社説:マイナカード 拙速すぎる実質義務化

 任意であるマイナンバーカードの取得を、実質的に義務化しようとする強行策である。

 政府は、健康保険証を廃止し、同カードを使う「マイナ保険証」に統一するための関連法改正案を国会に提出した。

 来年秋からの実施を目指すとし、現行の保険証は経過措置として最長で1年しか使えなくなる。

 カードを持たない人には代わりの「資格確認書」を発行して保険診療を受けてもらう。カードはあるが保険証機能を持たせていない人も対象となる。有効期間ごとの更新手続きが必要で、患者の窓口負担は重くするという。

 事務効率化に向けてデジタル化を進める狙いとはいえ、医療サービスを「人質」に取得を迫るものだ。利便性や負担増、安全面への不安を置き去りにした乱暴なやり方ではないか。

 マイナ保険証は、全国どこでも過去の処方箋や受診歴を医療機関に提供できるメリットがあるとされる。一方で、個人情報の集約や流出への不安から、カードを持ちたくないという人もいる。

 医療機関でカードの読み取り機の設置は半数ほどしか進んでいない。不具合も多く報告されている。環境整備が追いつかず、現場の混乱も予想される。

 改正案では、マイナンバーに行政が把握している住民の口座をひも付けし、公金受取口座として登録する制度も設けるとした。対象者が拒否しなければ登録される仕組みで、年金受給者から始める。税の徴収や口座残高の把握に使われないかといった懸念もある。

 また、社会保障と税、災害対策に限られているマイナンバーの利用範囲を、国家資格の手続きにも広げることも盛り込まれた。

 法で規定された用途に「準ずる事務」で使う場合は法改正をせずに、政省令の見直しで対応できるようにもする。

 そうなると国会や有識者の十分な検討がないまま、なし崩し的に用途が拡大する恐れがある。

 カードの申請数は、ポイント付与効果もあって人口の約75%となった。自治体のカード普及率に応じて国が配る地方交付税の算定に差をつけるなど、政府のなりふり構わぬ普及策は、逆に国民の警戒心も招いている。

 政府はカードを介護保険証や運転免許証とも一体化させる方針だ。情報の流出や乱用の不安などデジタル化に伴う課題の解決策を丁寧に示し、懸案を払拭(ふっしょく)していくことが欠かせない。

© 株式会社京都新聞社