(理想の)80%まできました」と話す一方で、「でも、試合でやってみないとわからない。試合の緊張感で、このスイングとこの構えでどうなるかというのは、試合でしか感じられません。ですから日本の3試合でいろいろ試しながら、探っていきたいです」と自分に向き合う姿勢は常に変わらない。

「もっといいスイングがあるのでは、自分に合う納得のいくスイングが見つけられるのでは、と思っていつもやっています。いつ納得できるのって感じですけど、究極を求めていきたい」。勝は、じっと前を見据えて語った。

彼女の米ツアーは3月23日から行われる「LPGAドライブオン選手権」(アリゾナ)でスタート。まだ足りない20%を求めて、勝はさらに走り続ける。

「オープンスタンス×インアウト軌道」のスイングをもう一度ご覧ください

スタンスは左のバンカー方向を向いている(撮影/服部謙二郎)
クラブは少しインサイドに上がる(撮影/服部謙二郎)
少しクロス気味のトップ(撮影/服部謙二郎)
下半身リードで切り返し(撮影/服部謙二郎)
ハマった瞬間(撮影/服部謙二郎)
球は右へクラブは左へ(撮影/服部謙二郎)
タテに振りぬく(撮影/服部謙二郎)
最後まで振り切ったフィニッシュ(撮影/服部謙二郎)

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