野尻&平川が漏らす“不安”と、共通して挙げるライバル。オーバーステア傾向のSF23と新タイヤが勢力図に影響か

 2022シーズンは、ともにシーズン2勝を挙げる活躍を見せ、最終大会までチャンピオン争いを繰り広げた野尻智紀(TEAM MUGEN)と平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)。鈴鹿サーキットでの公式合同テストを終えたふたりに話を聞くと、今シーズンから新たに導入されるSF23と、原材料の33%にサステナブル素材を使用した新スペックタイヤの理解には、少し苦しんでいる様子が見てとれた。

■王者野尻は「久々のスピン」に落胆

 今年は3年連続チャンピオンという偉業に挑戦する野尻。テスト1日目には1分35秒955でトップタイムとなったのだが、全体的に苦戦している印象だった。それを象徴したのが、2日目午後のセッション4だ。後半に入ってロングランのテストを行なっていたところ、逆バンクで挙動を乱しコースオフ。スポンジバリアにヒットしてしまい、赤旗中断の原因を作った。

「最初、リヤ(のグリップ)が抜けて、カウンターステアを当てたら、軽くハイサイドみたいな形になって、路面の埃っぽい方にいってしまって、止まれなくなりました」と野尻。

 幸いクラッシュ時の衝撃は非常に小さく、ダメージを受けたのはフロントのノーズコーンのみ。「(ダメージが少なくて)『セーフ!』って感じですかね? いや、(ぶつかっているから)セーフじゃないですね。でも、大事には至らなくて、その後も(修復が間に合って)ちょっと走れたので、良かったです」と苦笑いをみせていた。

コースアウトにより赤旗原因となった野尻智紀(TEAM MUGEN)

 テスト1日目を終えた後も手応えをつかめていない様子だったが、2日目の走行を終えても改善の糸口は見つからない様子。「(SF23を)知れば知るほど不安が大きくなっていきます。本当に大変ですね」と、本音を漏らしていた。

 悩みのタネは、新空力パッケージになって、リヤのグリップが少なく、比較的オーバーステア傾向のマシンになっているということ。野尻はもともとアンダーステア傾向のクルマを好んでいるため、それが難しさを助長させている部分なのかもしれない。

 4月の開幕大会は富士スピードウェイが舞台となり、コースの特徴も変わってくる。野尻は「行ってみないと分からないところがありますが……今日の感じで走りたくない、という感じですね。『(富士の)セクター3で、リヤ(のグリップを)どうしようか?』みたいな感じでした」と冷静に分析する。

 テスト1日目に唯一の1分35秒台を記録したことについても「あれも、たまたまダウンフォースが出てくれたという感覚です」と野尻は説明する。

「そこでいうと(小林)可夢偉選手はいつでも(リザルトの)上の方にいるかなという感じでしたし、山本(尚貴)選手もそうですね。ロングに関しても、山本選手が速くて、彼がちょっと(ペースが)落ちてきた時に、僕が同じところに来られたかなという気はしたのですけど……まだまだ足りないなと感じています」

「自分が感じているネガティブな動きが修正されれば、良いところはいくだろうなと思っています。ただ、そのやり方が分からないという感じです」と、課題は山積みの様子だ。

 さらに、今年から新しく導入されるサステナブル素材を活用したタイヤの特性の扱い方も、頭を抱える状態になっている要因のひとつだという。

「タイヤも柔らかい印象があるので難しそうです。今のクルマの難しさに拍車をかけるようなところはあるのかなと思います」

「そもそもタイヤの剛性がすごく落ちる印象があって、ニュータイヤでも鈴鹿で言うと後半セクションはだいぶ剛性感が失われている印象。それによってグリップダウンが起きている感じです。タイヤのゴムがどうという話ではなく、構造自体の部分で感覚がかなり違っている印象です。美味しいところが1周続かなくて、タイヤでロールしてしまうような状況です」

 昨シーズンもフリー走行の走り出しでつまずくことがあった野尻だが、TEAM MUGENとともに短時間で改善し、予選・決勝では安定したパフォーマンスを発揮してきた。その“対応力”が今年も期待されるが、当の本人は「スピンしちゃったので。久々のスピンでしたからね……」と、いつになく落胆気味だった。

