「未来を、もてなす。」を掲げ、食を通じてサステナブルな未来を目指すパレスホテル

余ってしまったパンからアップサイクルされた「BAKERY BOX ~sustainable~」(写真提供:パレスホテル東京)

パレスホテル東京(東京・千代田)とZentis Osaka(大阪市・北)を運営するパレスホテルは、2012年のパレスホテル東京建て替えを機にサステナビリティへの取り組みを加速している。2021年にはサステナビリティコンセプト「未来を、もてなす。」を策定し「パレスホテルと社会の約束」と位置づけ、自然環境や社会と調和し、社員が共通意識をもって行動することを基本にしている。結婚披露宴でおかわり分を見越して多めに作ったものの提供機会がなかったパンや、抽出後の茶葉を活用したアップサイクルの取り組み、コンポストから他社との協働でイルミネーションを点灯するなど、同ホテルの取り組みを紹介する。(松島香織)

サステナビリティコンセプト「未来を、もてなす。」には3つの柱がある。利用客の安心・安全やダイバーシティなどに取り組む「人にやさしいおもてなし」、伝統文化・芸術の持続や災害復興などに貢献する「社会とつながるおもてなし」、CO2排出量削減や食品・資源ロス削減などを目指す「自然と生きるおもてなし」だ。「ホテルはお客様、スタッフともに人が財産。自然と調和し、社会の一員として当社は何ができるかをこの3つの柱の視点で考え取り組んでいる」とブランド戦略室コミュニケーションズ課マネジャーの塩原沙織氏は話す。

有機肥料「エコパレス」
結婚披露宴で使用した花を別のイベント等にも生かしている

同ホテルは1997年から生ごみの発酵処理や堆肥化(コンポスト)に取り組み、2001年には「エコパレス」として商品化し、特定の農家へ販売。その農家で収穫した米や果物をホテル内のレストランや従業員食堂で提供するという資源循環を実践している。また2021年から2022年にかけて従業員食堂で月に1回「ミートフリーマンデー」を開催し、大豆など植物由来のミートをメニューに出した。「調理に携わる会社として、サステナビリティを身近な食から考えている。社員にフードロスや環境問題を考えてもらうきっかけにすると同時に、お客様に提供できる商品開発につなげたい」(塩原氏)

コンセプトから具体的にサステナブルな商品開発につなげる

社員にはサステナビリティコンセプトについてのセッションを実施して「未来を、もてなす。」を説明した。また社内サイトで発信するなど、このサステナビリティコンセプトを自分事とするように促している。その結果、「自社で取り組んでいるサステナブルな取り組みを知っているか」を2021年5月に調査したところ、「1つ以上知っている」は25%であったが、その数カ月後の12月には73%に上昇した。

その後は、紅茶やハーブティーの抽出後の茶葉やコーヒー豆を再利用したカクテルのシロップを作るなど、社員が自発的にサステナブルな要素を取り入れた商品開発をするようになったという。「コンセプトがあるだけでなく、具体的なアクションが伴わないといけない。自然と社員の発想が変わっていくことを目指していた」と塩原氏は振り返る。

そうしたアップサイクルの考え方は、レストランのビュッフェや結婚披露宴で余剰が出てしまったパンにも生かされた。残ったパンを粉に加工して新たなパンに成形し直し、5種類のパンを詰め合わせた「BAKERY BOX ~sustainable~」を、3月1日からホテルのオンラインショップで販売している。アップサイクルであるという背景を理解してもらったうえで購入してもらいつつ、「お客様に美味しいとご満足いただける味を守り、商品自体が持続可能であるようにしたい」とホテルブランドのクオリティにもこだわっている。

コンポストを使ってクリスマスイルミネーションを点灯

クリスマスイルミネーション(写真提供:パレスホテル東京)

同ホテルは2021年暮にイルミネーション2,500個を点灯したクリスマスツリーを飾ったが、電力源はコンポストだった。それを実現させたのは、デザインコンサルタント等を手掛けるトライポッド・デザイン(東京・千代田)の「超小集電」という技術だ。「3ボルトの電気で40日間、24時間コンポストだけで点けた」と同社CEOの中川聰氏は説明する。

電力源のコンポスト(写真提供:パレスホテル東京)

超小集電は、土や水など自然から発生する微弱な電気を集めて電力とする技術だ。同社はパレスホテルのコンポストの取り組みを知っており、イベント会場として利用したことをきっかけに両社の協働に至った。同社にとっては商用環境では初めての試みであり、超小集電という技術を知ってもらういい機会になったという。

「超小集電は、風力や太陽光発電と違って気候や場所、時間を選ばない。例えば空港やショッピングモールでもたくさんのフードロスが出るから、コンポスト化して電力にすることは可能」と中川氏。また堆肥化の際に除去される貝殻や骨等に着目し、それらを焼成してできた絵具「コンポストカラー」を作ることを思いついた。この2月13日にパレスホテルにて開催したサステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内のプレナイトでは、コンポストカラーを使ったアート作品を展示。「ネガティブなイメージのごみからアーティストの手で新しい美しさを作ることができた」と満足げだ。

伊藤氏の作品「awai 淡」(左)と田村氏の作品「landscape」
徳永氏の作品「stratum_1」「stratum_2」

アーティストの田村久美子氏と伊藤咲穂氏は、コンポストカラーによる見事な土色のグラデーションで絵画を、徳永博子氏はアクリル板を使ってコンポストをアート作品にした。子どもの頃に土を使って絵を描いたり、遊んだりしたことを思い出し、ワクワクしたと口を揃えて話す。徳永氏は「コンポストカラーの耐久性が確保されれば、今後も材料として使用することができる。サステナビリティの形が技術的に可能になってきた」と手応えを感じている。[^undefined][^undefined][^undefined][^undefined][^undefined][^undefined]

© 株式会社博展