東日本大震災から12年 「きっかけ食堂」で紡ぐ東北との絆 “風化させない”思い続け…

被災地とつながる『きっかけ食堂』という取り組みが東京などで毎月11日に開催されています。「震災を風化させない」として取り組みを続ける女性の思いに迫ります。

東日本大震災が起きた日付である毎月「11日」に開かれている催しが『きっかけ食堂』です。東北の食材を使った料理を味わいながら被災地への思いを寄せる、月に1度の特別な時間です。食材の多くは東北の生産者から直接仕入れていて、2月の会では福島県相馬市で採れたアオサの天ぷらなどが振る舞われました。天ぷらを食べたお客は「おいしい。食べた瞬間はパリパリで、ちょっとかんだらアオサの軟らかい感じがふわふわ感じられた」などと感想を話しました。この日、接客を担当していたのは『きっかけ食堂』を立ち上げたメンバーの1人、京都府出身の原田奈実さん(28)です。原田さんは「東北というワードを元にみんなが交流して仲良くなっていたり、いい雰囲気だなと思う」と語りました。

普段、千代田区内の会社に勤めている原田さんがこのイベントを立ち上げるきっかけとなったのは10年以上前の、震災発生から1年がたった高校2年生の時までさかのぼります。原田さんは「ちょうど私生活でくじけてしまっていた時期だった」と振り返ります。

当時、盛んに言われていた「絆」という言葉に違和感があったという原田さんは「部活をやめてしまったり、海外留学を志していたがそれも挫折してしまって、学校に行く意味が分からなくなったり自分は何のために生きているのか分からなくなり、人間関係で悩んでいた。人と人との絆ってあるのかなって思っていた」といいます。そんな悩みを抱える中、転機が訪れます。それは、学校の取り組みの一環で被災地・宮城県石巻市を訪問したことでした。原田さんは「自分が想像していた以上に被害が大きく、目の前にがれきや、人が身に着けていた靴や茶わん、箸が散らばっている様子を見て衝撃を受けた」と語り、軽い気持ちで被災地を訪れたことへの後悔と無力感にさいなまれたといいます。

そんな彼女の気持ちを動かしたのは、被災した人たちの前向きな姿勢や温かさでした。原田さんは「今まで私はすごく小さなことで悩んでいた。東日本大震災は被害も大きく、大変なことがあった中で頑張っている人たちの姿を見て、私ももっと頑張らないといけないと思った」と振り返ります。そして、長期休暇のたびに被災地に足を運ぶようになる中、震災から3年が経過した頃、被災者からの言葉に再び強く心を動かされます。原田さんは当時を思い出し「被災地で『震災から3年もたつから、訪れる人も減っているね』っていう話をされて『忘れられているのかな。でも忘れられるのは悲しいね』みたいなことを聞いた。その話を聞いて、そんな悲しい思いはさせたくないと思った」と語りました。

「風化させない」──その思いで大学の同級生3人と立ち上げたのが『きっかけ食堂』です。原田さんは「東北に行かなくても東北を忘れない方法はないかと考えた。東北についてみんなで考えることができる場をつくりたいと思った」といいます。2014年5月に地元の京都で始めたきっかけ食堂は、今では東京や愛知など全国11カ所に広がり、運営スタッフもおよそ50人に増えました。

東北や震災のことを忘れてほしくないという強い思いで9年近く続いているきっかけ食堂で、参加者たちはそれぞれに東北との新たなきっかけを見つけています。食堂を訪れたお客の中には「(参加者が)意外と東北以外の人たちも多い。新しい人と触れ合えるのも一つのきっかけだと思うので、とてもいい」「福島の食材を使った料理を食べることで、自分の中で福島と直接つながりが持てた気がする。職場の人にも教えてあげたい」などと話す人もいました。

かつては「絆」の存在を信じられなかった原田さんですが、今ではきっかけ食堂を訪れた人たちの絆を育む存在となっています。原田さんは「東北のことを思い続けている人がいるんだよということを、自分が関わり続けること、行動で体現していけたら。思ってくれている人がいるんだということを感じてもらえたらうれしい」と話しています。

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