楽観視は危険!? WBC世界一奪還へ、侍ジャパンが「一つも負けられない」理由 MLB精鋭軍団2カ国に勝つ道筋とは

ついに開幕を迎えたワールド・ベースボール・クラシック。ダルビッシュ有、大谷翔平、村上宗隆らを擁し、“史上最強”とも謳われる侍ジャパンがどのような戦いを繰り広げてくれるのか期待が高まっている。ただし、東京五輪王者とはいえ、1次リーグから気の抜けない戦いが続くことを忘れてはないらない。世界一奪還のために侍ジャパンが「一つも負けられない」理由とは?

(文=花田雪、写真=Getty Images)

選手の顔ぶれだけを見れば、日本は1位突破の最右翼

3月8日に開幕した第5回ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)。大会前から日本代表=侍ジャパンへの期待値は過去最高レベルといっていい。ダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)といったメジャーリーグを代表するスター選手をそろえ、NPB組からも昨季56本塁打を放って史上最年少三冠王に輝いた村上宗隆(東京ヤクルトスワローズ)、2年連続投手五冠を達成している山本由伸(オリックス・バファローズ)らが参加。「史上最強」の呼び声とともに、3大会ぶりとなる世界一奪還への期待が高まっている。

とはいえ、大会の顔ぶれ、レギュレーションを見ると世界一への道のりは思いのほか険しい。特に今大会のシステムは過去と比較しても「1敗」することのダメージが大きくなる。

まずは、中国、韓国、チェコ共和国、オーストラリアと同組となった1次ラウンド・プールBを考えてみよう。選手の顔ぶれだけを見れば、侍ジャパンは1位突破の最右翼だ。それは間違いない。最大のライバルと目される韓国にはキム・ハソン(パドレス)、トミー・エドマン(セントルイス・カージナルス)というメジャーを代表する二遊間コンビがいるが、特に投手陣の層の厚さでいえば日本が一枚も二枚も上だろう。

2004年アテネ五輪で日本を破り銀メダルに輝いたオーストラリアは元中日のディンゴことデービッド・ニルソンが指揮を執るが、メンバーにメジャーリーガーは不在でマイナーリーグと自国リーグの選手だけで構成されている。

中国、チェコ共和国も近年レベルアップが著しい国ではあるが、選手層、選手個々の実力には日本と大きな差がある。

準々決勝に進出するためのボーダーラインは…

世界一を目指すうえで1次ラウンドは「全勝で1位突破」といきたいところだが、油断できないのが参加5カ国中、準々決勝に進出できるのが2カ国しかないという点だ。

5カ国総当たりのリーグ戦で2位以内に入るためには、4勝1敗がボーダーラインになる。ただし、勝率で並んだ場合は当該チーム同士の勝敗で順位が決まるため、もし一つでも負けた場合は他国の結果次第で敗退する可能性もあるのだ。

特に第1戦の中国戦、第2戦の韓国戦など大会序盤で黒星を喫しようものなら、一転して「次、負けたら即敗退」の危機に直面することになる。

「負けたら即敗退」のレギュレーションは1次ラウンドを通過しても同じことがいえる。過去4大会は決勝トーナメントが準決勝からだったのに対し、今大会は準々決勝から。世界一をつかむためには「一発勝負」の試合に3連勝しなければならない。

つまり1次ラウンドの4試合、そして決勝トーナメントの3試合、すべてが「負けられない試合」になるのだ。

日本は過去、大会を通して「無敗」を貫いたことは一度もない

過去のWBCにおける日本の勝敗は以下の通りだ。

第1回大会(2006年) 5勝3敗(優勝)
第2回大会(2009年) 6勝2敗(優勝)
第3回大会(2013年) 5勝2敗(ベスト4)
第4回大会(2017年) 6勝1敗(ベスト4)

4大会連続ベスト4以上という抜群の安定感を誇る日本でも、大会を通して「無敗」を貫いたことは一度もない。国際試合で「負けない」ことはそれだけ難しい。

そもそも野球というスポーツは「強いチームが勝つ」とは限らないゲーム性に富んだ競技だ。陸上競技や競泳のようにタイムや距離といった「選手の実力がそのまま反映される数字」を争うわけでもなければ、ほとんどの球技のように1点ずつ得点を積み重ねていくものでもない。150メートル級のホームランを放っても1点しか入らないこともあれば、打ち損じのポテンヒットで2点が入るケースもある。それが野球というスポーツの醍醐味であり、魅力でもある。

野球で「勝ち続ける」ことの難しさは、世界最高峰のリーグであるメジャーリーグや日本のプロ野球で優勝チームの勝率が5割台、高くて6割台であることからも明らかだ。どんなに強いチームでも10試合戦えば平均して4~5試合は負ける。それが、野球だ。

加えて、日本は歴史的に見て「初物の投手」に弱い。初対戦の相手投手を打ちあぐね、試合がロースコアの展開になれば、何が起こるかわからないのも「野球」の怖さだ。

準決勝以降の対戦国は同格かそれ以上が予想される

と、ここまで日本の世界一奪還へ水を差すようなデータばかり並べてしまったが、準々決勝までしっかりと勝ち抜き、アメリカで行われる準決勝に進出することができれば、この理論は逆転する。

1次ラウンド、準々決勝までは戦力的には「格下」と見られる国と対戦するのに対して、準決勝以降の対戦が予想されるアメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコといった国々はみな日本と同格かそれ以上だ。

特にアメリカ、ドミニカ共和国はメジャーリーグのスター選手を擁するオールスター軍団。ちなみに海外のブックメーカーでWBCの優勝オッズを見ると、ドミニカ共和国がほぼすべてで一番人気。日本とアメリカが二番人気、三番人気を分け合うような構図になっている。

準決勝、決勝の2試合を「格上」のスター軍団と戦うことになった場合、日本のアドバンテージとなりそうなのがその「投手力」だ。ダルビッシュ、大谷の2投手がすでにメジャーで一線級なのは間違いないが、例えば山本由伸の独特の投球フォーム、そこから繰り出される剛速球と多彩な変化球はメジャーリーガーでも手を焼くだろうし、佐々木朗希(千葉ロッテマリーンズ)の160キロ超えの速球と落差の大きなスプリットはダルビッシュをして「(メジャーリーガーでも)打てない」と言わしめるほど。もちろん、彼ら以外の投手陣も高いクオリティを持ち、なんといってもメジャーリーガーたちにとってはそのほとんどが「初見=データがほぼない」のも大きい。

大会序盤を乗り越えれば、そこからは一転、楽しみな戦い

現在、メジャーリーグでは全球場にホークアイと呼ばれるデータ解析システムが導入されており、全投手の投球、全打者の打球が事細かにデータ化され、共有されている。

データを見ることに慣れたメジャーリーガーたちに、「データがない」日本の一流投手がどんな投球を見せるのか――。実際に前回大会の準決勝で日本はアメリカに1対2で敗れはしたものの、菅野智之(読売ジャイアンツ)、千賀滉大(福岡ソフトバンクホークス/現ニューヨーク・メッツ)といった投手陣がメジャーリーガーを相手に快投劇を見せている。

今大会のレギュレーション変更が「一つも負けられない」厳しい戦いを演出することになるのは間違いない。ただその一方、大会序盤を乗り越えれば楽しみな戦いも待っている。

まずは準々決勝突破、その先のアメリカラウンド進出へ――。

侍ジャパンの戦いに、期待したい。

<了>

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