「岸田首相、なぜ日本では同性婚できないの?」LGBTQの子供らが手紙 SNSで広がる切実な思い

 東京都のaiさん、真里さんの小3の娘がイラストを交えて書いた岸田首相宛ての手紙(家族提供)

 全国で子育てをしているLGBTQなど性的少数者の家族らでつくる団体「にじいろかぞく」が、多様な家族の在り方を知ってほしいと、岸田文雄首相宛てに手紙を書くプロジェクトを始めた。岸田首相が同性婚の法制化を巡り「社会が変わってしまう」と述べたことや、元首相秘書官による差別発言がきっかけ。「日本ではなぜ同性婚ができないの」。テレビを見ていた当事者の子どもが抱いた素朴な疑問から始まったプロジェクトは、交流サイト(SNS)でも広がりを見せている。手紙の一部は国会でも読み上げられた。(共同通信=小川美沙)

 ▽日本は分かってくれない

 東京都のaiさん、真里さんの小1の娘が書いた岸田首相宛ての手紙(家族提供)

 「わたしの学校のともだちはママが2人のことをわかってくれるのに、日本はなぜわかってくれないんですか。子どもにもわかるようにおしえてください」。東京都のaiさん(42)、真里さん(36)=仮名=の同性カップルの次女は、はがきいっぱいに思いをぶつけた。小3の長女は家族全員が笑顔を浮かべたイラストをカラフルに描き、別の1枚にはこう書いた。「ママがふたりの家だけど、わたしもしあわせだし、ねこも犬もしあわせそうにいつもねてるし、ごはんもばくばく食べてます」

 東京都のaiさん、真里さんの小3の娘が書いた岸田首相宛ての手紙(家族提供)

 aiさん、真里さんは精子提供を受け、娘をそれぞれ出産した。何度も話し合って悩んだ末、娘の友達や教員にも「母2人」の関係を伝えている。地域で家族として築いてきた当たり前の暮らしがあるのに、同性婚は法律で認められない。娘たちは、政権中枢から差別発言を向けられる理不尽さを感じ取っていた。はがきを見て、aiさんと真里さんは涙が止まらなかった。2人は「首相は子どもたちが納得できるよう疑問に答えてほしい」と話した。

 5月に先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開かれるが、G7の中で同性婚や、国レベルのパートナーシップ制度がないのは日本だけ。万が一お互いに何かあったら娘の養育や財産問題はどうなるのか…。不安は尽きない。aiさんは「私たちをいないことにしないでほしい。国際的な遅れが注目され、困っている人の声を聞く政治へと変わる『始まり』にしてほしい」と訴える。

 東京都に住むaiさん(左)と真里さん

 ▽おまけみたいにせんといて
 大阪府の春花さん(41)、陽子さん(42)=いずれも仮名=カップルの中1と小1の息子2人も手紙を書いた。息子はいずれも春花さんの前夫との子どもで、数年前に知り合った陽子さんとすぐに打ち解けた。野球やキャンプを楽しみ、みんなで食卓を囲む時間を大切にしている。

 大阪府の春花さん、陽子さんの小1の息子が書いた岸田首相宛ての手紙(家族提供)

 手紙を書く前に、家族で同性婚について話し合った。次男は法律上の家族でないことを知り、「(陽子さんの存在を)『おまけ』みたいにせんといて」とショックを受けた。はがきには「生んでないほうのお母さんもぼくのお母さんです。かぞくにいれてください」と記していた。長男は陽子さんに直接、「『おまけ』やって思ってへんで」と言ってくれた。

 春花さんの60代の母も、便箋3枚に丁寧な字で思いをつづった。「人間は性別問わず平等です。価値観や家族観は皆それぞれ変わり続けています。幸せになりたい人たちを応援してください」。岸田首相と同世代の母は、以前から春花さんらの関係を受け入れてはいたが、初めて思いを知った。

 大阪府に住む春花さん(右)と陽子さん

 ▽社会はもう変わっている
 にじいろかぞくの共同代表の小野春さんによると、プロジェクトは自然発生的に始まった。「#岸田総理に手紙を書こう」のハッシュタグ(検索目印)をSNS上で付け、メンバーや子どもたち、「アライ(ally)」と呼ばれる理解者や支援者などに広がっている。手紙を書くことで「家族や大切な人との関係を改めて見つめる機会になった」と話す参加者もいるという。小野さんは「社会はもう変わっている。手紙を読み、実態を知ってほしい」と訴える。

 「#岸田総理に手紙を書こう!プロジェクト」のイラスト(にじいろかぞく提供)

 性的少数者に対する元首相秘書官の差別発言を受け、岸田首相は2月17日、支援団体の関係者と面会した。子どもらの手紙は「プライドハウス東京」代表の松中権さんに託され、岸田首相に手渡された。

 松中さんは取材に対し「子どもたちの思いはシンプルで切実だ。当事者である子も、当事者が育てている子も、現にこの社会を生きている。未来を担う子どもたちの声に、政治はどう向き合っていくのか」と投げかけた。

 ▽真の意味で議論進めて
 LGBTQ当事者の石川大我参院議員は3月6日、参院予算委員会で手紙の一部を紹介した。子どもたちにどう答えるのかを問われた岸田首相は「手紙を書いてくれた皆さんの思いを読ませていただき、受け止めさせていただきます。みんなで議論を進め、みんなで結論を出していましょう」などと述べた。

 自分たちの手紙が読み上げられるのを録画で見た東京都のaiさんと真里さんの娘たちは、岸田首相の答弁に真剣に耳を傾けていたという。真里さんは「首相は時代や社会の流れを見て、自身でも述べた通り、真の意味での議論をどんどん進めてほしい」と話した。

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