野尻智紀(TEAM MUGEN) 2023スーパーフォーミュラ公式合同テスト鈴鹿

■「昨年とは逆になってしまった」平川の得意/不得意

 2022シーズンは2勝を挙げてドライバーズランキング3位となった平川。テスト2日目となった3月7日は29歳の誕生日ということで、チームがサプライズでケーキを用意し、ピット裏でお祝いする光景も見られた。

「今年の抱負は、健康に過ごすこと。あと、今年29歳になって、計算上では人生の半分はレースをやっているということになります。加えて、世界で戦える環境をもらえて、そこに感謝しつつ、引き続き世界の舞台でチャレンジしていきたいです。日本ではスーパーフォーミュラのチャンピオンが獲れていないので、気をさらに引き締めて、今年は獲れるように頑張りたいです」と平川。

 気になるSF23の感触については、想定していたほどの手応えは得られなかったようだ。

「想定していたより、あまり分からなかったというのが大きな印象です。限られた時間というのはみんな一緒ですが、その中でメニューを考えて、優先事項を決めてやりましたけど、なかなか想定していたところに行かなかったです」

「最後はその中でまとめた形(セッション4で1分36秒632を記録)ではありますけど、ネガティブではなくて、まだ良くなっていきそうな兆しはあります。次は富士でのレースになるので、そこに向けてしっかりと合わせていかないといけないかなと思います」

 SF23の特性ついて聞いてみると、「(SF19と比べて)ガラッと違うわけではないです。同じモノコックなのでそんなに変わらないところもありますが、SF23をうまく使おうと思うと、もうちょっと違うコンセプトを考えてやらないといけない印象ですね。それよりも違いを感じているのはタイヤです」と平川。

「新しいタイヤの使い方という意味で、2日目はいろいろとやったのですけど、思ったよりタイヤ(のグリップ)が減っていって、昨年まで良かったレースでの強さが、今のところ出なさそうなので、かなり不安です」

「2日目もロングランのテストをやろうとしたら赤旗が出たり、僕が飛び出したりしてしまったので、3周とか4周しか(連続周回が)できなかったです」と、テストでも試行錯誤はしたようだが、良い答えに辿り着かなかった様子だ。

平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL) 2023スーパーフォーミュラ公式合同テスト鈴鹿

 本人も言うように、平川といえばここ数シーズン決勝でのレースペースに定評があり、昨年優勝したふたつのレースも、安定したペースを武器に逆転でトップチェッカーを受けている。

 今年もその傾向が続くかと思われたが、新パッケージになったことで流れも変わっているようだ。

「予選に関しては、すごく感触は良いかなと思っています。ニュータイヤを履いてショートランも安定して上の方にいられているのかなと思うので、そこは非常にポジティブです」

「ただ、レースの方はどちらかと言うと不安で、昨年とは逆になっちゃいました。他のチームとか見ていても、特に山本選手のロングランがすごく速かったですね。1分40秒台で周回していて、その領域は全然見えないです。なにか見つけなきゃいけないことはあるなと感じています」

 今年のスーパーフォーミュラは開幕前のテストが鈴鹿での2日間のみで、あとは富士スピードウェイでの開幕大会で行われるフリー走行が、予選前に走行ができる唯一の機会となる。

 そこについて平川は「(予選前のフリー走行は)90分しかないので、多分あっという間に終わってしまうと思います。そこでしっかりと合わせないと、富士は2レースあるので、(シーズンを考えると)かなり重要になります。やはり持ち込みのセットは非常に重要になってくると思います」と分析している。

「どうなるか分かりませんが、いろいろと想定してやるしかないです。今回も富士を想定して走ったりしたので、それらを踏まえて持ち込みのセットを決めないといけないなと思っています」と、手探り状態でシーズンスタートを切らなければいけない中でもベストを尽くすと、腹を括っている様子が垣間見えた。

平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL) 2023スーパーフォーミュラ公式合同テスト鈴鹿

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