【厚労省_医薬品販売制度検討会】濫用のおそれのある医薬品を議論/購入者情報と販売情報の紐付け課題に

【2023.03.08配信】厚生労働省は3月8日、「第2回 医薬品販売制度に関する検討会」を開催し、濫用のおそれのある医薬品について議論した。この中で事務局は、電子版お薬手帳の利用等、購入者情報と販売情報の紐付けも課題として挙げた。

嶋根参考人、市販薬の乱用防止で薬局は「声掛け」や「支援団体との連携」など踏み込んだ対応を

同日は嶋根卓也氏(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部 心理社会研究室長)が、市販薬乱用の実態と課題について説明した。

嶋根氏は、コロナ禍で市販薬の過量服薬による救急搬送が2倍になっているとの報道や、市販薬を主たる薬物とする依存症患者が急増し、2012年から2020年にかけて約6倍に増加している現状なども挙げた。
乱用の対象となっている市販薬の例としては、鎮咳去痰薬(咳止め)、総合感冒薬(風邪薬)、解熱鎮痛薬(痛み止め)、鎮静薬、抗アレルギー薬、眠気防止薬(カフェイン製剤)ーーなどだという。

「過去1年以内に市販薬の乱用経験がある」という高校生は約60人に1人の割合(高校生全体の1.57%、推計値)とのデータも紹介した。
全国の高校生における違法薬物および市販薬乱用の経験率(過去1年間)は、大麻の使用率の約10倍という。

市販薬の乱用経験のある高校生の特徴 (乱用経験のない高校生との比較)として、社会的孤立という共通項があるともした。

今後、検討が必要な課題として、乱用の実態と規制対象とのズレを指摘し、デキストロメトルファンについては日本国内の精神科医療施設を対象とする全国調査において数多くの依存症患者が報告されていることを指摘。ジフェンヒドラミンもレクリエーション用量では気分やエネルギーレベルを上昇させ、幻覚作用、鎮静効果を感じるとともに、オピオイドの効果を増強すると説明。大量服用では、さまざまな中枢症状および末梢症状が引き起こされ、日本国内でも若年者を中心に、ジフェンヒドラミンの大量服用による急性中毒症例が報告されているほか、死亡事例があることに注意が必要とした。
嶋根氏は日本の市販薬の特徴として、欧米に比較して含有成分が多く(総合感冒薬では7~8成分)、隠し成分との相互作用についても注意が必要だとした。

また、嶋根氏は薬剤師・登録販売者のゲートキーパー化に期待。「薬の飲み方で困っていることはありませんか?」などの声掛けや「依存症から回復する方法がありますよ」といった情報提供、メンタルヘルス(心の健康)の支援ができるドラッグストア・薬局の役割向上にも期待を示した。薬物問題の専門的支援につなぐ役割なども期待した。
予防教育については学習要領の改編が使用実態のスピードに追い付いていけない状況にあることから、授業だけでなく、薬物乱用防止教室における市販薬に関する内容拡充や学校薬剤師向けの教材拡充が必要ではないかと指摘した。

日薬「対面の声掛けで乱用の抑止効果があったという研究調査も」

こうした課題が挙がる中、事務局は濫用等のおそれのある医薬品の販売について、①医薬品の販売方法(陳列場所、購入者の本人確認・状態の確認、情報提供・販売記録 等)、②意図的な複数購入を防止するための、購入者情報と販売情報の紐付け(電子版お薬手帳の利用等)、③販売ルールの事業者への徹底、④大容量の製品の濫用防止や対象製品の把握等のための包装単位や製品表示 等ーーを論点として示した。

ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏は、ネットの販売などにおいて規制が必要ではないかとの考えを示し、例としてマイナンバーによる購入履歴取得などを提案した。さらに依存性のある成分を含む医薬品については、健康サポート薬局など、要件を満たした薬局でしか買えなくすることも1つの案ではないかとした。

日本薬剤師会副会長の森昌平氏は、薬剤師会として医師会と協力しながら薬物乱用防止活動に取り組んでいることを紹介した上で、ファーストアクセス機能を持ち、医薬品の販売も行い、専門家がいて対面で対応できるという薬局の機能を生かして取り組んでいきたいとの考えを示した。ゲートキーパーとして取り組んでいくことにも使命があるとの考えを示した上で、「いつも接している患者さんだから変化に気づくこともある。対面の薬局だからこそのこともあると感じている」と述べた。ネット販売の問題については、「(濫用のおそれのある)同一製品は複数購入できないシステムを工夫していることになっているが、調査などをみると、どうもそうなっていないところもあるようだ。また、品目を変えると購入できてしまう。店舗を回ることに比べると、WEB上では容易に購入できるといえるのではないか」と指摘。「厚労科研で対面の声掛けで抑止効果があったという結果もあった。個人的には濫用のおそれのある医薬品はネット販売にはなじまないと思っている」と述べた。

落合孝文弁護士(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業)は、場合によっては規制の強化は重要との考えを示した上で、「ネットと対面、どちらも同様にすることが重要」であることを強調した。さらに、「欧米をみても(濫用の恐れのある医薬品のネット販売を)一律禁止という国はないと思う」とも指摘した。マイナンバーカードの活用については「1つの方策」と可能性は認めつつも「そこまでいければ」として、活用には時間もかかるニュアンスを残した。ただ、マイナンバーの活用の途は広がってきているとした。加えて、医療用とOTC医薬品の用量の違いも挙げ、用量、ひいては包装単位なども考慮する必要性に触れた。

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