政策にもパーパスを パーパスのある経済を加速させるスコットランドとカナダ政府の取り組み

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経済・社会・環境に関するさまざまな指標が悪化する中、社会的パーパスのある企業の台頭は一つの希望でもある。しかし、それでも2030年までに90億人がより良く生きるために必要なスピードにはほど遠い。人類は現在のビジネスの在り方を実現するのに100年かかったが、それを変革するのにもう100年費やす余裕はない。いま必要なのは、政府のあらゆるレベルでパーパスのある経済「パーパスエコノミー」を加速させていくことだ。カナダのサステナビリティ・コンサルタントで、政府の諮問委員会の構成員を務めた経験もあるコロ・ストランドバーグ氏のコラムを紹介する。

ストランドバーグ氏 Image credit : Coro Strandberg

コロ・ストランドバーグ(CORO STRANDBERG)
PRESIDENT
STRANDBERG CONSULTING

パーパスエコノミーとは、すべての人の長期的なウェルビーイングを追求すると同時に、企業や規制・金融システムが公正で繁栄し、回復力のある未来を促進することで実現される経済のことをいう。その実現の鍵を握るのは政府だ。

一部の国ではすでにパーパスエコノミーを加速する取り組みが始まっている。例えば、スコットランド政府はビジネス・パーパス委員会(Business Purpose Commission)を立ち上げている。同委員会は、スコットランドがパーパスを掲げる企業の成長を支援する国として認知されるためにどうあるべきかを提言する。委員会がまとめた提言書に対し、公正な移行・雇用・労働担当大臣のリチャード・ロックヘッド氏は、スコットランド政府が人や地球の課題を解決するパーパスのある企業のグローバルハブになろうと努めており、ビジネス・パーパス委員会が経済の発展・転換を目指す政府の取り組みの一環であるとの見解を公式発表している。

一方、カナダのブリティッシュコロンビア州のバーナビー市とバンクーバー市は2年連続でキャンペーン「パーパス・イン・ビジネス・ウィーク」を宣言し、社会的パーパスのあるビジネスを支援する方針を示した。両市は社会的パーパスを実行する企業のハブとなり、管轄区域の企業に社会的パーパスを促進するべく非営利組織「United Way British Columbia Social Purpose Institute」(以下、UWBC)と連携する。

ブリティッシュコロンビア州の雇用・経済回復・イノベーション担当大臣を務めていたラビ・カーロン氏は「パーパスエコノミーは、インクルーシブで持続可能な成長を生み出すための鍵だ」とし、社会的パーパスを掲げ実行する企業を支援する方針を表明した。

カナダ政府も積極的な姿勢をみせている。社会的パーパスの拡大を支援するために、「世界で最も持続可能な企業100社(グローバル100)」の発表を行うカナダのメディア・投資調査会社コーポレイト・ナイツに委託し、社会的パーパスを遂行する34社の「ソーシャル・パーパス・カンパニー」の格付けを行った。

さらに、カナダ政府は、社会的パーパスを導入し実行する国内の企業・起業家を支援し奨励するために必要となる国・州・市町村の行政機関の改革・政策措置についてまとめた報告書『カナダの公共政策におけるパーパスの促進――企業の社会的パーパスを加速させるための政府の選択肢』をUWBCに委託し、公表している。(報告書の執筆者は本コラム著者のストランドバーグ氏)

約250ある提言の1つには「カナダ事業会社法」の改正がある。企業に対しパーパスの宣言と取り組みの進捗を開示するよう求めるものだ。

この提言に関して、カナダ・マギル大学法学部の法学者であるリチャード・ジャンダ氏とイセオルワ・アキトゥンデ氏がデヴィッド・スズキ財団の支援を受け、報告書『企業のパーパスを主流化するーー連邦法の方向性』を発表している。報告書にはこう書かれている。

「企業は社会・環境に関する目標をふまえたパーパスを掲げるべきという考えはもはや学会に限られるものではない。現在では、役員室や年次株主総会でも活発に議論されていることだ。さらに、議論も『なぜパーパスを宣言することが必要か』というものから、『どうすればパーパスを実行でき、主流化できるか』へと移行している。この報告書は、企業のパーパスに対する国民の関心を高め、事業会社法の改正によってさらに強固な法律上の足場を確立することに賛同し、議論を行うものだ」

報告書は、社会的パーパスの採用に関し「コンプライ・オア・エクスプレイン」(遵守せよ、さもなくば、説明せよ)の原則を課し、取締役会によるパーパスの表明の義務付けと、会社の最大の利益を考慮した上でパーパスを追求するよう取締役会に求める取締役の信任義務の変更を要する法律改正を求めている。執筆者らは、こうした法律の改正について「パーパスを掲げ実践する企業がカナダ経済にしっかり根差していく上で必要となるより広範な統治体制を構成するためのもの」と主張する。

よく言われることだが、想像できることは実現できる。人や地球に恩恵をもたらすパーパスエコノミーは実現に向けて進んでいる。しかし目標を達成するには、「パーパス」をビジネスの新たな規範として定着させるための大規模な政策改革が必要になる。これは企業や政府にとってもメリットがあることだ。カーロン氏は、社会的パーパスのある企業は「より強くより回復力のある経済を生み出し、イノベーションと成長を加速し、意義のある仕事を生み出し、人材と資本を引き付け、維持できる」と説明している。さらに、そのような企業はビジネスにおける公正性、調和、持続可能性を促進し、公共の利益のために企業の資源や資産を投じるなど政府目標の達成も後押しする。

政府のリーダーシップによって社会における企業の役割を再定義し、必要とする経済を実現していきたい。[^undefined]

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