日銀とは無関係?円高から円安への反転劇を演出した「主役」は誰なのか

2023年の年明け早々に130円を大きく割れた米ドル安・円高が何だったのかと思うほど、2月以降は米ドル高・円安に大きく戻してきました。なぜ円高は行き詰まり、そして大きく円安に戻したのか−−この円安への反転劇の「主役」について、今回は述べてみたいと思います。


円安は日銀とは無関係

「年明け早々に130円割れの米ドル安・円高となったのは、日銀がサプライズで金融緩和の見直しに動いたため。でも、その後大きく円安に戻してきたのは、黒田日銀総裁の後任候補となった植田和男氏が、金融緩和の見直しを急がなそうな見通しになってきたため」

このように考えている方がいたら、それは間違いでしょう。図表1は、米ドル/円に日本の10年債利回りという金利を重ねたものです。ちなみに、ここでの米ドル/円のグラフは、上がると円高(米ドル安)、下がると円安(米ドル高)という意味になります。

2022年12月に、日銀は図表1にある日本の10年債利回りの上限を0.25%から0.5%に拡大することを決めました。赤色の折れ線グラフがその10年債利回りですが、上限を拡大したことで0.25%から0.5%に急騰し、それに連動した形で青色の折れ線グラフの米ドル/円が円高(米ドル安)になっていることが分かるでしょう。これが、「日銀サプライズで円高になった」と言われた動きです。

ただし、その後も日本の10年債利回りは0.5%近辺での「高止まり」が続きました。「黒田日銀総裁の後任候補となった植田和男氏が、金融緩和の見直しを急がなそうな見通しになってきた」ことに金利が反応するなら、普通は下がるのではないでしょうか。

しかし、金利が高止まりを続けたということは、「新しい日銀の体制でも金融緩和の見直しを急がない」と、実は信じていない可能性すらありそうです。そして、米ドル高・円安の動きは、そんな円金利の「高止まり」を尻目に起こったものでした。

2022年12月の「日銀サプライズ」による円高と考えた方たちは、その後円安になったことも日銀の影響が大きい、つまり金融緩和見直しを意外に急がなそうとなってきたことによるものではないかと考えがちかもしれません。

金融緩和の見直しは、まずは金利に影響し、それを通じて為替相場に影響するのが基本です。為替の動きから逆に推測する、つまり円安になっているから金融緩和を続けそうだとか、円高になっているから金融緩和を見直しそうといった思考ですが、冷静に考えたらその思考は順番が逆だということに気づくでしょう。

米ドル高・円安の主役は?

図表1を改めて見ると、2月以降大きく米ドル高・円安に戻した動きは、日本の金利とは無関係、その意味では日銀の金融政策とも基本的には関係ない動きの可能性が高いと言えるでしょう。では、なぜ米ドル高・円安に戻すところとなったのか、その答えは図表2を見るとよく分かります。

これは、米ドル/円に米国の金利(2年債利回り)を重ねたものですが、両者はとてもきれいに重なり合ってきたことが見て取れます。つまり、円金利とほとんど無関係に起こった米ドル高・円安の動きは、米金利上昇に連れた結果だったと言えるでしょう。

「それにしても、ここまで米金利が上がるとは思っていなかった。その意味では、予想以上の米金利上昇で、予想以上に米ドル高・円安へ戻すところとなったわけですね」

そう考える方がいたら、それは間違いというほどではなさそうですが、「予想以上の米金利上昇」という部分は、少し紐解いてみたいところですね。

先ほどの図表2で米ドル/円に重ねた2年債利回りという金利は、基本的に金融政策を反映して動く金利です。米国の金融政策を行う中央銀行はFRB(米連邦準備制度理事会)ですが、そのFRBが決める政策金利はFFレート。そこで、米2年債利回りとFFレートを重ねたのが図表3ですが、両者は基本的に連動していることが分かるでしょう。その上で、青色のグラフで表示した米2年債利回りがオレンジ色のグラフで表示したFFレートに対して先行する関係となっています。

米2年債利回りは基本的に政策変更を先取りして動くので、FFレートを引き上げる、つまり利上げの前には米2年債利回りが先に上昇し、利下げの場合はその逆ということになります。

ところで、2022年末から2023年が始まる頃にかけて、米2年債利回りはFFレートを下回って低下しました。これまでの説明からすると、それはFFレートが引き下げられる、つまり利下げを先取りした動きと言えるでしょう。

ちなみにこの頃、FFレートを決めるFRBは、2023年中の利下げの可能性を否定していました。ところが、上述のように米2年債利回りは早期の利下げを先取りするように動いたわけですから、「FRBは間違う」と言っているようなものでした。

ところが、とくに2月以降発表された1月の米経済データは予想より強い結果が続き、FRBが言っていたように2023年中は利下げを行わない可能性が高まり、それどころかFRBが想定していた以上に利上げを行う必要も注目され始めました。

どうやらここまでのところで「間違っていた」のは、FRBではなく金利市場の可能性が高くなりました。この結果、米金利は下がり過ぎた分の反動も後押しする形で大きく上昇し、それこそが2月以降の大きな米ドル高・円安へ戻す動きを演出したということになるのではないでしょうか。

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